表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
88/103

第88話 100円ショップのカッターだと思っていたら、世界を斬る聖剣でした ~悪魔も宇宙人もまとめて消し飛ばしたら嫁がドン引きしています~

 袈裟懸村、防衛線。


 夜。


 燃え上がる家屋。


 悪魔の咆哮。


 血の匂い。


 その戦場の中央で――犬神信人は静かに銃を構えていた。


 照準の先。


 そこに立つのは、一際巨大な体躯を持つ悪魔。


 狼頭の上級悪魔――ルプス。


 鋭い牙を覗かせながら、獣の瞳でこちらを見据えている。


 信人は無言だった。


 引き金を引く。


 ――パンッ!!


 ――パンッ!!


 ――パンッ!!


 三連射。


 だが。


「遅ぇ」


 黒い残像だけを残し。


 ルプスが視界から消えた。


 次の瞬間。


 目の前。


 巨大な鉤爪が信人の首を狙って振り下ろされる。


 だが。


「想定内です」


 信人は拳銃を投げ捨てる。


 背中から引き抜く。


 大型電動チェーンソー。


 ギュイイイイイイイイイイイイイ――――!!


 高速回転。


 直後。


 ガギィィィィィィン!!


 狼の鉤爪とチェーンソーが激突した。


 火花が散る。


 地面が抉れる。


 ルプスが後方へ飛び退く。


「……少しはやるようだな」


 巨大な狼口から舌が覗く。


 信人はチェーンソーを肩へ構えた。


 箱崎モータース製。


 対レプティリアン戦闘用改造モデル。


 まだ切り札は残っている。


「……じゃあ、今から少し本気出しますよ」


 親指で側面スイッチを押す。


 無機質な電子音。


【対レプティリアンモード起動】


【超電導回路接続】


【高周波振動ブレード、展開】


 キュイイイイイイイイイイイイイン――――!!


 空気そのものが震えた。


 地面の砂が浮く。


 ルプスの瞳が細くなる。


「……面白ぇ玩具じゃねぇか」


 舌なめずりした。


 殺意が増す。


 


 そのすぐ隣。


 聖子もまた死闘を繰り広げていた。


 相手は女狼悪魔――ルパ。


 ギギギギギ……!!


 刀と爪が激しく擦れ合う。


「あんた……なかなかやるじゃない」


 ルパが大口を開く。


 そのまま聖子の首筋へ噛みつこうとする。


 聖子は即座に後方跳躍。


 紙一重で躱す。


 着地。


 そのまま踏み込む。


 居合いのような鋭い一閃。


 だが。


 ――キィン!!


 爪で防がれる。


 二撃目。


 かわされる。


 三撃目。


 


 バキン。


 刀身が砕けた。


「っ……!」


 聖子の呼吸が乱れる。


 肩で息をする。


 冷や汗。


(まずい……)


(技術は互角……でも身体能力が違いすぎる……!)


 対するルパは余裕だった。


「あんたも分かってるんでしょ?」


「……私の方が強いって」


 聖子は睨み返す。


「そうね……でも……」


「ひっくり返せないほどの差じゃないわ」


 ルパが笑う。


 両手の爪を構えた。


「なら――凌いでみなさい」


 


 消えた。


 


 背後。


 


 殺気。


 


 振り向く。


 間に合わない。


 


 ザシュッ――――!!


 鮮血。


 聖子の肩が裂けた。


「かはっ……!」


 吹き飛ぶ。


 地面を転がる。


 視界が揺れる。


 そのまま。


 ルパがゆっくり近づいてくる。


 髪を掴む。


 そのまま片手で持ち上げた。


「このまま……亭主の前で」


「頭……握り潰してやるよ」


 ミシミシミシ……


 頭蓋骨が軋む。


 意識が遠のく。


 その向こうで。


 信人はまだルプスと斬り結んでいた。


 助けは来ない。


 


 ……終わる。


 


 その時だった。


 聖子の手がポケットへ伸びる。


 指先が触れた。


 小さなプラスチック。


 以前もらった。


 安っぽいカッターナイフ。


 


『聖剣シャイニングスター』


 


 ……どう見ても百均。


(こんなの……ただのお守りでしょ……)


 ずっとそう思っていた。


 だが。


 今。


 この瞬間。


 頼れるものは。


 これしかない。


 ルパが鼻で笑った。


「そんなもので何が――」


 


 聖子は振った。


 


 小さな刃が。


 ルパの腰から肩へ。


 静かに。


 一線を描く。


 


 その瞬間。


 


 世界から――音が消えた。


 


 風が止まる。


 炎が止まる。


 血飛沫が空中で静止する。


 色彩が消える。


 


 白。


 黒。


 


 二色だけの世界。


 時間そのものが凍結した。


 ルパだけが目を見開く。


 動けない。


 


 聖子の手の中。


 小さなカッター。


 


 カチリ。


 


 刃が一段伸びる。


 


 その音だけが。


 世界に響いた。


 


 まるで。


 


 世界そのものに。


 


 切れ目を入れるように。


 


 次の瞬間。


 


 色彩が戻る。


 


 沈黙。


 


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 


 ルパが笑う。


「……ふん、それで傷でも――」


 


 その時。


 


 ギギギギギギギギギギギ……


 


 異音。


 


 ルパの背後。


 家屋が。


 木々が。


 悪魔たちが。


 地面が。


 


 斬撃軌道上。


 すべてが。


 


 ゆっくり。


 ずれていく。


 


 斜めに。


 


 崩壊。


 


 ルパが下を見る。


 自分の身体も。


 ゆっくり。


 斜めに。


 ずれていた。


 


「……え……?」


 


 それが。


 最期だった。


 


 ズルリ。


 


 真っ二つ。


 


「ルパァァァァァァァァァ!!」


 ルプスが叫ぶ。


 その瞳に浮かんだのは怒りではない。


 純粋な動揺。


 その一瞬。


 信人は逃さなかった。


「……あなたには悪いですが」


 チェーンソー最大出力。


 


 ギュオオオオオオオオオオオ!!


 


 超電導高周波振動刃。


 


 一閃。


 


 ルプスの胸部を縦に裂く。


 


 血飛沫。


 肉片。


 


「これで終わりです」


 ルプスの瞳から光が消えた。


 崩れ落ちる。


 


 聖子はその場にへたり込んだ。


 呼吸が止まりそうになる。


 手を見る。


 そこにあるのは。


 白いプラスチック製。


 数百円もしない安物。


 どう見ても。


 どう見ても。


 


 百均のカッターだった。


 


 前を見る。


 


 五百メートル先まで。


 斜めに切断された森林。


 崩れた家屋。


 断ち切られた悪魔の群れ。


 


「…………」


 


「いやいやいやいや……」


 


 視線をもう一度手元へ。


 


「……これ……」


 


「百均じゃないでしょおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 


 その時だった。


 


 空間が揺らぐ。


 


 水面のように。


 


 ゆらり。


 


 夜道に何もない空間。


 そこから。


 一人。


 また一人。


 また一人。


 現れる異形。


 老人。


 少女。


 男。


 女。


 その皮膚を覆う鱗。


 縦に裂けた瞳孔。


 鋭い爪。


 


 その数――七。


 


 先頭。


 老婆。


 


 桜井。


 レプリカント。


 No.94。


 


 無機質な瞳が聖子を見る。


 


「――検体、確認」


 


 聖子の背筋が凍った。


 だが。


 No.94の視線は。


 聖子ではない。


 その手に握られた小さなカッター。


 


 初めて。


 その顔に変化が走る。


 


 驚愕。


 


「…………ロストアーティファクト」


 


 声が震えていた。


 


 機械のような存在が。


 初めて。


 恐怖を見せた。


 


 夜風が止む。


 月が雲に隠れる。


 


 そして――


 本当の地獄が。


 今。


 始まろうとしていた。


☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ