第二章:現実と狂気
第2章も楽しんでいただけたら嬉しいです!
それでは、どうぞお楽しみください!
第二章:現実と狂気
ユウリはゆっくりと意識を取り戻していった。
傍らではミナが涙を流し、本気で彼のことを心配していた。
「ミナ……?」
「ユウリ……よかった……! 死んじゃったかと思ったよ……」
彼女は目元をぐっとぬぐいながら言った。
「ここは……どこだ?」
ユウリが周囲を見回すと、そこは深い森の中だった。上空には満月がぽっかりと浮かんでいる。
「あの門から、ここに転送されたの」
「そうか……他のやつらはどこに行ったんだ?」
「あの存在が、三人組のトリオになれとか何とか言ってたけど……泣きすぎてよく聞こえなかったのよね」
「そうか。じゃあ、みんなもう移動したってことか?」
「うん」
「なんでだ?」
「確か……目標は神殿に一千ポイントの『カルマ』を奉納することだって言ってた気がする。そうすれば家に帰れるって」
「で、俺たちの三人目はどこにいるんだ?」
「わかるわけないでしょ!?」
「ハァ……」
ユウリは大きくため息をついた。
「わかった、とにかくここを出よう」
ユウリは立ち上がり、ミナの手を引いて立たせた。
二人は何が待ち受けているかも知らぬまま、森の奥へと足を踏み入れていった。
森の中は静まり返っていた。数時間歩き続けても、景色はいっこうに変わらない。
「みんな一体どこへ消えたんだ?」
「安全な場所を見つけたのかも!」
「俺たちも早く見つけないとマズいな……」
「ユウリ、いつもより焦ってない?」
「あの化け物が俺の名前を呼んだんだぞ。それに『生き残れるのは一人だけ』なんて言ってた。お前を失いたくないんだよ、ミナ」
ミナは頬を赤らめ、何か言おうとしたが言葉にならなかった。
「……俺、変なこと言ったか?」
「べ、べつに! ただ……気にしないで!」
「ミナ、手首を見せてくれ」
「え? なんで?」
「仮説が正しいか確かめたい」
二人は足を止め、ミナが腕を掲げた。彼女の右手首には、一つの漢字が刻まれていた。
「この漢字……なんて読むの?」
「やっぱりな。俺たちは同じトリオだ」
「なんでわかるの?」
「記号が同じだ」
ユウリが左手首を見せると、そこにはまったく同じ漢字が刻まれていた。
「俺たちのチームはこの漢字で統一されてるはずだ。メンバーを見分けるためか、チームごとに振り分けるための目印だろうな」
「なるほどね、理にかなってるわ。この漢字、『永遠』って意味よね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、さっそく探して――」
彼女の言葉は、森の奥深くから響き渡った絶望的な悲鳴によって遮られた。
「今の音、何!?」
「あっちから聞こえたわ、行くわよ!」
ミナが叫び、一目散に走り出す。
(昔からあいつは無鉄砲すぎる……!)
ユウリも危険に晒すわけにはいかず、後を追って走り出した。
現場のすぐ近くまで追いつくと、ユウリはミナが余計なことをする前に制し、一緒に草むらへと身を潜めた。
茂みの隙間から向こう側を覗き込む。
そこでは、異形のモンスターたちが、一人の銀髪の少女を囲んで戦闘を繰り広げていた。
「ねえ、ユウリ……」
「何だ?」
「あれって……モンスター?」
「違うな、ただの可愛い小猫ちゃんだ――って、どう見てもモンスターだろ!」
「助けなきゃ!」
「あのゴリラみたいな奴らに勝てるわけないだろ!」
「でも、もしかしたら私たちのチームメイトかもしれないじゃない! 彼女、一人で戦ってるのよ!?」
「仮にそうだったとしても、もう手遅れだろ。あの人数じゃ長くは持たない」
「ユウリ! もし助けてくれたら、家に帰った後にあの大好きなオムレツ作ってあげるから!」
「……魅力的すぎる提案だな。クソッ、人生は一度きりだ!」
ユウリは勢いよく茂みから飛び出したが、木の枝に足をとられて豪快に顔面からズザーッと転倒した。
モンスターたちがその気配に気づき、一斉に彼へと視線を向ける。
(これ、俺が読んでたライトノベルの展開そっくりじゃないか。ここからチート能力が覚醒するパターンだ!)
ユウリは立ち上がりながら思考を巡らせた。
「主人公の覚醒タイムだッ!」
両手を掲げ、何か必殺技でも繰り出そうと叫ぶユウリ。
――しかし、何も起きない。
ガツッ!
モンスターの一匹が容赦なく斧を振り下ろし、ユウリの右腕を斬り裂いた。
「ぐぁぁぁぁぁッ!!!!」
ユウリは膝をつき、激痛に悶絶した。
ミナは目を見開き、絶叫しそうになったが――。
先ほどまで戦っていたはずの銀髪の少女がいつの間にか茂みに現れ、ミナの口を固く塞いでいた。
「静かにしなさい。死にたいの?」
少女はミナの目から涙が溢れているのに気づく。
「泣いてるの? あいつのために?」
少女はミナの口から手を離した。
「ユウリを……助けて! 死んじゃう……!」
「私だってあいつらに歯が立たなかったのよ。今ここから逃げなきゃ全員全滅よ」
「でも……! ユウリはあなたを助けに行こうとしたのよ!?」
「あんな無謀なやり方で? 黙って見てればよかったのよ」
「お願い……助けて……!」
「ハァ……」
少女は冷たくため息をついた。
「もう遅いわ。あいつら、完全に囲んじゃってる」
「あなたが行かないなら、私が行く!」
ミナが涙を拭い、茂みから飛び出そうとした瞬間――少女はミナの首筋に手刀を打ち込み、気絶させた。
少女はミナを担ぎ上げると、その場から走り去る。
「あの天使が言った通り、誰も信用しちゃ駄目よ。仲間なんて存在しないんだから……身代わりになってくれてありがとね」
少女は振り返りざまに呟き、闇の中へと消えていった。
(クソッ……俺の腕が! あの女、ミナを連れて行きやがった……クソッ、クソッ、クソッ!)
突然、目の前に巨大な斧が迫ってきたが、ユウリは間一髪で体を捻って回避した。
(生きて帰れるわけがない……完全に囲まれた……)
絶望に思考が支配されかけたその時――一本の鎌が回転しながら飛来し、巨体モンスターの一匹の首を叩き切って戻っていった。
(隙ができた……!)
ユウリは躊躇することなく、開いた逃げ道へ向かって明日などないかのように全力で走り出した。
どのくらい走っただろうか。自分が森のどこにいるのかすら分からなくなっていた。
前方には、ボロボロの木造教会が見えた。
生存本能に突き動かされ、彼はそこへ駆け込んだ。
腐った木材が一歩ごとにギシギシと音を立て、割れた窓や板の隙間から差し込む月光だけが室内を照らしている。
この時点で、ユウリは大量の出血により視界が霞み、千鳥足になっていた。
祭壇の近くまでたどり着いた瞬間、彼は意識を失い、豪快に床へ倒れ込んだ。
その衝撃で、祭壇の上に置かれていた聖杯がカタカタと揺れる。
静寂の中、鉄の器が転がる鈍い音が響いた。
杯の中から溢れ出た赤黒い液体が床を伝い、ユウリの口元へと伸びていき――。
◆ ◆ ◆
ユウリは弾かれたように目を覚まし、警戒するように周囲を見回した。
(頭が痛い……俺、どうなったんだ……?)
モンスターに腕を斬られた光景や、あの銀髪の少女の顔が鮮明にフラッシュバックする。
(クソッ……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……!)
そう呟きながら立ち上がろうとした時、ふと自分の腕に目をやった。
(待て……俺の腕……!?)
そこには、斬られたはずの右腕が元通りに存在していた。傷跡も、斬られた形跡すら残っていない。
(なんで腕が治ってんだ? あのクソ野郎の仕業か……!?)
「命懸けのゲームだの選択権だのふざけやがって! 天使なんかじゃねえ、ただの独裁者じゃねえかクソ野郎が――」
『違いないですね』
突然、頭上からあの天使の声が割り込んできた。
「うわあああッ!?」
『驚きましたか? 見事な威勢の良さでしたよ』
「なんでここに現れたんだ!?」
『現れた……とは失礼な。ですがまあ、気に入りましたよ』
「は?」
『その「独裁者」という呼び名です。語感が良い。これからはそう呼ぶといいでしょう。ところで……こんなボロボロの教会で何をしているのですか?』
「お前には関係ないだろ! 質問するのは俺の方だ、なんでここにいるんだよ!?」
『迷子のプレイヤーを放っておくのは私の性に合いませんのでね。不憫でしょう?』
「さっさと本題を言え!」
『やれやれ……貴方は私の説明の最中に気を失っていましたからね。親切心で教えてあげようというのです』
独裁者は翼を揺らしながら言葉を続けた。
『既にお気づきでしょうが、プレイヤーは三人組で構成されています。各トリオには固有の記号と神殿が存在する。ルールは至ってシンプル……自分の神殿に一千ポイントの「カルマ」を奉納し、勝利を掴み取りなさい』
「神殿……?」
『この森のどこかに存在しますよ。まあ、早く探しに行くことですね』
「クソ野郎が……思わせぶりな言い方しやがって。お前の助けなんて要らない、自分で解決する!」
『なら好きにしなさい、自称・主人公くん。ただ一つ助言しておきますが……該当する神殿は早めに見つけた方が身のためですよ。もうすぐ夜が明けますからね。朝の森で無防備でいたくはないでしょう?』
「なっ……!」
ユウリは吐き捨てるように踵を返し、森の中へと全力で走り出した。
『言い忘れましたが! 貴方の神殿には、その腕と同じ記号が刻まれていますからね!』
独裁者の高笑いを背に、ユウリは振り返ることもなく走り続けた――。
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