第二十二話 挑発
——ロステルラッテ 冒険者ギルド内訓練場——
「こんな所もあったのか」
シュンが口にしている場所は冒険者ギルドの奥にある訓練場だった。
ロステルラッテ場内の訓練場程ではないが、広大な敷地であるのは変わりなかった。
客席も存在しており観戦することもできるようで、そこにフィーア、スージョ、大勢の野次馬が見物していた。
「なぁどっちが勝つと思う?」
「そりゃお前キャサリンに決まってんだろ?」
「だよなぁ。あんな見た目してても実力は確かだもんなぁ」
「「怪力ドラァグクイーン」の名だけあるもんな」
キャサリンは奇抜な見た目とは裏腹に誰も寄せつけない膂力で敵を屠る姿からこのような2つ名で呼ばれていた。
フィーアはキャサリンなど眼中に無かったがシュンが〝弱い〟と暗示しているような発言が癇に障ったようで男達に突っかかった。
「絶対シュンが勝ちます」
フィーアは語気を強めてそう言い放った。
勿論、野次馬している男達はフィーアの言ったセリフが面白かったようで、
「うひゃひゃひゃひゃッ! 聞いたか? 〝勝ちます〟ってよ!」
「聞いた聞いた! 勝てるわけねぇのになッ!」
しかしこれだけ笑われて、ましてやシュンの事なのにフィーアは冷笑した。
「ふふふ、この試合後が楽しみです。」
フィーアはそう静かに言いながら、一人ほくそ笑んだのだった。
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そしてフィールドに立つ主役はシュンとキャサリンである。
「怖いなら止めても構わないわん」
「怖い? 確かにその格好は怖いな」
「あ?」
シュンがそう言った瞬間、場の空気が引き締まる。
「あんた、今なんて言ったの?」
「あ? だからお前の格好が怖いって言ったんだよ。ちゃんと聞いとけ、筋肉ダルマ」
シュンは以前フンフからいくつかのアドバイスを聞いていた。
それをつい先程思い出していた。
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「——シュン、もし対人戦に縺れ込む時は、とにかく相手を挑発するッす」
「なんでですか?」
「挑発されると相手は理性が保てなくなるッす。そうなると視野が狭くなって、攻撃が単調になったり柔軟な技が撃てなくなるッす」
「でもそれって危険なんじゃ・・・」
シュンがそう言うと、今までお気楽に説明していたフンフの情調が変化した。
「危険なのは当たり前ッす。そもそも対人戦で命を賭ける闘いになったらそれ自体が危険ッす。シュン甘えるなッスよ。闘いは最初から始まってるッスからね——」
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(まずは相手の視野を狭める。そして正常な判断をさせなくさせるか・・・。前の俺なら無理だな。相手に遠慮して何も出来なそうだ)
シュンが自嘲気味に思っていると、
「あんた、あたしを怒らせたわねん? この素晴らしいファッションセンスを馬鹿にするなんて許せないッ!」
キャサリンはシュンに怒気を飛ばす。
しかし、業腹なキャサリンにさらに油を注ぐ。
「はははッ!、こちとら真面目に勝負するんだ。そんなサーカスみたいな格好している奴にまともに取り合う訳ねぇだろ」
「サーカスですってッ!? この姿は見世物じゃないのよん! 撤回しなさいッ!!」
「お前が勝てたらしてやるよ。筋肉ダルマ」
「ムキィィィィィィィ!! もう許せないッ!Fランクだからって手加減してやらないんだからッ!」
「手加減なんぞ要らん。さっさとかかってこい」
(よし、釣れた)
シュンはそう思いながらほくそ笑んだのだった。
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「そろそろ開始してよろしいでしょうか?」
お疲れ様です、カルナです。
今回は模擬戦の審判をさせてもらいました。
理由は一番近くで模擬戦を見れるというのと、1番早く止めることが出来るからです。
私が注目しているのは勿論シュンさんです。
正直今焦っています。
だってあのSSランカーのキャサリンさんを挑発しているんですよ!?
心配しないわけないじゃないですか!
止めようにもそんな雰囲気じゃ無いですし、仕方ありません。
開始早々幕を引きましょう。
絶対シュンさんの命が危ないです。
キャサリンさんはあんな感じですが腕は確かです。
彼女はあの「怪力ドラァグクイーン」なんです。
一般人なら勝てる訳ありません。
そんなことを考えていたらシュンさんもキャサリンさんも開始していいと合図をくれました。
彼らには既にルール説明をしたので後は開始するだけです。
では、ルールを御復習いしましょう。
——ルール——
1、魔法等の使用は禁止する。
2、回復薬や肉体強化といったアイテムの使用を禁止す る。
3、相手を殺してはならない。(殺した場合その場で魔王連合軍に連行され、冒険者登録を剥奪される。)
4、試合時間は10分。延長は認めず、勝敗のつかない場合はギルドマスターの審査によって決まる。
5、危険だと見なされた行為や、上記のルールを犯した場合、即刻負けとみなす。
6、武器は模擬剣か無手のみ。
とりあえず上記のルールを守るなら大丈夫です。
でも、キャサリンさんは武闘家です。
本職が拳の時点でかなりシュンさんは不利なんです。
それを知ってか知らずか挑発など愚の骨頂です!
有り得ません!
おっと熱くなりました。
なんだかシュンさんを見ると庇護欲に駆られるんですよね。
本人は余計なお世話だと感じてしまうと思うんですが。
何はともあれ早く始めないと、この剣呑とした雰囲気はさらに悪化してしまいます。
それでは始めましょう。
「始めッ!!——」
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「はあああああああああぁぁぁぁッ!!」
フィーアが口火を切った途端、劈頭第一にキャサリンは吶喊した。
そして、猛スピードでシュンに驀進した。
シュンはその様を見て、
(まるで昼間の猪だな)
と余裕をかましていた。
そして、シュンは真正面から突撃してくるキャサリンを見据えアクションを起こす。
「ッ!?」
キャサリンは困惑した。
目の前にいたはずのシュンが忽然と姿を消したのだ。
そして背後から首元への攻撃に既の所で気づき、直ぐに距離を離した。
「ほう、避けたか」
ニヒルに笑うシュンに背筋を凍らすキャサリン。
「あんためちゃくちゃ強いじゃないッ!」
「そもそもいつ俺が弱いと錯覚したんだ?」
シュンはFランクである。
だがそれは神(悪魔)のせいでそのような結果になっただけで中身はデスマーチを乗り越えた化け物であった。
キャサリンは一撃で決まることこそ無かったが、シュンが魔法を使い身体強化を施していたら自分は死んでいたと悟る。
そう思うだけで震えが止まらなかった。
今シュンは視野の狭くなったキャサリンの背後に高速移動し首元を掻っ切ろうとしたのだ。
実際は掻っ切ってしまうとルール上拙いので、峰打ち程度で済ます予定だったが、その時のシュンの殺意は本物だった。
キャサリンは今の一連の流れでシュンがどれほどの手練か理解した。
そして、開始前から仕組まれていたと悟り笑いだしたのだった。
「あははははッ! あんたやるじゃない! あたしを怒らす所から全部仕込んでたのねん! 面白いじゃない!」
「さぁな、何を言っているのか分からんな」
「白を切らなくていいのよん。もう分かったことだし。あんたは十分強い。あたしも本気で行かせてもらうわん!」
「ほう、なら先程の技は手加減していたと?」
「いいえ、あれは本気だったわよん。でもそれは制限のかかっていた状態でってこと」
「制限?」
キャサリンの言うことが理解出来なかったため、シュンは顔を顰めた。
キャサリンのいう制限とは人間、ここでは魔人もそうだが、肉体には制限がかかっている。
それはそこまでのラインを踏み越えた場合、肉体が
持たないため予め抑制するようにできているのだ。
キャサリンはその抑制されている状態を解除し、その状態で本気を出そうとしていたのだそうだ。
「だから次はその制限を解除して相手してあげるわん」
「だがそれだとお前の肉体が持たないのではないか?」
「あたしの体はそんじょそこらの魔人と違って丈夫に出来ているのよん」
キャサリンは強靭な肉体を保有している。
それがキャサリンの天賦の才であった。
その拳は何よりも硬く、何もかも貫くと言われ、一般人なら耐えられない負荷もキャサリンなら耐えることが出来るのだ。
そして今、全身全霊を持ってシュンにぶち当たると豪語しているのだ。
(うわ、めんどくさいことになったな)
直ぐに終わると思っていたシュンも面倒くさい事態に
陥ったことに嘆いたのだった。




