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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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第29話 毒

「この毒、今回のために用意した訳じゃないと思うんです」

「と、言うと?」

 

 香凛の言葉に、啓俊が続けた。


「今回使われた砂蕃木鼈子(さばんぼくべっし)も、充容さまに使われた西南花独活(せいなんはなうど)も、確かにどちらも宰相の支配下にある陸路でのみ流通可能です」


 他の三人は頷き、彼女の言葉を待つ。


「ただ、いずれも隣国よりもさらに遠い国の植物です。すぐに取り寄せることや、何度も取り寄せることは難しいかと」


 地図の端にある小さな二つの国を香凛が示すと、瑛然が口を開いた。


「つまり、以前取り寄せたものを使ったと」

「修容さまが使われそうになった毒も、砂蕃木鼈子(さばんぼくべっし)ですよね」

「――なるほど。香凛の言う通り、新たに用意するには時間が足りない」


 遠国までは、発注のために馬を走らせ毒だけを入手するにしても、片道で三ヶ月はかかる距離だ。

 間にいくつかの国を挟んでいる。

 つまり、当時の毒の残りを使ったのだろう。


(あの毒は、少量で十二分な殺傷能力がある)


 それに、と香凛は思う。


「あと、自分の支配下にある陸路で入手した毒で殺そうとするなんて真似、宰相ほどの立場で考えますでしょうか」


 ずっとひっかかっていたのはそこだった。


(私程度を殺した毒を、調べるわけはないと思った? ううん。宰相なら(・・・・)私が目障りな立ち位置にいることは、理解している)


 つまり下手な毒を使って殺せば、自分が疑われると分かっている。


「私がもしも宰相の立場であれば、他の地域から入手する毒を使うでしょう。つまり」

「逆もまたしかり、ってことか」


 瑛然の言葉に、香凛が頷く。


「後宮には、いくつもの毒になる草木が生えていました。あれは簡単に他者を害することを可能にしているのに、尚花局(しょうかきょく)は気にしていないようですね」

「尚花局は六部のうち、工部の担当ですね。工部尚書は、陸家――つまり宰相の派閥です」

「啓俊殿、ありがとうございます。陸家はアレに気付かれれば、きっと後宮の医師のせいにしますよ」


 後宮の医師は、余家から医局を担当する楊家に養子に入った。


「あの医者(せんせい)は、ぼんくらなフリをするのに、余念がありませんから」

「どういうことだ」

「後宮の医薬所の薬の引き出し、酷いものだったのよ。瑛然にも見せてあげたいくらい」

「用意している薬が?」

「薬は通り一遍のものがある。でも、引き出しの全てに中身が書かれているの。まともな医師なら、他者が簡単に入ることのできる場所にわかりやすい表記なんてしないわ」


 そして、それは医師であれば当然のこと。


「医師として当然のことを、あえて(・・・)しなければ、出来損ないに見せやすい、ってことか」


 瑛然が続けた言葉に、風俊と啓俊も「なるほど」と口にする。


「あれだけ簡単に毒を手にすることができるのに、わざわざ危険を冒してまで、自分が疑われる毒を使うとは思えない」

「そんなに、毒性がある植物が植わっているのか?」

「三人にも見せてあげたいくらいの、多種多様さよ。まぁ、普通に見ていたら気付かないと思うけど」


 だからこそ、たちが悪いのだ。

 貴妃――陸家はいつでも、後宮で毒を盛れる。

 香凛は新しい紙を出し、陸家、余家、と文字を落とす。


「陸家の貴妃には皇子がいない。陸家と親族になった余家の昭儀には皇子がいる。その皇子をゆくゆくは皇帝にしたいと考えている」

「ああ。第二皇子はつまり子選だ」

「とても皇帝の器ではない方ですけど」

「兄者に完全同意です」

「あ、それは私も同意しますけど、それはむしろ陸家にとっては良いことですしね」


 そう言って、香凛は陸家の文字のすぐ下に『宰相』と書き入れた。

 その横に『貴妃』、余家の下に『昭儀』と書き加え、両家の下側に楊家『医局』と入れていく。


「陸家の狙いは軽い神輿を皇帝にして、『陸家が事実上の支配者になる』ことだとすれば、第二皇子が即位したら余家はもう邪魔です。同様に、余家にとっては陸家は即位するまでは強い後ろ盾かもしれないけど、その後は主導権を奪う敵になるでしょうね」


 つまり、互いに利用しつつも蹴落とす隙を狙っているのだ。


「それにしても、そこまで陸家の交易路の毒を用意しておいて、陛下の毒は自分の港のものを?」

「陛下の毒については、陸家から楊家への圧力だと思う」


 瑛然の問いに、香凛は返す。


「余家自体は、毒に詳しくても薬にそこまで精通しているわけではないと予測できるわ」

「理由は」

「毒の使い方が下手なのよ」

「下手とはなかなか」

「だって、毒そのものを単純に使っただけ。まともに解毒しようと思う医師なり薬師なりが一人でもいれば、対処だって可能」


 まともに解毒しようと思う者が、後宮にいないのが問題ではあったのだが。

 

「でも、陛下の件は違う。香を使ったり、薬に巧妙に混ぜ込んだり、と手がかかっている」

「やり方がまるで違うということか」

「そういうこと。そしてそれに使った毒は余家のもの」


 これは、本当に。


「笑えるくらい、お互いにはめてやろうって意思がみえるわ」


 その言葉に、瑛然が薄く笑った。


「さっさと足を引っ張り合って、墜ちて貰おうか」


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