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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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第26話 瑛然の傷

(体温が、さがっていく)


 瑛然の指先の色が少し白くなっていく。


(背中に痙攣が走っている。呼吸も浅い。矢の刺さった位置からして、この反応は矢による傷ではなく、鏃に毒が塗ってあったもの)


 香凛は上衣をビリビリと破り、包帯状の布を作る。


(とにかく毒が回るのを止めないと)


 腕や胸へとそれを強く巻く。

 そうして鏃を引き抜くと、傷口に唇をあてる。

 そこから毒を吸い込み、切り裂いた上衣の一部に吐き出す。何度も何度も繰り返しながら、脳内では何の毒かを探り当てていく。


(苦い。痙攣。呼吸困難が少し出ている、鏃に塗る毒……)


 ばたばたと足音が聞こえてきた。


「凌女史! 声が聞こえたのです……が……」


 走ってきた風俊が、廊下に倒れている瑛然と応急処置に追われている香凛を見て、動きを一瞬止める。


「風俊殿! 瑛然を! 瑛然を医局……いえ、どこでもいいので近くの寝台のある部屋に」

「わかりました」


 香凛が医局を避けたことに、風俊はすぐに状況を察した。


「抱き上げて移動しても、問題ないでしょうか」

「はい。できるだけ肩に触れないようにお願いします」


 風俊は頷くと、瑛然を横抱きに持ち上げ、すぐ近くの部屋へと向かう。

 部屋の扉を香凛が開けると、殺風景ながらも清潔な布の敷かれた寝台が置かれてあった。

 そこへ瑛然を下ろす。


「私は薬を取りに行ってまいります。風俊殿は様子を見ていてください」

「途中で啓俊がいたら『蓮の部屋に』と告げてくるように伝えて。他の者には声をかけなくていいです」

「はい。あ! 体を締め付けてはなりません。お召し物などを全て脱がせてください」


 風俊が返事をするのを聞く前に、香凛は先ほどの階段を降りていった。

 香凛の部屋の場所まで、庭側から向かう。

 宮城内の廊下を使うよりは近い。

 自室に置いてある薬や薬草、それに紙類。

 全てをまとめて袋に入れ、急いで戻る。


「戻りました! 瑛然の様子は」

「……変わりません。息が浅くて」


 風俊の声に頷き、香凛は袋から紙と筆を出した。

 それを床に置いて、星図盤を描く。


(一刻を争う。詳細は省き皇帝星から導き出すのが、早い)


 何度も確認した、瑛然の星。

 間違いなく天星――皇帝星だった。


「そしてこの毒はおそらく」


 つい最近、見たものだ。

 口に入れた感じ、出ている症状、そしておそらく今回の首謀者の一人であろう子選の立場。

 そこから導き出される答えは一つ。


(祖父ちゃん、処方箋をありがとう)


 徐福商会の娘、元修容に使われようとしていた毒と同じもの。


(これは砂蕃木鼈子(さばんぼくべっし)だ)


 祖父が作った処方箋広げ、今の時刻を星図盤に重ねる。今の瑛然に一番効果が出やすい薬のバランスと分量を確認していく。

 塗り薬を両方作りあげると、瑛然の傷口に塗り込んだ。


「新しい包帯を持ってきた」


 啓俊が包帯を差し出す。

 香凛が薬を作っている間、風俊は啓俊を呼び出したようで、他にも大量の水と湯、清潔な布が用意されていた。


「飲み薬も用意します。器をお願いします」


 塗り薬が効いてきたのか、瑛然の顔色が少し良くなり、呼吸が戻ってくる。


「すごい……この短時間で」


 啓俊の呟きは、香凛の耳には届かない。

 砂蕃木鼈子という毒は、少しでも早い対処が必要だ。

 幸い香凛がすぐに口で吸い取り毒を抽出したので、体に巡ってしまった量はあまりない。


「これを飲ませつつ――風俊殿、足を下から上にもみほぐしてください」


(血液をとにかく腎の臓に巡らせて、その間に薬を飲ませて)


 香凛の看護はそのまま、ひと夜を徹して続いた。


   ***


「……香、凛?」


 翌朝。

 朝日が差し込む中で、香凛はその声を聞いた。


「瑛然! 意識が戻ったのね」


 寝台脇の椅子に座ってうたた寝をしていた香凛は、すぐに立ち上がって瑛然の横に膝をつく。

 

「はは。俺のこと、瑛然って呼んでくれてる」

「そんなこと言ってる場合じゃなくて!」


 香凛の体から、力が抜ける。寝台の上に危うく上半身を乗せそうになり、体を後ろに倒した。

 先ほどまで座っていた椅子に、思い切り後頭部をぶつける。

 

「っ、痛!」

「香凛! 何やって」

「だって瑛然の寝台に、体を乗せるわけには」


 そんな香凛を優しく見つめ、瑛然はかけられた布の下からゆっくりと手を差し出す。


「香凛。手を繋いでくれないか」

「――うん」


 繋いだ瑛然の指先は温かい。


(良かった……)


 香凛を庇った直後の瑛然の指先の白さを思い出す。

 背中がぞくりと冷えてしまう。


「俺を、香凛が助けてくれたのか」

「逆よ。私を、瑛然が助けてくれたんでしょ」

「そうか」

「そうよ」


 薄く笑みを浮かべた瑛然が香凛へ向ける瞳には、愛おしさが籠もっている。

 それに気付かないほど、香凛は間抜けではない。

 瑛然の手が香凛の指先から離れ、彼女の髪へと触れる。

 そのままゆっくりと髪を引き寄せると、畢竟香凛の顔も瑛然のすぐ近くにいく。

 手が、香凛の後頭部へと伸びる。


「えいぜ……」

「しー」


 囁くような声。

 二人の唇がすぐにでも触れる距離。

 静かな部屋。

 僅かに、香凛の衣擦れが響く。

 そして。


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