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119.消えたメイドと裏社会の悲鳴

 帝都のメインストリートの視察を終え、最高級魔導シルクを使ったクッションを備えたオープンカフェを満喫した俺たちは拠点である最高級ホテルへと戻ってきた。


 ふかふかのベッドで念願の昼寝……といきたいところだったが、ロビーには既に厄介な連中が帰還していた。


「ガハハッ!いやぁ、帝都の軍事施設ってのは中々骨があったぜ!良い準備運動になったな!」


「ええ!警備の隙を突いて襲いかかってくる不心得者たちを、正当防衛として完膚なきまでに制圧し、徹底的な正義の指導をしてやりましたわッ!これで我々の安全も確保されましたわね!」


 満足げに笑うレオンハルトと、謎の大義名分を掲げて胸を張るアリシア。


 ……お前ら、絶対にどこか半壊させてきただろ。サラシュアが頭を抱えているじゃないか。


 だが、今の問題はそこではない。


「……マリアとネロが遅いな」


 裏社会の調査に向かったはずの二人が、予定時刻を過ぎても戻ってこないのだ。


「論理的に考えて、あのメイドと魔術師がただのゴロツキに遅れをとるとは思えないわね」


 クリスの言う通りだ。あいつがやられるわけがない。調査のついでの掃除に夢中になりすぎて時間を忘れているだけだろう。


「仕方ねぇ、迎えに行くか」


 俺はため息をつきながら立ち上がった。


 そういえば、あいつらが帝都のどこへ向かったか具体的な場所は聞いていなかったが……『裏社会のゴミ掃除』という言葉から、行き先は容易に推測できる。


 どんなに高度に発展した魔導都市だろうと、光が強ければ影も濃くなる。ゴロツキや裏組織の連中が溜まる場所の相場は決まっているのだ。


「サラシュア。この帝都で一番治安の悪い歓楽街に案内しろ」


「えっ?あ、はい。承知いたしましたわ」


 ダンジョン攻略の足並みを揃えるため、俺たちはサラシュアの案内で歓楽街の路地裏へと向かうことにした。



 帝都の裏社会が巣食うという歓楽街の路地裏。


 そこは、異様な光景が広がっていた。


「……なんだこれ」


「チリ一つ落ちていませんわね……物理的な意味でも、比喩的な意味でも」


 サラシュアが戦慄したように呟く。


 本来なら血の匂いや生ゴミの悪臭が漂うはずの路地裏は、まるで新築の城のようにピカピカに磨き上げられていた。


 それだけではない。路地の隅には、裏組織のゴロツキたちが紐で綺麗に縛り上げられ、燃えるゴミの日のように整然と積み上げられていたのだ。全員が白目を剥いて気絶している。


「見事な掃除の手際ね。帝都の治安維持部隊の数年分の仕事を半日で終わらせているんじゃない?」


 クリスが冷静に評価を下す中、ゴミの山の奥からガタガタと震える声が聞こえてきた。


「……ふ、ふざけんなよ……俺は帰るぞ……あんなのに付き合ってたら命がいくつあっても足りねぇ……」


「ネロ、何やってんだ」


「ひぃあっ!?」


 俺が声をかけると、壁の隅で蹲っていたネロが飛び上がった。


「ヴェ、ヴェルト!てめぇ、遅えんだよ!俺がどれだけ恐ろしい目に遭ったか分かってんのか!?」


 ネロが、涙目で威嚇するように吠え立ててくる。相変わらず口が悪い。


「マリアはどうした。一人でどこ行ったんだ」


「あいつマジでイカれてるぜ!最初は笑顔で裏組織の連中をボコボコに縛り上げてたんだけどよ、急に地面の底を睨みつけて『ヴェルト様を狙う不快なゴミの臭いがします』って言い出したんだよ!」


 ……なんだと?


「そしたらあのメイド、急に持ってたモップで地面をブチ抜いて『すぐ戻ります』って、そのまま地下の闇に飛び込んでいきやがったんだ!いきなりだったから俺は動けなかったんだよ、あんなヤバい空気に誰がついて行くかってんだ!」


 ネロが震える指で示した先には、不自然にポッカリと開いた巨大な大穴があった。


「ヴェルト様、これは……」


 サラシュアが大穴の縁に立ち、顔を青ざめさせる。


「この穴、帝都の地下深くまで真っ直ぐ繋がっていますわ。方角と深さから計算して、恐らく『龍神城・地下宝物庫』への隠し通路です。こんなものがあるなんて」


「論理的に考えて、帝国の技術でも把握していなかった古代の抜け道か、あるいはダンジョンの構造的欠陥ね。それをあのメイドは気配だけで嗅ぎつけたというわけ?あいかわらずとんでもないわね」


 マリアの異常な探知能力に、クリスが呆れたようにため息をついた。


 なるほどな。


 あいつが「俺を狙う不快なゴミ」と言ったのなら、それは教会の暗部の連中か、あるいは宝物庫の呪物そのものの気配を察知したのだろう。


(嫉妬の魔神の心臓か?)


「すぐ戻るって言ったんだな?」


「ああ、だから待ってたんだ...」


「数時間経っても戻らない……か。まったく、世話の焼けるメイドだ」


 俺は暗い穴の底を見下ろしながら、ニヤリと笑った。


「ちょうどいい。正規のルートから面倒なトラップを一つずつ解除して進むより、ここから一気に最深部まで降りた方が手っ取り早そうだ。マリアを回収するついでに、宝物庫の奥底までショートカットさせてもらうぞ」


「ガハハッ!そいつぁ最高じゃねぇか!」


「正義のための潜入捜査ですわね!生徒会長として先陣を切りますわッ!」


 レオンハルトとアリシアが歓声を上げる。


「はぁっ!?お前ら正気かよ!俺は絶っっ対にこの穴には入らねぇからな!」


「こんなところに一人で置いていかれたいのか?」


「……くぅ!一人でこんな所に残されるよりはマシか?ああ、わかったよクソッタレ、俺の生存本能がついて行けって警鐘を鳴らしまくってるしな!」


 文句を垂れながらも結局はついてくるネロを連れ、俺たちはマリアが空けた裏ルートから、地下宝物庫ダンジョンへとその身を躍らせた。

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