第十九話 杞憂
——ケルー山脈 山頂——
フィーアの機嫌が治った頃、
「なぁフィーア」
「何?」
「ホントに口調変わっちまったな。違和感凄いぞ」
「う〜ん、今更元に戻すのもあれだし・・・。それともシュンはこの口調嫌い?」
「いや、別に構わねぇ。どちらかと言うとそっちの方が自然体で良いしな」
「ふふ、良かった」
「ッ!?」
「どうしたの?」
「・・・なんでもない」
フィーアが微笑んだ時、シュンは不覚にもときめいてしまった。
(くそ、可愛いな・・・)
恥ずかしくて口が裂けても言えないことを考えていると、本当に伝えたかったことを思い出した。
「えっとな、フィーア。あまり俺を過信するなよ?」
「ん?どういうこと?」
シュンは少しフィーアを心配していた。
フィーアはシュンの実力を知っていてウェンドラゴンを簡単に倒せると鍛冶屋の店主や受付嬢のカルナに啖呵を切っていた。
事実倒せたことは良かったが、シュンはフィーアの無鉄砲な所を危惧していたのだ。
ましてやメイド服という軽装だ。
だからこそ、いざと言う時に動けず今回のような目に遭ったのだとフィーアに伝えた。
「ごめん。今回は私も調子に乗ってた」
「いや、分かってくれたならいいんだ」
「でも、1つ訂正させて?」
「なんだ?」
「私が向こう見ずな行動をしたのは今回の件で反省してる。でもこの服は悪くないの。本当に機能面は優れてるし、攻撃を避けられなかったのも私の実力のせいだわ」
フィーアはこのメイド服に思い入れがあるそうだ。
フィーアの師匠からの贈り物らしく、今までこの服に助けられた場面も少なくないそうだ。
それを聞くとシュンは説教をする気が失せてしまった。
(なんだかんだ言って俺はフィーアに甘いな。でも、こんな泣きそうな顔をされると何も言えねぇだろ・・・)
フィーアはすでに涙目でシュンを見つめていた。
シュンは女の涙に弱く、ナナが泣いた時もオロオロと何も出来ないことを思い出した。
(結局根は変わらねぇか・・・。少しはマシになったと思ったんだけどな・・・)
シュンは自分の本質と向き合いつつ、フィーアに言う。
「分かったからそんな顔すんな。もしあれだ、その・・・、危なかったら俺が、守ってやるから」
顔を朱に染め自分でも柄じゃないセリフをフィーアに伝える。
シュンが忸怩たる思いになっていると、
「まも、まも、まも、まもる、まもるって・・・」
「おい、フィーアッ!?、大丈夫か!?、そんな顔を赤くして!?」
「きゅ〜」
「この状況どうすりゃいいんだよ・・・」
フィーアはそのまま気絶してしまった。
手に余る状況にシュンは独りごちるしかないのだった。
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「でもコイツどうやって運ぶんだ?」
「う〜ん」
意識を取り戻したフィーアとウェンドラゴンの持ち運びについて話す。
実際ウェンドラゴンは全長10m程あり、少なくとも持ってギルドに運ぶのは不可能であった。
だがフィーアは閃いたようで、
「魔法を使えばきっといける!」
「そうか!『風陣』か!、だが、長時間使用して大丈夫なのか?」
「1回発動すればずっと使用可能なの。でも、『収納』には適わないよ」
『収納』は魔王が使用していた空間に関与し、異空間に物を収納する魔法である。
「やっぱり『収納』を使うやつは少ないのか?」
「そうだね。魔王様は使えるけど『収納』を使える人はほんのひと握りか優秀な魔法使いくらいだろうね。『転移』とかもそのひとつだし」
「『転移』ッ!?」
「キャッ!?」
「あ、すまん」
「いや、別に、嫌じゃな・・・」
「なんだって?」
「うるさい! バカシュンッ!!」
「な!? また馬鹿だと!」
また茶番を繰り返す。
それでも言い争ううちにお互い疲弊して論争を諦めるのだが、
「まぁ俺がバカかどうかは置いといてだ。『転移』は魔王も使えるのか?」
「いや、使えないよ。そもそも『収納』も『転移』も使えるだけで有名人だしそれだけで将来安泰なんだよ?」
「そうなのか・・・」
「でも『転移』ならアハトが使えた気がする」
「やったぜッ!!」
シュンは魔王とアハトに『収納』と『転移』を教えてもらおうと画策した。
「じゃあ色々落ち着いたら習いに行くのもいいかもね」
「そうだな善は急げだ! まずはコイツを持って行くぞ!」
「なんでそんなにテンション高いの・・・。持ってくのも私なのに・・・」
(でもシュンが嬉しそうなのはこっちも嬉しくなるからいいけどね・・・)
言葉とは裏腹にシュンが笑みを浮かべている姿はフィーアには好ましく映るのだった。
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——ロステルラッテ 冒険者ギルド内——
こんにちは、受付嬢のカルナです。
シュンさんとフィーアさんが昨日訪ねてきて、ウェンドラゴンについて情報を聞きたいと言ってきた時、私は心配で顔を暗くしてしまいました。
フィーアさんはSSランクですから心配いらないんですが、問題はシュンさんです。
彼はFランク。
いくらフィーアさんに着いていくと言っても危険なことには変わりありません。
ましてや、あのような装備です。
今でも心配しています。
「カルナちゃん、これ!」
「おい! 俺が先だぞッ!」
「うっせぇ、俺が先だっただろ!」
「あぁやんのか?」
「おぉ、お前表出ろや」
私が感傷に浸るっていると、冒険者の男2人が争いだしました。
こんな光景、日常茶飯事なんですけど問題を起こされるとこっちもたまったもんじゃないので、速やかに処理しなければいけません。
「2人共、もう既に依頼は処理致しましたから」
「「はやッ!?」」
私は処理能力が人より少し長けているから、こんな揉め事直ぐに収めることが出来るのです。
「よし、依頼の受理は済んだ。だから表出ろ」
「望むところだ。思う存分相手してやるぜ? 本気出さなくても勝てるけどな」
「おいおい、余裕こいていられるのも今のうちだぞ?」
あちゃ〜。
これは追い討ちかけちゃいましたね。
でも、仕事は済ませましたしギルド外の揉め事は当事者同士の問題になるから私はもう関係ないですね。
「よしこっち来い、ってなんだこれッ!?」
「あぁ?、うぉぉぉぉぉぉッ!?」
「ッ!?」
ギルドの入口はかなり広いです。
体格の大きい人や、沢山素材を運ぶ人もいるため大きく設計されているのですが・・・。
「やっと着いたな。だがなんでみんなこっちを見てるんだ?」
「そりゃこんなの運んでたら普通驚くと思うよ。」
「そうなのか?」
「普通は【収納袋】とかに入れたり、必要や部位を切って運ぶんだよ」
「それ早く言えよッ!?」
驚きました。
空飛ぶ竜の上にカップルが乗って夫婦漫才しながら入ってくるんですもん。
しかも下から風が轟々と吹き荒れてるし・・・、
って、あれウェンドラゴン!?
つまりじゃああの人達は・・・。
「おーい、これどうすればいい?」
「シュンさんッ!? これは一体・・・。とにかくギルドの裏に解体場がありますからそこに行きましょう!」
竜の方を見るとピクリとも動かず、目も開いていないことからどうやら既に死んでいるようです。
浮いているのも風魔法の一種だろうと予想出来ました。
それにしても異様な光景です。
私が解体場を案内すると、彼らは宙に浮かぶ体制を保ちながら外へと出ていきました。
どうやら邪竜討伐は杞憂だったようです。
フィーアの喋り口調が統一できない・・・。
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