第二十三話 余裕
——ロステルラッテ 冒険者ギルド内 訓練場——
「はああああああああああああぁぁぁッ!!」
「なッ!?」
キャサリンは再度吶喊し、シュンに突撃した。
しかし先程の速度とは雲泥の差であり、予想外の速さに驚きが隠せないシュン。
実際、先程の突進は常人では反応できないほど速いもので、普通なら直撃するはずなのだ。
それでもシュンの中では、それ程速い部類には入らずフンフの動きに目が慣れていたため、それ程苦にはならなかった。
だが、制限を解除したキャサリンの動きはフンフと同様のものだった。
(模擬戦前の違和感はこれのせいか・・・。)
「チッ」
舌打ちをしつつも一糸乱れぬ拳撃を紙一重で避けてゆく。
現状、キャサリンが滅多打ちにしているのをシュンが既の所で回避しているといったものだった。
それでもシュンは冷静沈着に相手を見据え、行動に移るのだった。
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「おおッ!」
「アイツ、キャサリンの攻撃を避けてるぜッ!」
「なかなかやるじゃねぇかッ!」
「しかもキャサリンの本気の拳だぜ? 当たったら粉砕しちまうぞ」
「こりゃ避けるだけなら死んじまうな」
野次馬も血気盛んに食い入るように観戦している。
キャサリンを本気にさせたシュンを弱いと罵るものはいなくなったが未だにシュンが勝てるとは思っていないようだ。
「あの坊主なかなかやるじゃねぇか」
「当たり前です。まだ準備運動みたいなものですよ」
「あれでか? そりゃ冗談だろ?」
スージョもシュンの試合を観戦し唖然としていた。
彼は若い頃から強者として名を馳せており、魔界で3人しかいないSSSランカーのひとりであった。
そんな彼もキャサリンの実力は知っていたし、本気のキャサリンなら魔法攻撃に重きを置く自分なら避けたい相手だったのだ。
そんな化け物相手の攻防に未だに準備運動という言葉で片付けられたのは俄にも信じ難い事だった。
そして、フィーアはスージョにさらに追い討ちをかける。
「シュンは魔法に関しても一流ですよ。今回は使用出来ませんでしたが、もし使っていたら相手を殺していたかもしれませんね」
「・・・魔法も強いってなるとそれこそ本当の化け物だな」
本来、接近戦に長けているものが魔法に長けているのは極一部である。
なかには肉体強化魔法が使える接近型といった怪物も存在する。
その1人がキャサリンである。
だが、今回は使用できないため純粋な肉弾戦になっている。
そんなキャサリンでも肉体強化魔法が得意なだけである。
シュンのように接近型で豪然たる魔法を放つことなど、まずありえないのだ、
しかし、フィーアはそれがシュンには出来ると豪語している。
スージョは俄には信じられないのだが、今のところ模擬戦を行っているシュンの表情に焦りない。
むしろ、冷静に相手を分析しているようだ。
(こりゃ、やばいやつが出てきたな・・・)
頭では否定したくても目の前の現実からは逃避でにないのだった。
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「ほらほらッ! 逃げてるだけじゃ勝てないわよんッ!」
「ふん、なら当ててみろよ」
未だに攻防は続いており、キャサリンがシュンを攻撃しシュンが避け続けるといった状況であった。
(そろそろ決めにかからないと拙いわね・・・)
キャサリンの制限解除は限界がある。
いくら痛みに耐えることが可能でも未来永劫続くことは無く、持って5分と言ったところであった。
本来は魔法も使用できるため、速度も膂力も今より増加させることが出来るのだが今回はそれが出来ない。
だから早く決めの一手をシュンに打ち込みたかったのだ。
常人なら制限解除している状態のキャサリンの一撃は真面に食らった場合、木っ端微塵に弾け飛ぶほどの威力を有している。
それでもキャサリンはそれくらいしないとシュンは倒せない、いや、失礼と思っていた。
(この子きっとさんざん酷いこと言われたのねん・・・。これ程の実力なのに〝弱い〟って言われるのは腹も立つわん)
今でも涼しい顔で攻撃を躱すシュン。
その動作にFランクの面影など微塵も感じさせないのだった。
(この子に対しての謝罪の気持ちは言葉では表せないし、この子にも通じない。ならばせめて私が全力でぶつかることがこの子にとっても敬意になるッ!)
「これで決めるわんッ!!」
「やっとか」
「私の本気を受け止めなさいッ!」
「来い!」
「『列掌波』ッ!」
ドンッ!!
キャサリンはそう言うと右手を後ろに引き、シュンに向かって思い切り突き出した。
神速の一撃にシュンは模擬剣の腹で受ける。
その刹那、模擬剣は粉砕し砕け散った。
そして拳の風圧と威力によりシュンは吹っ飛ばされてしまう。
「グッ!」
シュンは吐血し地面に膝をつく。
直で腹部にでも食らっていたら穿孔していただろう。
「やるじゃ、ねぇか・・・」
「なッ!?」
キャサリンは驚愕した。
今使った技『列掌波』は、彼女の技の一つであった。
普通は対人戦で使うものではなく、殺傷能力が高いため魔物にしか使うことはないのだが、今回は恭敬としてシュンに使ったのだ。
『列掌波』は全力で右ストレートを打ち込むといったシンプルな技である。
だがこの技は貫通能力が高く、キャサリンが日進月歩、稽古して会得したものである。
そのため常人が食らって意識を保てるわけがないのだ。
実際過去にキャサリンが他の魔人とトラブルになり、この技を使って怪我をさせたのは今でも脳裏に焼き付いている。
それ以来人に技を放つのを封印していたのだが、今回だけは使用した。
そしてそれをシュンは防いだのだ。
「あんたこそ、あたしの、この技を食らって、意識を保ってるなんて、化け物よ・・・」
キャサリンはそう言いながら膝から崩れ落ちた。
怪我をさせるのを承知で使用したが、本当に耐えてしまった姿を見ると動揺せざるを得ない。
「ぺっ、確かにお前の技は強かった。だが、それ以上に俺が強かったって話だな。ほら立てよ、次は俺が一発デカいの食らわしてやる」
シュンが喀血しながらキャサリンに言う。
だがキャサリンは涼しい顔で首を横に振った。
「あたしの負けだわん。もう立つことも儘ならないし、そもそも最初の時点で負けてる。あんた本気出してなかったでしょ?」
「さて、どうかな?」
「ふふふ、あんた気に入ったわん。あたしのパーティに入れてあげるわよんッ!」
「いや、いい。」
「なんでよッ!」
土の抉れ、シュンの喀血や模擬剣の残骸など、惨憺たる光景が広がるが、流れる空気は何処か清涼としていた。
「た、ただいまの試合、キャサリンさんの辞退宣言により勝者シュンさんとなりますッ!!」
カルナはただ状況を整理するのに暫し時間を有するのであった。
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「勝っちまった・・・」
「お、俺キャサリンがあの技を魔人に使ったの初めて見たぞ・・・」
「俺も・・・」
「というか、なんでアイツ生きてるんだ?」
「知らねぇよッ! 新しい化け物の誕生だぁ!!」
野次馬達は今の試合を見て大盛り上がりである。
まさかシュンが勝つとは思っていなかったため、予想外の展開となってしまったのだ。
「おいおい、あの技を使うのは置いといて勝っちまったじゃねぇか・・・」
「当然ですね!」
スージョも戦闘の中盤でシュンの実力は認めていた。
それでも『列掌波』をキャサリンが使うこと自体も驚き、さらにそれを食らって思いの外平静を保っているシュンにはそれ以上に驚愕してしまう。
フィーアはシュンが勝つことは必然であると言わんばかりに胸を張ってシュンを迎え入れる準備をするのだった。
次回、そろそろ鍛冶屋に行きます。
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