第五話
ごめんなさい…話数が間違ってました…
テスト週間になるので、再来週、来週分の内容が薄くなるかもしれないです。お願いします。
読んでくださりありがとうございます。
馬車の荷台の揺れが止まったのは、どれくらいの時間が経ってからだったか。 乱暴に扉が開かれ、俺は麻袋か何かのように外へと放り出された。
そこは陽の光すらまともに届かない、ひどい悪臭が立ち込める場所だった。地下のスラム街なのか、ならず者たちの吹き溜まりなのか、今の俺には知る由もない。
薄汚れた手で俺の首根っこを掴み上げたのは、歯の欠けた痩せこけた男だった。男は俺を品定めするように見つめた後、舌打ちをして地面に転がした。
殺されなかったのは幸運だったのか、それとも地獄の始まりだったのか。 俺の新しい「仕事」は、物乞いのダシにされることだった。
ボロ布に包まれ、人通りのある(とはいえ、歩いているのは目つきの悪いゴロツキばかりだが)路地の隅に転がされる。俺が空腹で泣き声を上げれば、通りすがりの奴らが気まぐれに硬貨を投げたり、残飯を恵んでくれたりする。それを俺らから施設の手下達が回収していくのだ。
前世で神職に就き、それなりに矜持を持って生きてきた大人の精神を持つ俺にとって、それは死ぬこと以上の屈辱だった。
最初の頃は、気を保とうと必死だった。 馬車の中で母を撃った黒ずくめの男の顔を思い出し、いつか必ずぶち殺してやると、胸の中でどす黒い炎を燃やし続けていた。
神主の知識も、ルナから貰ったはずの『神を司る能力』も、何かの拍子に使えるようになるはずだ。そう信じていた。
だが、現実は残酷だ。 赤ん坊の体というのは、俺が想像していた以上にどうしようもなく無力だった。
腹が減れば、大人の理性を吹き飛ばすほどの飢餓感が脳を支配する。寒さに晒されれば、あっという間に熱を出して意識が朦朧となる。泥水を啜り、誰かが吐き捨てたような腐りかけのパンの欠片を胃に流し込んで、ただ命を繋ぐだけ。
「くそっ、なんで……」
言葉にならないうめき声しか出ない。 一年が経ち、二年が経つ頃には、あんなに激しく燃えていた復讐心すら、すり減って消えかかっていた。 怒りを抱くには、カロリーが要る。今の俺には、明日生き延びるための熱量すら足りていない。ただ息をして、泥に塗れて、虫のように生かされているだけ。 綺麗なエメラルドの瞳で微笑みかけてくれた母の顔も、今では遠い夢のようだった。
そして、三年が経った。 三歳といえば、本来なら言葉を覚え、親の周りを元気よく走り回る時期だろう。 しかし、俺の体はガリガリに痩せ細り、まともに立ち上がることすらできず、地面を這いつくばるのがやっとだった。手足には泥と排泄物がこびりつき、髪は垢で固まっている。 心は完全に擦り切れ、もはや何を見ても感情が動かなくなっていた。
ただ、次にいつ残飯が降ってくるかだけを待つ、虚ろな日々。
そんなある日のことだった。
いつも俺が転がされている薄暗い路地裏の隅っこ、鉄格子がはまったような一時的な牢屋(あるいは家畜小屋)の中に、新しい「商品」が放り込まれた。
ドサリ、と鈍い音がして、血の匂いが鼻を突く。 俺は虚ろな目を向けた。
そこに倒れていたのは、ボロボロの布切れを纏った獣人の子供だった。 犬か狼のような獣耳と、泥に塗れた尻尾。年齢は俺より少し上、五歳か六歳くらいだろうか。手足には重そうな鎖が繋がれ、全身には生々しい鞭の跡や打撲の痕が無数に刻まれていた。
また、どこかで捕まってきた奴隷か。 俺は興味を失い、再び目を閉じようとした。――その時だった。
鎖を鳴らしながら、その獣人がゆっくりと顔を上げたのだ。 ボサボサの前髪の隙間から覗く、黄金色の瞳。
ビクッと、俺の体が本能的に震えた。 それは、弱者の目ではなかった。これほど痛めつけられ、泥水の中に放り込まれているというのに、その瞳の奥にはギラギラとした『強者』の光が宿っていた。絶対に屈しないという、獣の猛り。 前世を含めても、あんな目をしている生き物を俺は見たことがなかった。
「こんにちは」ぐらいは言いたいが流石に言えない。
獣人は、這いつくばっているガリガリの俺を一瞥した。 互いの視線が交差する。 泥と血の匂いが充満するどん底の世界で、後に異世界全土にその名を轟かせる『剣聖』との、それが最初の出会いだった。
一言:ツンデレの幼なじみ(?)の剣聖っていいよね
読んでくださりありがとうございます!
なるべく週末の朝7時に更新をしていく所存です…
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