第二十話 解体
——ロステルラッテ 冒険者ギルド裏 解体場——
「では、後はシルバ夫妻にお任せします。後で絶対にギルドの方へ来てくださいね?、シュンさん」
「お、おう」
「これはまた凄いのう・・・」
「そうですねぇ・・・」
カルナにそう言われ少し動揺するシュン。
それを尻目に見つつカルナは去っていった。
感嘆しているのは「シルバ夫妻」と呼ばれる者達で、解体場の責任者であった。
長年夫婦で解体業を営んでおり、腕の良い解体業者と言えばと聞くと、シルバ夫妻と返ってくるほどの腕の持ち主であった。
そんなシルバ夫妻でもSランク推奨のウェンドラゴンが丸々解体場に運ばれる程など滅多になく息を呑むのだった。
「折角だし、解体作業でも見学するか」
「そうだね、これからの参考になるし」
「君達がコイツを倒したのかのう?」
「あぁそうだ」
「いえ、正確には倒したのは〝シュン〟です」
「また、その話か・・・」
ここまでの道中フィーアはずっとシュンの手柄だと一点張りだった。
そこでシュンがだした妥協案は、
「だから俺達2人での成果だろ?」
「むぅ〜。納得いかない〜」
「可愛く言ってもダメだ」
「か、かわ、可愛いッ!? きゅ〜」
「またこれか・・・」
「あらあら、うふふ・・・」
どうやらシルバの妻、ラークはフィーアの感情を悟ったようだ。
残念ながらシルバの方はウェンドラゴンをどう解体しようか唸っているため、2人のことなど眼中になかったのだった。
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「そういえば解体作業を見るのは初めてかのう?」
「そうだな、だが別に問題ないぞ。耐性はあるからな。」
「私も特に問題ないですね」
「そ、そうか・・・」
普通解体作業は好ましいものでは無い。
余程の物好きでなければ見学などするはずがない。
だからシルバは2人が解体作業を見たいと言ったため、念の為気持ちの良いものではないから見るのはやめた方がいいと示唆しようとしたのだが、本人達は涼しい顔をしていた。
(余程の肝っ玉なんじゃろうな・・・)
そう考えながら、ふさふさの顎髭を弄るシルバ。
「ならさっさと済ますかのう」
「そういえば幾らだ?」
「料金は普通依頼料金からの差し引きなんじゃが、こういった個人での魔物の解体は大きさによって変わるんじゃよ」
「なるほどな、でどれくらいだ?」
「そうじゃのう・・・、5000ロッテか銀貨5枚で構わん」
「そんなに安くていいのか?」
「ウェンドラゴンの解体なんぞなかなかできることじゃないからのう。久々に腕の鳴る仕事が転がり込んできて嬉しいんじゃ。」
どうやらかなりの仕事中毒者だとシュンは予想し、安いに越したことはないので快諾した。
「分かった、今払うか、後で払うかどっちがいい?」
「後で払ってくれると助かるのう。もう解体したくてたまらないんじゃ」
「そ、そうか・・・」
シルバはラークと共にウェンドラゴンの元へと向かい作業を開始した。
まずはウェンドラゴンを吊るし、頭を大型の解体用刃物で切断した。
凄惨な光景だが血抜きは必須なため、一般人なら吐き気を催すかもしれない状況だった。
それでも、地獄のトレーニングを積んだシュンはじっと解体の手さばきを見据えていた。
(早い上に丁寧な切断だな・・・、切れ目に跡が残っていない)
頭の中で猟奇的な実況が行われる。
シュンの真剣な眼差しにフィーアは釘付けだった。
(すごい・・・、なんて凛々しい顔なの・・・)
惨烈な状況を真面目に見るシュンを、恍惚とした笑みで眺めるフィーアという恐ろしい図が完成していた。
そんな茶番が繰り広げられている間にも解体は進む。
最終的に、頭部は目や牙も抜き取られ、鱗も綺麗に剥がされ、鉤爪、両翼、尻尾、ウェンドラゴンの肉というふうに解体され、全ての工程が終了していった。
中にはお宝もあったようで・・・。
「これはウェンドラゴンの【竜玉】じゃよ!」
【竜玉】とは竜の体内に眠る珠であり、見た目は青く輝いている。
なかなか市場にも出回らなく高値で取引されており、武器や防具の鍛造時に埋め込むだけで最高級の物が造れると言われている。
そんな稀有な物を見つけ興奮しつつも作業は続き、3時間ほどかかったがシュンはなかなか良いものが見れたと満足し、フィーアはシュンにもたれかかって眠っていた。
「コイツ・・・、本当に変わっちまったな」
「むにゅ〜、まだ食べられるよ〜」
「食べられるんかい」
フィーアの寝言がお約束と違っていたため、ついツッコミを入れてしまったシュン。
「おやおや、疲れて寝てしまったかね」
喜色満面といった表情でラークは二人のもとへと近づく。
「もともとこんなにだらしのない奴じゃなかったんだけどな」
「信頼されている証拠じゃよ」
「まぁ友達だからな」
シュンは性格が変わってからそうそう人前で表情を崩すことは無かった。
自分の好きな物や興味を持つ物、例えばケルー山脈で『収納』や『転移』について聞いた時は、獰猛な笑みを浮かべていたが、それ以外は大抵仏頂面であった。
そんなシュンがサーラにそう伝えた時、口角がやや上がったのをサーラは見逃さなかった。
だが、それを言うのは稚拙な行為だと思い口にはしなかった。
(お嬢ちゃんも難儀なもんだねぇ。この子は大変だろうねぇ)
寝ているフィーアに同情しつつサーラはその場を去るのだった。
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「さて、これからどうするか・・・」
「よくよく考えたら種類が多すぎて持っていけないもんね。流石に『風陣』を使う訳にはいかないし・・・」
彼らは困っていた。
素材の扱いについてである。
持ち運ぶことも出来ないので処理に困っていたのだ。
するとシルバが彼らに言う。
「素材ならギルドが高く買い取ってくれると思うぞ。だがウェンドラゴンの肉は結構美味だから売らない方が賢い選択じゃ」
「いや、売りたいわけじゃないんだ。ある人物に持ってこいと言われてな」
シュンは事の発端をシルバとラークに語った。
すると、2人共鍛冶屋の主人と知り合いらしく、
「おお、「マルクス」のことじゃな。気難しい奴じゃが腕は確かじゃ」
「そうですねマルクスさん、最近ろくな奴がいないって騒いでましたもんね」
どうやら鍛冶屋の主人の名はマルクスと言うらしい。
マルクスは鍛治職人として優れていたが、武器を持つ若者が腑抜けしか居ないことに嘆いており、腕の立つ者以外自分は造らんと言っていたそうだ。
その時に偶然シュンが来店したため、実力も神(悪魔)によってまともに把握出来ず今回のような騒動を引き起こしたようだ。
「そういう事だったのか」
シュンはマルクスの事情を聞き、冷遇された顛末を理解した。
「なるほどのう、マルクスの店に素材を持っていかないといけないのかのう」
「そうだが何か方法はあるか?」
「ちっとばかし、高くつくと思うが聞くかのう?」
「金には余裕があるし構わねぇ」
「そうかそうか、それはのう・・・」
シュンはそれを聞き、口角を吊り上げたのだった。
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