02-07. 夕暮
色々と思う所はあれど、久しぶりに友人と集まれたのは嬉しい。ストライクは笑顔で席に着いた。
「ストライク、早く乾杯しようよ。ほら頼んで!」
「ハイハーイ、ちょっと待ってねー」
ルルが急かしてきたが、流行りの店に縁のないストライクは何を頼めばいいのかわからない。
参考に、と目の前のテーブルを見渡して、パチパチと瞳を瞬かせた。
「ねえ、二人とも、すんごい色のドリンク飲んでんね」
センジュはライムグリーンで、ルルは濃いピンク。派手な色の、サイダーのような液体が、細長いグラスを満たしている。
氷と一緒に浮かぶ、小さくカットされたフルーツやベリーのおかげで見た目も涼しげだ。
「これはねえ、最近人気のエナジードリンク《エシュカ》をベースにしたノンアルカクテルなの」
「へーえ。流行ってんの?」
「結構置いてる店見かけるよ」
「ふーん。でも、あたしはエナジードリンクよりプロテインの方がいいなぁ」
「この店にプロテインはねえよ……」
「じゃあ、普通のブラックにしよーっと」
呆れた視線を浴びながら、テーブルの角の光ってる部分に触れる。するとメニューが目の前に浮かび上がった。それを操作し、ブラックコーヒーを注文する。
「ストライクって、食べ物とかドリンクの選択がなんか保守的だよね。好みがおじいちゃんぽい」
ルルがけらけら笑った。
「変なもん飲んでお腹壊したら、同僚に迷惑かけちゃうじゃん。仕方ないんだよー」
「人が飲んでんのを、変なもん言うな。つうか、お前が腹壊してるのなんか見た事ねえぞ、この万年健康優良児が」
「たしかに!」
センジュの突っ込みに、ルルが笑い転げながら頷く。「そーだっけ?」とすっとぼけながら、ストライクも明るく笑った。
気心の知れた友人はやっぱりいいもんだな、と思う。家族がいないから、なおの事。
二人と出会ったのは、孤児院初日。ストライクの名付の由来となったトラブルの時だ。
新人ストライクに嫌がらせして、思い切り空缶を投げつけられたのが、センジュ。その光景を見て「ストライクー!」と腹抱えて笑ったのが、ルル。
ストライクに叩きのめされたセンジュは、その後、孤児院のボスの座をストライクに明け渡すことになった。
だが二人共さっぱりした性格だったので、特に引きずる事もなく、自然にボスと副ボスのような関係になっていった。そこにルルが加わり、三人でつるむようになり、孤児院を卒業した後も交流が続いている。
孤児院を出た三人は、それぞれ別の道に進んだ。ストライクは警察学校に行って警察官に。センジュは奨学金を取って大学進学。ルルは情報企業で事務として働いている。
性格も選んだ道も全然違う。でも、三人でいると居心地が良い。
友人以上。かといって家族と呼べるほどには近くない。年齢の近い親戚がいたらこんな感じかもしれない、とストライクは思う。
たわいもない話で盛り上がって、あっという間に時間が過ぎていった。そろそろ解散となり、別れ際、また会おうね、と約束して手を振る。
二人と別れたストライクは、満たされた気持ちで、赤く染まった夕焼けの空を見上げた。
パーカーのポケットに手を突っ込んで歩く。ふと、ビルの上の巨大看板が目に留まった。
それがエナジードリンク《エシュカ》の広告だと気づいて、彼女は立ち止まって看板を見上げた。たしか、友人達が飲んでいたカクテルのベースにも使われていたものだ。
ふと、昨日も現場でこの広告を見たな、と思い出す。無人の街で暴れる大熊と戦っていた時、ストライクの頭上に光っていた立体スクリーン。
都会の一等地にバンバン広告が打てるなんて、相当売上が良いのだろう。
──センジュは「色んな味があって選べるのが売りだ」と言ってたっけ。
徹夜明けの疲労が嘘のように軽くなるから、大学の課題がきつい時によく飲んでる、と。
そんなに良いのであれば、今度試してみようかなあ、と思う。
だが──ストライクは興味の薄い事柄に関しては驚異的な忘れっぽさを発揮する。
トラムに乗った瞬間、《エシュカ》への興味を意識の後方に追いやってしまい、しばらく思い出す事もなかった。
次にストライクがこのことを思い出すのは、センジュを襲った悲劇の後になる。
◇◇◇
「今日は機嫌がいいな」
翌日。顔を合わせた相棒は、開口一番に言った。珍しい虫を見つけた昆虫学者のように、黒い目を細めている。何だその顔。
「何、悪い?」
「悪いとは言ってない。珍しいと思っただけだ」
「昨日は休みだったし、友達と久しぶりに会ったの!それで機嫌が悪くなる人とかいないでしょ」
機嫌が良かったら何だというのか。そう思っていたら。
「…………友達、いるんだな」
「あぁ?なんなの、殴るよ?」
なんて失礼な奴だと思ったが、「いやこいつに怒っても仕方ないな」と考え直す。
そこそこ非常識なストライクと比較しても、クロトは失礼な奴だった。それは、体が機械になってしまったことと関係があるのかも知れない。
ストライクはクロトがどこまで機械にされたか知らない。頭の中をどれだけ弄られたのかも。
脳を弄ったとしたら、性格に何らかの影響があっても不思議ではなく、もしそうなら、クロトにデリカシーを求めること自体間違っている。
ストライクはデリカシーのない自分を棚に上げ、それで納得した。
まあ、クロトなんてどうでもいい。
いーっと相手を威嚇して、彼女はすたすたと備品倉庫に向かった。
自分用のロッカーを開け、ギアを一つ一つ点検していく。就業前の日課だ。
──今日こそは、我を忘れて人を傷つける、悲しいヴァリエントが生まれませんように。
作業の間、心の中で祈る。これも日課だ。
神様がいるかどうかなんて知らない。特定の宗教は信じてないから。
それでも祈らずにはいられなかった。
彼女は手元をじっと見つめた。銃を仕込んだギア、高機能のマスク。……凶暴化したヴァリエントを無慈悲に痛めつける道具。
我ながら酷く矛盾している、と思う。
だが、正義なんて、そう単純なものでもないだろう。
複雑な感情を心の奥に押し込めて、ストライクは装備の点検を済ませた。




