第二十四話 承認
※長めです
——ロステルラッテ 冒険者ギルド内——
(あそこで終わったのは僥倖だったな・・・)
シュンは先程の試合を思い出していた。
『列掌波』が打ち込まれた後にまだ試合が続行していたならどういう風にアクションを起こすかシュミレーションをしていた。
シュンは『列掌波』を避けて油断しているうちに電光石火の如く左手の拳で鳩尾に一発打ち込む予定であった。
しかし実際は、キャサリンが『列掌波』を使いボロボロであったため敗北宣言をしてシュンの計画は霧散してしまったのだ。
だが、避けて油断を誘うことすら叶わなかった。
シュンの予想以上にキャサリンの動きが速かったのだ。
これはシュンの失態であり、力量不足でもあった。
(まだまだ未熟だな・・・)
そう思いながらほくそ笑んでいると・・・、
「シュ〜ンッ!!!」
「お、フィーアか」
シュンが反省していると目の前からフィーアが走ってきた。
「お疲れ〜! 勝てるって思ってたよ!」
「何を当たり前な事言ってんだ」
「ふふふ、そう言うと思った」
フィーアはシュンが負けるはずがないと思っていたので目立った外傷がないことに安堵の息を吐いた。
だが、喀血をしていたので何かしらの怪我があると思いシュンに聞いてみる。
「そう言えば吐血してたけど大丈夫?」
「あぁあれな、もう完治したぜ。治癒能力もかなり上がったみたいだ」
「どんどん人離れしていくね・・・」
「元は人間だけどな」
【グリフィルの血】を飲んだことで純粋な人間から人間と魔人のハーフになったシュンは初代魔王の保有していた〝完全自己再生〟の効果により、〝完全〟程ではないが常人よりも速い治癒能力を持つようになった。
そのおかげで『列掌波』による内蔵破壊も快癒していたのだった。
フィーアは回復魔法が使えるのでシュンが怪我しても直ぐに癒せる自信があったのだが治癒能力の高いシュンからすればあまり意味のなさないものであった。
そのためフィーアは少し寂寥感に駆られるのだが、シュンはそれを察して励ますのだった。
「まぁ気にすんな。流石の俺も四肢欠損とかだと治せねぇからよ。もしそうなった時には頼むわ」
「四肢欠損なんかさせないよッ! でも任せて、傷ついたら直ぐに治してあげる!!」
フィーアはシュンに頼まれたため満面の笑みを浮かべながらそう言い放つのだった。
そんなふうに二人の世界が展開されていると、
「あのーお二人さん、よろしいかな?」
「「ッ!?」」
完全に蚊帳の外であったスージョがシュンとフィーアに声をかける。
邪魔をしたのが悪いと思っているようで、申し訳ないという謝罪オーラを放ちつつも続け様に話す。
「まずはキャサリンに勝ったのはおめでとう。まさか勝つとは思ってなかった」
「ふん、当然だろ」
シュンはスージョのことがあまり気に入らなかった。
それもそのはずであり、山登りに竜退治とかなりハードなスケジュールで肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していたため、今日は早く帰ってゆっくり休みたかったのだ。
そのために【収納袋】をなるべく早く手に入れて帰ろうとしたのにそれが叶わなかった。
それをさせなくさせたのがスージョだった。
スージョは売らないどころかキャサリンと模擬戦までさせたのだ。
目まぐるしい一日に追い打ちをかけたスージョを恨まない訳にはいかなかった。
スージョもシュンが自分のことが気に入らないことを悟り模擬戦を嗾けたことを謝罪した。
「悪かったな、いきなり模擬戦なんかさせて。だが、もうお前がFランクなんて言わねぇよ。というかSSランクでも怪しいくらいだ」
「高いランクなんかいらない。舐められない程度の実力を示せればそれでいい」
「まぁ坊主がそういうならそれで構わねぇけどな。」
「坊主じゃねぇよ、シュンだ」
「お、おぉ悪かったなシュン」
シュンは坊主と呼ばれることに快く思っていなかったため、スージョに自分の名を伝えることにした。
フィーアもそれに続いて自己紹介をする。
「私の名前はフィーアと言います。よろしくお願いします」
「フィーアちゃんだな、了解した」
ここでシュンは疑問に思った。
フィーアの正式名称であるグルラージの名を伏せたのだ。
「なぁフィーア、グルラージは言わなくていいのか?」
「ひゃッ!?」
小声でひっそりフィーアに聞くといきなり耳元で囁かれてびっくりしたのか変な声を発してしまった。
「どした?」
いきなり奇声を上げるフィーアを訝しげに見つめるスージョ。
それをフィーアは「おほほほ〜」と笑いながら誤魔化したのだ。
だがその後鬼のような形相でシュンを睨みつけるのだった。
「悪かったよ、いきなり声かけて。」
「ふんッ!」
「それでどうしてなんだ?」
「教えてあげないッ!」
「はぁッ!?」
結局その時はフィーアが不機嫌になってしまったため理由を聞くことは出来なかった。
何故フィーアが名乗らなかったと言うとグルラージは貴族名であるからだ。
グルラージ家はロステルラッテ国でも上位の貴族で爵位は伯爵であった。
顔こそはバレていないがグルラージ家の令嬢が大魔人の一人であるというのはロステルラッテでは有名な話であった。
顔がバレていないのは単純にフィーアが目立つことを嫌っており、フィーアに甘いグルラージ家当主はフィーアが目立つのを避けたいと知ると、すぐさま娘の大魔人加入に対する箝口令を敷き情報を遮断させたのだった。
以上の理由により、今回スージョの前ではグルラージ家の名前を出すことはしなかったのだ。
もしグルラージ家の名前を出したなら珠が銀色に光りSSランクになったことも辻褄が合うし、何より自分が大魔人の一人だと知られてしまう。
そして何となくシュンに、父親が自分に対して甘いと知られることが恥ずかしいというのも一つであったのだ。
結局この場でフィーアがシュンに伝えることはなかったが、宿舎に戻る時には父親が親バカであるのことを伏せながら説明するのだった。
「それでシュンのランクカードをSSランクにしてやりたいんだがどうする?」
「とりあえず今日は【収納袋】だけ譲ってくれ。後日またギルドには顔を出す。もう今日は早く帰って寝たい」
シュンの顔は憔悴していて今にも倒れてしまいそうであった。
自分の生活に慣れないことを度々重ねたため肉体が悲鳴を上げていた。
「そうか、なら今日はもう帰れ。これが【収納袋】だ」
「以外に小さいんだな」
「軽量化しないと持ち運びに不便だからな。性能も国宝クラスだし、普通なら貸し出ししかしないんだよ。それでも100万ラッテもするんだ。とんでもねぇ待遇だよ」
「100万か・・・」
内心かなりの金額に一驚するが、性能を知るとそれ程不思議ではない。
見た目はただの麻袋だが中は黒い空間が広がっており、手を突っ込んでも底に手が届かない。
「物を入れるのもそうだが、取り出す時は欲しいものを想像しながら手を入れれば大丈夫だ」
「それだけでいいのか、本当に便利だな」
「それだけの価値があるのさ。ほら、早く帰って寝ろ。酷い顔してるぞ。そして次顔出す時はキャサリンにも挨拶しとけ。なんだかんだ言ってアイツお前のこと気に入っていたぞ」
スージョは肩の荷が下りたような表情をしていた。
まるで厄介事が他の人に乗り移ったことに愉悦を感じているようだ。
それがシュンの気に障ったのか、反撃するのだった。
「アイツ、お前の尻をガン見してたぞ」
「はぁッ〜!?」
その痩せこけた顔からは想像もつかないほどの声量を見せるスージョ。
その顔は焦燥というよりも困惑といったものだった。
「な、なんでアイツはお前のことを気に入ってるんじゃッ!」
「それでもやっぱりスージョって言ってたぞ」
「なんじゃそりゃッ〜!!!」
その雄叫びは昼間のウェンドラゴンの雄叫びを遥かに凌駕するものだった。
------------------------------------------------------------
——ロステルラッテ 工業区 鍛冶屋内——
シュンはギルドを後にし解体場で素材を受け取る際シルバから自分が解体したという証拠に手紙も一緒に受け取った。
その手紙を鍛冶屋の店主ことマルクスに渡せば、シュンがウェンドラゴンを討伐した証拠になると言っていた。
「おーい、チビジジイいるかー?」
「そんなでけぇ声出さなくても出てくるわい! というか俺の名前はマルクスだ!!」
そして今マルクスを大声で呼び出し、シュンに対して不機嫌気味に接客するのだった。
「まぁ名前なんかどうでもいい。素材を持ってきたから武器を造ってくれ」
「は?」
「なんだ、やっぱりジジイじゃねぇか。耳が遠くなったのが何よりの証拠だな」
「俺の見た目が老けてるのはドワーフだからだ! 俺はドワーフの中だとかなりの美形なんだぞ!!」
「そうかそうかそれで素材なんだが・・・」
「話を聞けッーー!!!」
魔界に亜人がいるのは珍しい。
亜人はどちらかというと獣人界に生息しているため人間界や魔界にいるのは多くはない。
そのうちの一人がマルクスであった。
だがシュンからすればそんなことどうでも良くて、ただことが早く済めば良いと思っていたのだ。
収拾がつくのに暫くかかり、やっと本題に入れることになった。
「それで素材を持ってきただと? 俺が言ったのは一昨日だぞ? 早すぎるだろ」
「これを見ろ、チビジジイ」
「またそう言いや、ってなんだその手紙?」
またチビジジイと言ったシュンにお小言を言おうとしたがシュンが手紙をマルクスに渡したため興味がそちらに向かった。
そもそも手紙、紙はこの世界では貴重である。
そんな紙をわざわざ自分に宛てるのだから余程重要なことに違いない。
マルクスはどういうことかとシュンに聞いたが説明するのが億劫だったので早く中を見ろと催促したのだった。
渋々封を開け手紙の内容を確認する。
年相応のためリテラシーはそこそこあるようで、シルバがこの手紙を執筆しウェンドラゴンを解体したということを理解しているようだ。
その証拠に無愛想な顔がどんどん歪んでゆき、我が目を疑うといった様になっていった。
「坊主、ホントにウェンドラゴンを退治したのか?」
まだ信じきれてないようで震えながら尋ねるマルクス。
だがシュンもこれ以上は素材を見せるしか納得させる手立てが無いので少し悩む。
「退治はしたが証拠は素材くらいしかねぇな」
「とりあえず素材を見せてくれ」
「場所が狭くて全部出せねぇぞ」
そこそこ広い店内でもウェンドラゴンの素材を出すとなったら少々心許ない。
しかしマルクスは、違うところに関心が逸れていた。
「坊主、出すってどういうことだ?」
「あ?、あぁこれだよ」
「なッ!?」
シュンは【収納袋】と言われる麻袋をマルクスに見せる。
マルクスはそれが【収納袋】と知るやいなや驚愕せざるを得ないのだった。
「それって【収納袋】じゃねぇか!?」
「声が出けぇ、チビジジイ」
「わ、悪ぃ」
率爾に声量が抑えられないため、シュンから怒られてしまう。
だが、興奮は治まらなかった。
「なんで坊主が持ってるんだ」
「貰ったんだよ」
「貰ったッ!?」
またもや驚天動地といったふうに大声を上げるマルス。
既に開いた口が塞がらない状態であった。
「で、どうすればいいんだ?」
「ま、まずはなんで坊主がそれを所持しているのかだ」
「チッ、面倒くせぇな」
「だったら私が説明するよ」
「お、じゃあ任せた」
気分が乗らないシュンにフィーアが声をかける。
シュンからすればまさに渡りに船であった。
マルクスも理由させ聞ければ良いといった表情であった。
そして【収納袋】がどのように手に入ったのかをマルクスに説明する。
その際にはSSランクのキャサリンを打ち破ったこともしっかりと入れたためマルクスは俄には信じられないといった顔をしていた。
だが【収納袋】を所持しているのが何よりもの証拠であったため口を挟むといった無粋なことはしなかった。
「事情はわかった。というか坊主なかなかの手練だったんだな」
「坊主じゃねぇ、チビジジイ」
「チビジジイじゃないって言ってるだろ、坊主」
ウェンドラゴンが討伐され、【収納袋】を所有していたことから、シュンの実力が認められたことは理解されても稚拙なやり取りだけは収まることは無いのだった。
面白い、続きが読みたいと思われた方ぜひ評価、感想、ブクマの方をよろしくお願いします。




