表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/42

第25話 子選

「凌香凛さん?」

 

 夕食を終え、食堂から宮城へ向かう途中で、声をかけられた。

 柔らかな声の持ち主に、思い当たる者はいない。

 振り向くと、美しい刺繍の施された上等の上衣を纏った男が、にこにこと笑みを浮かべて香凛を見ている。


(誰……かはわからないけど、たぶん偉い人)


 細かな刺繍に地紋の入った生地を身につけ、宮城近くにいるのだ。

 それだけで、位の高い人間だと予想がつく。

 香凛は拱手をし、頭を下げた。


「ああ、いいよいいよ。顔をあげて」


 ゆっくりと体を戻すと、落ちかけた夕日の最後の光で男の顔がよく見える。


「初めまして――じゃないか。前に早朝僕を見かけたでしょ」


 その言葉に、少し前の早朝を思い出す。

 香凛が瑛然への恋心を自覚した翌日の朝のことだ。

 それに気付き、顔が赤くなってしまった。


「あれ。やっぱり僕のことを気にしてたんだねぇ」


 香凛の顔が赤くなったことを、どう解釈したのか。

 男は自信に満ちた表情で香凛を見る。


(ねちっこくて、なんだか気持ち悪い目線)


 そう思っても、当然口に出すことはできない。


「僕は子選。あぁ、改めて礼を取る必要はない」


 子選。余昭儀の生んだ双子の子どもの一人で、第二皇子。

 昭儀とどれだけの距離感を持っているのかはわからないが、香凛の中で警戒するべき相手という判断が為される。

 それと同時に、何か探れることがあれば、などという欲が生まれてしまった。


「凌香凛さん、僕と少しお話ししよう」

「……はい」


 どちらにしろ、第二皇子という身分の者から声をかけられたら、香凛が断ることはできない。


「ここは目立つからね。もう少し先に」


 そう告げると、子選は通路を進む。

 宮城に入り、外通路を歩きながら香凛は周囲を見る。


(宮城の入り口奥に、啓俊さんがいた)


 子選とともにいるところを確認している筈なので、もしも問題があれば彼が後を追うか、もしくは風俊に連絡を取ってくれるだろう。

 それがなければ、子選自体をそこまで警戒しなくてもいいということになる。


(しまったなぁ。他の皇子の立ち位置をもう少し深く確認しておくべきだった)


 黙って子選に付き従っていると、ぴたりと足が止まった。


「この辺で話そうか」


(ここ、別にのんびりできる感じじゃない気がするけど)


 宮城の外通路の奥。確かに人通りはあまりないが、かといって椅子があるわけでもない。

 てっきりどこか東屋なり部屋なりに入ると思っていた香凛は、本当にただの世間話でもしようと思っていたのか、と少しだけ安堵した。


「凌香凛さんは、恋人はいるの?」

「恋人など、いたこともございません」

「へぇ。じゃぁ、初物なんだ。――面倒だなぁ」


(ハツモノ?)


 聞き慣れない言葉に、香凛は小さく首を傾げる。

 それを見て、子選は笑みを深くした。


「恋愛に興味はない? 君、僕の顔好きなんでしょ?」


 違う、とは言いにくい状況だ。

 とはいえ、好きなわけではないので肯首もしづらい。

 曖昧に笑うと、子選は肯定だと捉えたのか、一歩踏み出した。


「どれ、口吻けくらいはしてやっても」


 香凛の頬に手を触れ顔が近付く。


(えっ、無理! 無理無理無理無理!)


 思わず強く顔を横にずらし、子選の手から逃れた。


「……へぇ?」


(あ、マズった……かも)


 子選の顔に不快感が浮かぶ。

 隠しもしないそれに、香凛の背に脂汗が流れた。


「やっぱり遊び慣れてない女は面倒だな。たいした顔でもないくせに僕を拒否するなんて、図々しい」


(どういう理論よ。そっちこそ、綺麗な顔でも下品さが表情に出てるわよ)


 同じ皇族でも、瑛然は綺麗というよりも凜々しい顔だ。


(それに、瑛然殿は育ちの良さが顔に出ているというか、軽薄に見せていても品があるのよね)


「まぁ、いいか。少しその下で話そう」


 香凛の後ろにある階段を、子選が指す。


(これ、階段から突き落とされるとかあり得るんじゃ……)


 そう思って子選を見ると、彼の目線は香凛の後ろに一瞬向かった。


(階段を見てるんじゃ、ない)


 その目線を追った瞬間。


「じゃあね!」


 トン、と体を軽く押される。

 

「え」


 香凛の体が少し後ろにずれた。目線の先では、子選が廊下を曲がり走り去っていくのが見えた。


(落ちる!)

 

 階段の横の手すりに手を伸ばす。

 びゅん、とどこか後ろの方から、風を切る音がした。

 

「香凛!」


 瑛然の声が響き、香凛の体がぐるりと反転して前に倒される。

 どすり、と重い音が響く。

 そのまま、瑛然が覆い被さるように香凛の上に重なった。


「瑛然殿?」


 状況がわからず、香凛が声をかける。

 だが。


「瑛然……殿?」


 声が返ってこない。

 慌てて彼の背に手を伸ばし様子を伺うと、びくびくと背が痙攣を起こしているのだ。


「瑛然!」


 香凛はそのまま彼の体の下から抜け出すと、愕然とする。

 瑛然の肩には、矢が刺さっていた。


「瑛然! 誰か! 誰か来て!」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ