表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
92/103

第92話 村の戦争が終わったと思ったら、超越者たちに地下闘技場へ拉致されました ~俺、ただの一般人じゃなかったらしい~

「――では、始めようか」


 パチン。


 軽い音だった。


 ただ。


 その瞬間。


 世界が裏返った。


 ――ぐにゃり。


 空間そのものが捻じ曲がる。


 床が消える。


 壁が溶ける。


 天井が砕ける。


 視界が反転する。


 次の瞬間。


 和人は別世界に立っていた。


「……ここは」


 息を呑む。


 巨大なドーム。


 円形闘技場。


 天井は異様なほど高い。


 漆黒に染まる空間。


 ところどころ青白い照明だけが淡く灯っている。


 まるで。


 世界そのものが死んだ後の空間だった。


 そこに立つのは六人。


 和人。


 律子。


 悪魔バンティン。


 そして。


 金髪の少年――レオニダス。


 ゴスロリ少女――盲。


 ……もう一人。


 闘技場中央。


 静かに立つ女。


 長い黒髪。


 顔の大半を隠すほど前に垂れている。


 紫色のワンピース。


 異様なまでの静寂。


 その姿を見た瞬間。


 盲が露骨に顔をしかめた。


「……うわ」


「最悪」


「なんでここなのよ」


 レオが肩をすくめる。


「いやさ」


「中立な審判必要でしょ?」


「こういう時って」


 和人と律子は呆然としていた。


 一方。


 バンティンだけは違った。


 顔面から血の気が消えている。


(……馬鹿な)


(……超越者……!?)


(また一体……!?)


(なんなんだこいつらは……!!)


 その時だった。


 長い髪の女がゆっくり歩き始める。


 足音が響く。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


 空気そのものが重くなる。


 女はまずレオの前に立った。


「……久しいな」


 レオが手をひらひら振る。


「やあ」


「久しぶり、百目ちゃん」


 ――百目。


 その名前が響いた瞬間。


 女は右手を持ち上げた。


 ぱっと開く。


 次の瞬間。


 和人は固まった。


 手のひら。


 そこに。


 目があった。


 ぎょろり。


 生きている。


 瞳孔が動く。


 きょろきょろと辺りを見回す。


 そして。


 ピタリ。


 和人で止まった。


 沈黙。


 次の瞬間。


 百目の口角が吊り上がった。


「……これはこれは」


「私の推しではないか」


 ニヤァ……。


 背筋が寒くなる笑み。


 即座に盲が吐き捨てる。


「あんたの推しは、そいつじゃなくてその従兄弟でしょ」


 百目が首を傾げる。


 数秒。


 そして。


「ああ」


「……いたのか、盲」


 空気が凍る。


 盲の眉がピクリと動いた。


「……そういうとこよ」


「ほんっと最低」


「相変わらず性格腐ってるわね」


 百目が楽しそうに笑う。


「おや」


「まだ根に持っておるのか?」


「三百年前の話であろう?」


「誰のせいよ!!」


 盲が叫ぶ。


 レオが慌てて割って入る。


「はいはいはいはい」


「喧嘩しない」


「今日は試合だから」


 百目は鼻で笑った。


「ふん」


「私を除け者にしてずいぶん楽しんでおったようじゃな」


 レオが両手を広げる。


「今回はスーパーアリーナ用意したから」


「許してよ」


 数秒。


 百目はゆっくり前髪をかき上げた。


 その瞬間。


 和人は息を止める。


 両目が――ない。


 空洞。


 その代わり。


 額の中央。


 巨大な一つ目。


 異様な巨大な瞳が。


 ぎょろり。


 全員を見る。


 バンティンが一歩後退した。


 本能が理解していた。


 ――格が違う。



 百目が笑う。


「では」


「決闘じゃな」



 指を一本立てる。


「ルール説明をする」


 声が変わる。


 さっきまでの軽薄さが消えていた。


 絶対者の声。



「勝敗条件」


「どちらかが降参するか」


「死ぬまで」


「意識を失った場合も続行」


「死ぬまでじゃ」


 バンティンの喉が鳴る。


 百目は続ける。


「正々堂々」


「誇り高く」


「漢らしく戦うこと」


「最も大切な決まりじゃ」


 額の巨大な目が細くなる。


「……しょっぱい試合は嫌いでな」


 盲がぼそっと呟く。


「お前が言うな」


 完全に聞こえていた。


 百目の視線だけが盲へ向く。


「……後で殺すぞ」


「やれるもんならやってみなさいよ」


 火花が散る。



 レオが額を押さえた。


「ほんと仲悪いなあ……」



 百目が再び二人を見る。


「武器使用可」


「暗器は禁止」


「身体の一部――牙、爪などは許可」


「時間無制限」


 そして。


 巨大な一つ目がゆっくり和人へ向く。


「……よいな?」


 和人は無言で頷いた。


 バンティンも頷く。


「では」


 百目が指差す。


「白線に立て」


 二人が向かい合う。


 バンティンは和人を見る。


 普通の青年。


 ただの人間。


 魔力反応も薄い。


(勝てる)


(問題ない)


(所詮ヒューマンだ)


 ファイティングポーズ。


 余裕が戻る。


「……降参した方がいいのでは?」


 バンティンが笑う。


 和人は何も答えない。


 ただ。


 静かだった。


 異常なほど。


 百目が腕を振り下ろす。


「――始め!!」


 その瞬間。


 バンティンが動いた。


 悪魔の身体能力。


 瞬間加速。


 爪が一直線に和人の首を狙う。


 だが。


 その刹那。


 空間が歪んだ。


 ……いや。


 違う。


 世界そのものが。


 沈んだ。


「……な……?」


 ドンッ――!!


 凄まじい圧力。


 視界がぶれる。


 膝が砕けそうになる。


 肺が潰れる。


 心臓が押し潰される。


「……ぐ……ッ……!?」


 重い。


 重い。


 重い。


 異常。


 ありえない。


 全身が。


 星そのものに押し潰されているようだった。


 次の瞬間。


 バンティンの身体が地面へ叩きつけられた。


 轟音。


 床が陥没する。


 蜘蛛の巣状に亀裂が走る。


 タイルが弾け飛ぶ。


「が……はっ……!!」


 呼吸ができない。


 指一本動かない。


 何だ。


 何が起きている。


 こいつ。


 何者だ。


(……重力……?)


(違う……)


(もっと根本的な……)


(存在そのものに圧力を……!?)


 バンティンの瞳に恐怖が浮かぶ。


 和人が歩く。


 一歩。


 また一歩。


 その歩調に合わせるように。


 バンティンの骨が軋んだ。


 ミシ……


 ミシミシ……


 頭蓋骨が悲鳴を上げる。


「……ぐああ……!!」


 それを。


 律子は黙って見ていた。


 息を止めるように。


 じっと。


 その右手は。


 無意識に。


 自分の腹部へ置かれていた。


 まるで。


 まだ存在しない何かを。


 確かめるように。


 あるいは。


 遠い未来に生まれる“それ”を。


 守るように。


 その瞳だけが。


 誰よりも深く。


 この先に訪れる未来を見つめていた。


 そして。


 誰も気づかない。


 その瞬間だけ。


 律子が小さく。


 本当に小さく。


 こう呟いていたことを。


「……やっぱり……ここまでは……同じ……」


 闘技場の空気が凍る。



 百目の巨大な瞳だけが。


 じっと律子を見ていた。


 まるで。


 何かに気づいたように。




 ――次の終末が、静かに産声を上げようとしていた。




☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ