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第87話 袈裟懸村防衛戦線・最終局面――地獄の軍勢五百体、だがこの村の住人の方がもっと化け物だった。

 夜の袈裟懸村。


 もはや――そこは戦場などという言葉で片づけられる場所ではなかった。


 巨大化した熊の怪物が、悪魔の胴体をその牙で噛み砕く。


「グオオオオオオオオオオッ!!」


 鮮血が噴水のように吹き上がる。


 その横では、銀髪の邪龍ツボニールが空中で旋回し、巨大な尾を振るった。


 衝撃だけで三体の悪魔がまとめて吹き飛び、民家の壁に叩きつけられる。


「ふはははは! 脆いのう!」


 さらに影が走る。


 漆黒の装束。


 忍――黒煙。


 音もなく悪魔の背後へ回り込み、首筋へクナイを滑らせる。


「……忍法・首落としでござる」


 ズドッ――。


 首が転がった。


 さらにその先。


 銀色の身体を月光に反射させながら、ニック・チョッパーが巨大な斧を振り抜く。


「どけぇぇぇぇぇッ!!」


 一撃。


 悪魔三体の上半身がまとめて吹き飛ぶ。


 返す刃でさらに首を刎ね飛ばす。


 その隣では、上半身裸の剣聖ガル・エンキが大剣を片手で振るっていた。


 一歩進む。


 ただそれだけで二体の悪魔が両断される。


「……遅い」


 ぽつり。


 それだけ。


 そして――さらに異形。


 巨大な食人植物と化した金田祥太朗が、大口を開き悪魔を丸呑みにしていた。


「んー……骨がちょっと多いかな」


 地獄だった。


 いや。


 違う。


 今夜だけは違う。


 悪魔こそが――狩られていた。


 その戦場の片隅。


 横転しかけたトラックを遮蔽物にして、犬神信人と聖子は銃撃を続けていた。


 パンッ!!


 パンッ!!


 二体の悪魔が吹き飛ぶ。


 だが――。


 カチッ。


 弾切れ。


 聖子は空になったマガジンを見て苦笑した。


「……こっちは終わり」


 隣で信人もため息をつく。


「こっちも、あと一つです」


 だが悪魔たちはまだ数十。


 距離を詰めてくる。


 その向こうでは熊と邪龍がまだ暴れているが――こちらまでは間に合わない。


 聖子はふとポケットを触った。


 硬い感触。


 あの時、ガイアリベレイター から渡されたもの。


 一本の安っぽいカッターナイフ。


 商品名。


 ――《聖剣シャイニングスター》


 製造元。


 ダーイタイソー製。


「……いやいや」


 聖子は鼻で笑う。


「こんなの役に立つわけ……」


 その時だった。


 ブルッ――。


「……え?」


 刃が震えた。


 まるで。


 何かに反応するように。


 生きているみたいに。


 聖子の鼓動が速くなる。



 同じ頃。


 村の西側。


 桜井の祖母――レプリカントNo.94は、悪魔の首を片手で握り潰しながら通信していた。


「本部、応答願います」


 無機質な声。


『応答する』


「最重要ロストアーティファクト反応あり」


 一秒の沈黙。


『最優先案件に変更。増援四体派遣。確保せよ』


「了解」


 No.94のお団子頭が揺れる。


 背後にいた二体のレプティリアンが頷いた。


 向かう先は――村の最深部。


 最悪の戦場。


「信人」


 聖子が静かに呼ぶ。


「はい?」


 信人はM4を投げ捨てた。


 代わりに腰のホルスターから50口径オートマチックを抜く。


 さらにトラックの荷台から引き抜く。


 電動チェーンソー。


 スターターを押す。


 ガガガガガガガガガッ!!


 狂ったような金属音。


「ここ、任せてください」


 だが聖子は日本刀を抜いた。


 先ほど吉田キヨから渡されたものだ。


「何言ってんの」


 月光を受け、刃が白く光る。


「アンタは――私の背中守るのよ」


 信人が目を見開く。


 一瞬だけ笑った。


「……了解です」


 その時だった。


 悪魔の群れが左右に割れた。


 まるで王を迎えるように。


 二つの影が前へ出る。


 一体は女。


 灰銀色の毛並み。


 細く妖艶な身体。


 長い尾。


 鋭い牙。


 女狼の悪魔。


 ルパ。


 そしてもう一体。


 二メートルを超える巨体。


 全身筋肉。


 背中から広がる黒翼。


 狼頭の悪魔。


 ルプス。


 その瞳は猛獣そのものだった。


 ルパが舌なめずりする。


「……ここはペアマッチといかない?」


 聖子が刀を構える。


「いいわね。女房対決ってわけ?」


 ルパが妖しく笑う。


「気に入ったわ」


 一方。


 ルプスが信人を見下ろす。


「じゃあ、お前の相手は俺だな」


 信人は右手に拳銃。


 左手にチェーンソー。


 冷静そのものだった。


「これ使いますけど……文句ないですよね」


 ルプスが鼻で笑う。


「構わねぇよ」


 そして後ろを振り返る。


「おい、お前ら――邪魔すんな」


 悪魔たちが後退する。


 信人は耳の通信機に触れた。


「マイクさん。カテリーナさん」


 無線が入る。


『ダイジョウブヨ〜。エンゴスル』


『コッチモマダイケルネー』


 少し笑って信人は言った。


「すみません。ここからは狙撃停止で」


『Why?』


 信人がチェーンソーを構えた。


「……タイマン勝負なので」


 ルプスの口元が歪む。


「気に入ったぜ」


 隣では聖子が刀を構える。


 ルパが四足歩行の姿勢になる。


 風が吹く。


 夜の空気が張り詰める。


 その背後では。


 熊が暴れ。


 邪龍が咆哮し。


 忍が闇を駆け。


 銀の木こりが斧を振るい。


 食人植物が悪魔を喰らい続けていた。


 そして――。


 村の外周から。


 新たに四つのレプティリアン反応が接近していた。


 最終局面。


 まだ終わらない。


 むしろ――


 ここからが本当の地獄だった。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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