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03-03. 協力

 


 後日、ストライクは相棒と二人きりになったのを見計らって、改竄疑惑の検証のための協力を打診した。


「……というわけで、エナのことを手伝ってほしいんだけど!」

「別に構わない」

「えっマジで?」

「なぜ驚く。お前から言い出したんだろう」

「まあ、そうだけど」


 意外にも、クロトは二つ返事で引き受けた。

 ストライクは渋られたらどうやって説得しようかと考えていたので、拍子抜けするほどあっさりした承諾に、かえって不安を覚えてしまう。


「本当にいいの?」

「いいと言ってる。しつこい」

「いだっ!」


 もう一度確認したらデコピンされた。手加減はしただろうが、《機巧躯体者》のそれは半端じゃなく痛かった。



 ◇◇◇



 というわけで話がまとまり、三人で問題のデータを確認する段階になった。


 人がまばらな夜勤の時間帯。ストライクとクロトは、適当な口実でオフィスを抜け出し、エナと落ち合う。

 挨拶もそこそこに、人目につかないルートで移動し、中央警察庁──通称・本庁地下三階の旧データ管理室に忍びこんだ。


 旧式のコンピューターが並ぶ中、エナがその中の一台を起動させる。

 空中に透過スクリーンが現れ、データベースの検索画面が映し出された。キーワードを入力し、データを呼び出したエナは、透過スクリーンを指しながら言った。


「──これが問題のデータよ」


 画面にずらりと並んだレポート。それらは馴染みのある事件ばかりだった。ストライクは食い入るように画面を見ながら呟く。


「全部、《レイジング・アウト》事件……」

「そうなの」


 画面に表示されたタイトルは、見覚えのある事件が多数。ストライクが特三に移った後の事件だけではなく、機動隊時代に関わった事件もある。


 イリヤで発生した事件がほとんどだったが、中にはイリヤ以外の事件も含まれていた。

 エナが幾つか記事を開いて見せてくれた。破壊された建物や、完全変化前のヴァリエントの写真。それらと一緒に、事件の経緯や捜査情報などが記録されている。


 ストライクは簡易な現場報告しか書いたことがなかったが、記録を取りまとめる部署が、事件全体の概要をレポートにまとめているのは知っていた。ここに保存されているのは、現場の警察官が集めた捜査記録の集積だ。


 データベースは本来、アクセス制限がかかっている。だから、本庁職員でも限られた人間しか閲覧できない。

 情報部門にいるエナは、その権限を有していた。


「ほら、ここ見て。不自然なスペースがあるでしょう」


 エナが指差した箇所を見ると、確かにその備考欄にはやけに大きな空白があった。


「偶然見つけたんだけど、レポート作成部署の人達はやたら几帳面で、普通はこんなやり方を嫌うのよ。削除訂正が入った形跡もないし、システム側から調べてみたわ。そしたら……」


 エナの細い指が、素早くキーパッドを叩く。するとスクリプトの表示に切り替わった。


 真っ黒な画面に浮かび上がったのは──ネオングリーンの文字の洪水。


 ストライクの思考は停止した。文字がそこにあるのは分かる。だが内容はさっぱり理解不能だ。宇宙語です、と言われても信じてしまいそうである。

 一方、横から画面を覗き込んだクロトは、文字列の意味も、エナの違和感も、完璧に理解したようだった。機械の指が画面の一部を差す。


「ここ、弄ってあるな」

「え、クロトわかんのこれ!?」

「一応は」

「…………やっぱり、このタグは不自然だと思う?」

「ああ」

「こちらはどうかしら」


 二人は真剣に話し合っている。が、ストライクは完全に蚊帳の外だった。

 除け者にされた感があって面白くない。いや、クロトを連れてきたのは自分だけど。


 それにしても、クロトがここまで情報処理に詳しいとは思わなかった。いや、軍人時代はハッキングまでやってたらしいので、当然と言えば当然か。

 機械化すると、そういうことまで分かるようになるらしい。これほど有能な男が、何故今まで無職だったのだろうか……と驚きを隠せない。


「──やっぱり、記録は改竄されているわ」


 クロトと話して確信を得たのか、エナが呟く。

 ストライクはそれを聞いて首をかしげた。


「じゃあ、消された箇所って一体何が書かれてたんだろ?」

「おそらくは、暴走したヴァリエント達の共通点だろう」

「私もその可能性が高いと思うわ」


 答えたのはクロトだった。エナも同意して頷く。

 なるほど、とストライクも納得した。


 以前、エナが《レイジング・アウト》の原因が判明するかもしれない、と言ってたのはこれが理由だったのだろう。


「つまり、暴走したヴァリエント達の共通点がわかれば、《レイジングアウト》の原因に近づけるかもって事だよね!」


 わぁー!と嬉しそうなストライクに、クロトが「落ち着け」と釘を刺す。


「仮にそうだとして、警察内部にその情報を隠したい人間がいるのも確かだろうな。告発も簡単にはいかないし、下手を打てばこちらが危うい」

「あー確かに……」

「それを想定したから、お前の友人は別部署の俺達を巻き込んだんじゃないのか」

「えっそーなの?」


 ストライクがエナを振り向くと、彼女は軽く肩を竦めた。


「正直に言うと、そうね。私の部署の人間が関わってないとは言えないし、迂闊に動けないわ。

 その点、ストライクならそういう陰謀めいた事と関わりが薄そうだもの」

「すっげえ単純って言われてる気がするんですが、エナさん……」

「裏表がないのはあなたの美徳でしょ。これでも誉めてるのよ。クロトさんはあなたがスカウトして、改竄が始まった後に特三入りしたから、確実にシロなのよ」

「ほぇーなるほどねー」

「…………で、どう動くんだ?」


 クロトの問いに、エナは「そうねえ」と顎に手を当てた。


「もう少し証拠を集めないと……信頼できそうな上層部にも接触してみるわ。あぁ、それと」


 エナは口の前に、人差し指を交差させてバツを作った。


「当然だけど、このデータベースをあなた達に見せた事は絶対に秘密よ。これ違法行為だから。告発の前に私が捕まったら意味ないしね」

「了解!」

「承知した」


 ストライクとクロトが頷く。

 それから三人は、何かあれば互いに連絡して協力する、と約束し、地下からそれぞれの部署に戻った。



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