第十六話 節穴
追記
第二十話と第二十一話を繋げました。
内容に変更はありません。
——ロステルラッテ 工業区——
「はぁ・・・、はぁ・・・」
「はぁ・・・、はぁ・・・。なんで、走っ、たんですか・・・」
「あいつは、拙い、だろ・・・」
あの後、全速力でその場を離れ東にある工業区まで来ていた。
次第にうるさい心臓の音も収まりつつあった。
「ふぅー。じゃあ武器とか防具買いに行くか」
シュンは魔王から金銭を頂戴していた。
なんでも、シュンに黙って酷い訓練をしたことを気にしているそうだ。
シュンはそれを受け取る訳には行けないと断った。
しかし、魔王曰く、1度渡そうとした金銭をまた元に戻すというのを、この国のトップがやられると体裁がと言われ、渋々受け取ったようだ。
受け取った金額は白銀貨5枚、日本円で500万円である。
ここでこの世界、いや魔界の通貨について説明しよう。
魔界での通貨単位は「ロッテ」という。
魔界では硬貨でも取引されるし、カードを用いてロッテとしても売買が可能だ。
硬貨では、小銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白銀貨というふうになっている。
日本円で左から10円、100円、1000円、10,000円、1,000,000円というふうになる。
カードについてだがギルドカードがそのひとつだ。
実は冒険者ギルドは銀行のような役割もしており、硬貨を預けたり、「ロッテ」としてチャージすることができるのだ。
しかも利子などもなく、無償で預金できるらしい。
シュンはこれを知っていたため、ギルドカードにチャージする気でいたのだが・・・。
「逃げて来たから出来なかったな。いくらか預金して、大銅貨や銀貨とか持っておきたかったんだが・・・」
「白銀貨5枚っていうのはなんとも心許ないですもんね。早く済ませましょう」
「あぁ、そうするか」
そう彼らは言い、目に入った鍛冶屋に入るのだった。
------------------------------------------------------------
「誰もいないのか?」
「確かに、静かですね」
店内に入ると目の前にはショーケースがあり、剣や小剣、縦や槍など様々な武器や防具が並んでいた。
僅かながらシュンには見劣りする物が多いと感じた。
「あぁ? いらっしゃい」
すると、店の奥からずんぐりむっくりとした男が現れた。
恐らくこの店の店主だろう。
「悪いがオススメの剣は無いか?」
「あぁ? オススメ? 目の前にあんじゃねぇか」
「俺はお前自身が打った確かな物がほしい。このショーケースに入っているやつはあまり良くない物が多い」
シュンの言う通り、剣の細部を見ると研磨されていない所があったりと杜撰な物が多く見られた。
これはシュンが剣術を習うに従って、剣の目利きが上がったことが所以である。
「ほう・・・、よく分かったな。確かにこれは値段相応の価値しかねぇ。まだまだ未熟な俺の弟子達が打った物だからな。俺はいざという時にしか打たねぇ」
「チッ、じゃあどうすれば打ってくれる?」
「実力がなきゃ無理だな。せめて冒険者ならBランクくらいにならなきゃ打つ気にはならんな」
「なッ!?」
現在シュンのランクは最下位のFであるため、到底打ってもらうことは無い。
「クソッ!」
流石に理不尽な状況が続きに地団駄を踏むシュン。
「シュン、別のお店に行きましょう。多分この人、人を見る目が無いのかもしれません」
「なんだと?」
フィーアがシュンの気持ちを代弁すると、店主の方も気分を害したそうだ。
「おい、嬢ちゃん。俺の目が節穴って言うのか?」
「そうでしょう。本当の目利きならシュンの実力を間違えるはずありません。たかがランクで判断するなんて二流、いえ三流のやることです」
「お、おい、フィーア?」
どうやら、シュンよりこの状況に怒気を孕んでいたのはフィーアであった。
フィーアは止まらない。
「恐らく、弟子達に武器や武具を打たせているうちに目も腕も落ちたのでしょう。だから自分が打つのが怖いんですよね? そして適当な言いがかりをつけて帰らそうとしたんですよね? きっとそうです」
眼前の男はそこまでが限界であった。
「おい!! 嬢ちゃん!! それは言い過ぎだ!! 俺の腕は魔界一とも称されるものなんだぞ!!そんなボロクソに言われる理由はない!!」
「いえあります。だったらシュンの武器や防具を作ってください。シュンは魔界一最強と言っても過言じゃありません」
ヨイショされ続けるシュンはだんだん居心地が悪くなってきた。
「ふぃ、フィーア、もういい、行くぞ。俺は冒険者見習いだ。まだ、そんな強い武器は要らないし、魔法もある。弱いと思われるのは癪だが後でなんとでも言わせればいい。だから行くぞ」
「チッ、分かりました。行きましょう」
フィーアが店主に舌打ちをかまし、その場をあとにしようとすると・・・。
「おい、待て。」
「なんだ、まだあるのか?」
「だったら「ウェンドラゴン」を討伐して来い。それで認めてやる」
「いえ、そんな手間なことする気は無いです」
「おい、何故フィーアが決める?」
「だったら、「ウェンドラゴン」の素材を使ってタダで武器と防具を作ってやるよ」
「いえ、ですからけっ・・・」
「分かった。行ってくる」
「んー!!」
フィーアの口を塞いで黙らし、店をあとにするのだった。
「なんだったんだ、アイツら・・・」
店主はそう独りごちたのだった。
------------------------------------------------------------
「あのな、フィーア。俺のために怒ってくれるのは嬉しいがあれは言い過ぎだ」
「だってシュンが弱いみたいに言うのが嫌だったんです」
「はぁ、まぁ気にすんな。俺は武器に依存するほど弱くねぇ」
「確かにそうですね! シュンは強いですもんね!」
(友達思いってのも中々だな・・・)
友達思いのフィーアに、シュンは顔を引きつらせていると、あることに気付く。
「だが、その「ウェンドラゴン」とやらを倒すために情報も防具もないしな。攻撃は折角だし魔法を使ってみるのもアリだな」
「ギルドで魔物の情報や、武器や防具のレンタルが出来ますよ」
「ギルドか・・・」
先程キャサリン達から逃げてからそこまで時間は経っていない。
もしかしたら遭遇する可能性もある。
そうなると気持ちが暗くなっていく。
しかし、フィーアはそんなこと微塵も思っていないのか既にギルドに足を向けていた。
「よしッ!行きましょうシュン!」
「結局か・・・。フィーアには助けられてばかりだからな。しょうがねぇか」
頭を悩ませながらもフィーアと共にギルドへと出発するのだった。
------------------------------------------------------------
——ロステルラッテ 冒険者ギルド内——
「なんでそんなにビクビクしてるんですか?」
「そりゃ俺の体裁が・・・、って気にすんなフィーア」
「?」
冒険者ギルドに着いたシュンは、中に入った刹那震えながら周りを確認し始めた。
謎の言動にフィーアが疑問を浮かべる。
「よし、いないな。フィーア行くぞ」
「え? は、はい」
怖がっていたシュンがいきなり平静を保ったのに少し驚きつつもフィーアは着いて行った。
「あら、シュンさんでしたかね? 今回は何用で?」
「情報と武器や防具を借りに来た。あと、金の預金とチャージだな」
「そうでしたか。それではお先に預金とチャージの方を済ませましょうか」
受付嬢のカルナはそう言うと、シュンが幾ら預金やチャージをしたいのか聞くと直ぐに行動に移った。
しばらくして預金とチャージが済んだようだ。
「では今回、白銀貨4枚をこちらで預からせてもらいます。そしてこちら50万ロッテがチャージされた冒険者カードと金貨45枚、銀貨40枚、大銅貨100枚となります」
「あぁ、ありがとな」
予想よりも早く預金とチャージが済んだ。
どうやらカルナは仕事の出来る女性のようだ。
「それにしても凄いですね、それだけの大金を持ちながら町を歩くって」
「俺もそんなつもり無かったんだけどな」
「そうなんですか? そもそもそれだけの大金をどうやって入手したかですよ。シュンさんFランクなのに稼げる金額じゃないです」
「秘密だ。違法なことはしてねぇよ。あとあんまりFランクって言わないでくれ。フィーアがキレる」
「ふふふ・・・」
横で聞いていたフィーアは青筋を立てていた。
『不屈の精神・上』を発動していても背筋が凍るのを感じた。
「そ、そうですね。気分を害されたならすみません」
「いや、こっちも悪かったな」
「ふふふ・・・」
(フィーア頼むから元に戻ってくれ・・・)
こんな調子のフィーアから逃げるようにシュンは「ウェンドラゴン」について説明を求める。
「情報が欲しい、魔物についてだ」
「情報量には500ロッテ、硬貨で大銅貨5枚頂くことになりますがどういたしましょうか?」
「硬貨で頼む」
そうシュンは言いながら袋から大銅貨を5枚取り出し、カウンターに置いた。
シュンはこの世界の硬貨を使ってみたかったのだ。
「確かに頂戴しました。ではどのようなモンスターの情報をお求めですか?」
「〝ウェンドラゴン〟ってやつだ」
「ウェンドラゴンですか・・・」
カルナはそう言うと暗い顔をしながら奥へと去っていった。
しばらくすると1冊の厚い本を持ってきた。
おそらくそこに魔物の情報などが数多く乗っているのだろうとシュンは推測した。
「ありました、ウェンドラゴン。えっとですね・・・」
ウェンドラゴン。
種族は竜で、別名「邪竜」
推奨ランクはSランク。
冬季などはグラガ山脈で冬眠するために移動するが、夏季はケルー山脈でエサを探す。
硬い鱗が特徴で、剣や槍などで攻撃した場合、脆い素材だと直ぐに刃こぼれしてしまう。
「Sランクかよ・・・」
シュンは鍛冶屋の主人に呆れてしまった。
Bランクの実力を把握するのにわざわざSランクの魔物を討伐しなければいけないのだ。
恐らくフィーアにボロクソに言われた怨みが篭っているのだろうと推測する。
「後は、ブレスに注意と書かれています」
「今は夏季だからケルー山脈か」
「あのもしかして、討伐にでも行くんですか?」
「そのつもりだが?」
「重ね重ねすみませんが、シュンさんはFランクですので依頼は受理されませんよ?」
「大丈夫です。そんなもの無くても私達で倒せます」
カルナの心配にフィーアが食い気味で答えた。
余程シュンが弱く言われるのがお気に召さないらしい。
さもありなん。
フィーアは1番近くでシュンの成長を見てきたのだ。
そして誰よりもシュンが強いことを知っている。
だからこそ、たかが竜如きにシュンがやられるはずが無いと思ったのだった。
「はぁ〜、分かりました。冒険者は自己責任ですからね。ですが知り合いが死んでしまうのは寝覚めが悪いです。せめて武器と防具ぐらいはまともなものを装備してください」
「もとよりそのつもりです」
(なんだこの2人、仲悪いのか?)
シュンにはこの2人が睨み合っているように見えた。
フィーアの後ろに竜、カルナの後ろに虎が錯覚で見えるほど火花を散らしていた。
「まぁとりあえずレンタルさせてくれ。料金はいくらだ?」
「料金は装備の種類や質で変わりますので先に選んでもらう形になります。こちらについて来てください」
先程までフィーアと睨み合っていたカルナだったが、素知らぬ振りをしながらシュン達をレンタル室まで案内するのだった。
------------------------------------------------------------
「本当にそのままでいいのか?」
「はい。これは〝高性能ロングメイド服〟と言って、とても良い素材を使用しているんです。たかが竜狩りなど問題ありません。ましてやシュンもいますしね」
「まぁそうだが・・・」
シュンは量産型の鉄剣と革製の鎧、篭手、グリーブ、ブーツ、マントを着用している。
これは軽くて丈夫、また動きやすいことが大前提なのだが、以前読んだライトノベルが役に立ったのだ。
だからフィーアの服装は少し危険なのではと思い心配したのだが、フィーアは下手な防具よりもずっと丈夫で動きやすく空気性、熱効率も優れているらしい。
「お決まりですか?、なら料金の方ですけど全部で10,000ロッテになります。硬貨とカード、どちらで支払われますか?」
「その前にいつまでこれを借りられるんだ?」
「1週間以内に返却頂ければ結構です。それ以上になると延滞料金が発生しますのでご了承ください」
シュンは少しDVDレンタルに似ていると頭の中で思いつつも承諾した。
今回はカードで支払うことにした。
「カードですね、少々お待ちください」
ピッ
「これで大丈夫です」
カルナがやったのはカウンターの上にある基盤にカードを翳しただけだった。
これも魔法のひとつだろう。
(科学も魔法もあまり変わらないな)
「今日はもう遅いから明日行きましょう」
「そうだな。道具屋で薬買って、屋台で飯買って宿に戻るか」
彼らは何の変哲もない会話をしながらギルドを後にした。
シュン、豹変しても振り回されてばかりですね。
面白い、続きが読みたいと思われた方はぜひ評価のほどよろしくお願いします。




