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第十二話 笑顔

 ——ロステルラッテ城 謁見の間——


「あー、落ち着いたか?」

「す、すいません・・・。お騒がせしました・・・」

「いや、悪ぃな。心配かけた」

「い、いえ、お気になさらず・・・」



「おっほんッ!」



「「ッ!?」」


「お熱いとこ悪いが、本題に入らせてもらうぞ」

「「あ・・・」」


 2人が茶番を繰り広げている間に、魔王が本題に入る。案外、空気を読まない。


「シュンよ。よくぞ乗り越えた」

「あぁ、俺じゃないみたいだ・・・」

「ガハハッ!!、口調も瞳の色も変わってしまったようだな!」


 シュンは〝与えしもの〟に半身を喰われたため、その分の体は〝与えしもの〟に補われた。

 シュンの瞳は髪と同じく碧眼である。

 〝与えしもの〟は何も肉体だけを喰らった訳では無い。性格も喰ってしまったのだ。

 そのため、良くいえば〝謙虚〟、悪くいえば〝臆病〟な性格が今のように肝の座った性格になってしまったのだ。

 それでも、根本は喰われなかったらしく、彼自身の慈愛の精神は今でも健在である。


「我がお前に【グリフィルの血】を飲ませたのには訳がある」

「それは?」

「【グリフィルの血】を飲めばいくつかの魔法が覚えられる。その中に『偽装(ダウト)』というものがあってな。姿を好きに変えられるのだ。もちろんほかの魔法もあるぞ」

「なるほど」

「そしてしばらくの間、シュンには人間界に溶け込んでもらう」

「「「ッ!?」」」


 魔王の発言にその場の全員が驚愕する。

 シュンはその理由を聞いた。


「そ、それは何で!?」

「まぁ落ち着け。それはだな——」


 魔王曰く、人間界とは今も戦争が続いている。

 しかし、何故戦争をしているのか分からなかった。


「我は不思議に思っていた。何故この戦争が起きているのか。この戦争は我が産まれる前、少なくとも我の祖父の代から続いておる。しかし、どの文献にも戦争の発端が記載されておらんのだ」

「ッ!?」


 この時シュンは、神(悪魔)のことを思い出した。

 神(悪魔)は戦争を起こすだけ起こして観戦しているのだろう。

 しかも、それは現地の当事者は分からないようになっているようだ。

 それでも、シュンは戦争の理由を知っている。

 しかし、それを伝えることが出来ない。

 なんとももどかしい気持ちになった。


(あのクソ野郎・・・)


 ふつふつと沸き起こる怒り。

 だが、この話を最後まで聞かなくては行けない。

 ぶつけるのは後だと心を沈めた。


「そこで我は考えた。こんな戦争は終わらせるべきだと」

「ッ!? あぁ俺もそう思うッ!!」


 なんと驚くことに魔王は戦争反対派だったのだ。

 これは都合が良いとシュンは思い、言葉では伝えないが、さらなる尊敬の眼差しを送るのだった。


「ガハハッ!! その心意気はよしッ! ここからは我の昔話をしよう」


 魔王は昔、『偽装(ダウト)』の魔法を用いて人間界で生活していたそうだ。

 なんでも社会経験を積むため先代の魔王に追い出されたらしい。

 そこで街で冒険者業などを行って生活していくうちにある女性と出会ったそうだ。

 名はアスファ=ミルニー。

 彼女は麗人で、とても魅力的な女性だったそうだ。

 さらに、男勝りな性格に魔王はどんどん惹かれてゆき・・・


「——彼女が我の妃だった」


 その後彼女と付き合い、自分が魔王であることを語った。

 しかし、彼女はそれをなんとも思わなかったらしく、「あんたはあんただよ。」と笑って言われたらしい。

 身分を明かしたためその後は魔界に戻り、2人で仲良く暮らしたそうだ。

 婚礼の儀を済ませ、しばらくすると見事第1子を出産した。

 女の子だそうだ。

 因みにその子も今人間界で、生活しているそうだ。

 しかし、ここで悲劇が起こった。


「——アルファは人間(・・)に殺された」

「ッ!?」


 ある日アルファが里帰りしている際、突然何者かに連れさられて殺されたらしい。


「どういうことだよッ!?」


 つい怒りの声を上げてしまう。

 しかし、重く静かに魔王は語る。


「アルファを殺した連中は人間の貴族達だそうだ。なんでも、アルファはミルニー家子爵の次女だったそうでな。アルファが魔王に嫁いだことが許せなかったミルニー子爵が他の貴族と連携を取りながら暗殺したらしい」

「なッ!? そんな・・・」


 日本から来たシュンには身分社会の感覚など理解出来なかった。

 だが、この世界は身分制が一般的である。

 特に貴族は選民意識が強く、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、士爵というふうに構成されており、その中でも伯爵と子爵の間では大きな差がある。

 今回の場合、子爵のミルニー子爵は伯爵とあまり差がないほどの権力を有していた。

 だからこそ、自分の娘が魔王の妃になったなど言語道断であり、許されることではないと思った。

 そして、過去に過ちが犯された。


「当時我は、直ぐに彼らを断罪し処刑した。そして、人間界を滅ぼしてやろうとも考えたのだ。だが、我はミルニーを思い出したのだ」


 ミルニーはとても強い女性だった。

 実力もそうだが、とても気丈で優しい人だった。

 彼女は魔王に言ったのだ。

「種族なんて関係ない。問題はそいつが良い奴か、悪いやつかだ。」と。


「我はそれを思い出し、人間界にを滅ぼすことをやめた。人間界にもミルニーのような人物がいるのを知っているからだ。少なくとも、貴族や上層部の連中は別だがな」


 魔王の最後のセリフはどこか寂しそうな余韻だった。


「だからこそ我はシュンに望む。人間界に行き様々なことを学んで欲しい。そして、人間界の害虫を駆除して欲しいのだ」

「なるほど・・・」


 これはチャンスかもしれない。

 今まで魔界から、いや、この城から出たことすらなかった。

 いつか、人間界には行こうと思っていたから、まさに棚からぼたもちだった。

 だが、ここで心残りがある。

 この世界に転移して城から一度も出ていないのに、いきなり魔界を出るのか。

 それは少し勿体ない気持ちがした。


「魔王様よ。人間界に行くのは構わない。いや、むしろ大歓迎だ。俺も人間だからな」

「いや、今のシュンは人間ではない」

「え?」

「お前は人間と魔人のハーフだ」

「なッ!?」

「それはそうだろうよ。お前は人間の血と魔王の血が混じっているのだから」

「た、確かに・・・」


 どうやら知らないうちに人間をやめていたようだ。

 少し寂寥感を覚える。


「それで、言ってくれるのか?」

「あぁ、それは構わないんだが・・・」

「どうした?申してみよ」

「俺は魔界をまだ見ていない。というか、この城から出ていない」

「・・・・・・」

(黙るなよ・・・)


 沈黙が重い。

 魔王もフィーアもフンフも視線を逸らす。


「た、確かに言われてみれば何も案内(あない)しておらぬな。よ、よし分かった。そんなに急ぐ話でもない。もうひと月ばかり魔界に住んでみよ。なんだったら、城から出て冒険しても構わん」

「ほ、本当かッ!?」


 冒険。

 それは狩りをしたり、採取したり、運搬したり、護衛したり、ダンジョンに向かったりとゲームや小説で見るような内容だ。

 これにはシュンも気持ちが高ぶる。


「わ、分かった。俺はひと月ほど魔界で冒険者として生活する。寝床は適当に宿に止まるとするよ」

「え・・・? えッ〜!?」


 ここで大声を上げたのがフィーアだった。

 人間界に行くかもしれないシュンを憂いの目で見ていたのだが、本人はまだ行かないと聞き一喜一憂していたのだ。

 しばらく一緒に生活できると思っていた彼女はシュンが宿に泊まると聞き、耳を疑ってしまった。


「なんで・・・、シュン、城に帰ってきてください。」

「え? やだよ。せっかく冒険するんだしやっぱり宿だろ。」

「なッ!? 私と一緒にいるのは嫌なんですかッ!?」

「違ぇよ。いつまでも世話になる訳にはいかねぇし、独り立ちもしたいんだ」

「な、なら私もついて行きます!!」

「「「ッ!?」」」


 これには男3人驚愕である。


「何言ってるッスかッ!? 第4大魔人の席はどうするッスかッ!?」

「そんなの上級魔人の3人にローテーションでやらせますッ!」

「そんなむちゃくちゃッす〜・・・」


 あまりにも我儘ないいように呆れるしかないフンフ。

 そもそも、彼女はこんなに欲望に忠実ではない。

 もともと自制心の強い女性なのだ。

 そこも含めて一同彼女の変わりように驚くしかない。


「ガハハハハッ!!! そうか! そんなにシュンを気に入ったかフィーアよ!」

「はッ!」

「素直な心よしッ! どうだ、シュン? 連れてってやってくれないか?」

「「は?」」


 まさかの魔王から賛成の言葉が出てきた。

 シュンもフンフも呆然としている。

 若干1名ハッスルしているのは言うまでもない。


「え?あ、あぁ・・・、って、ダメじゃね?立場的に?」

「いや、魔王様が言ってるならもう大丈夫ッす。誰も文句言えないッす」

「えぇ・・・」

「シュンは嫌ですか?」


 フィーアが上目遣いでシュンに聞く。

 内心バックバクになりながらも、こういうしか無かった。


「・・・チッ、好きにしろ・・・」

「はいッ!!」


 彼女の顔は満面の笑みを浮かべていたのだった。


次回、クラスメイト達の様子です。


面白い、続きが読みたいと思われた方はぜひ評価のほどよろしくお願いします。

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