第83話 3億円で召喚した少女が宇宙最強種族を瞬殺した件 ~しかも壺売り青年を「番」と呼んで離さない~
夜風が吹き抜ける。
袈裟懸村の山道。
月明かりが木々の隙間から零れ落ち、地面に銀色の斑模様を描いていた。
静寂。
しかし、その空気は張り詰めている。
一歩、動けば。
世界そのものが破裂するような緊張感。
向かい合う二つの存在。
レプティリアン・レプリカント――No.54。
そして。
古代邪竜。
ツボニール・ツヴァイ。
両者の視線が交差する。
次の瞬間――
消えた。
いや。
違う。
No.54が動いたのだ。
人間の視覚では認識すらできない速度。
一直線。
ツボニールの懐へ。
鋭利な鉤爪が少女の胸部を貫こうとする。
だが――
ガギィィィィン!!
「……ほう?」
ツボニールが笑った。
左手一本。
細い腕。
華奢な少女のような手で。
No.54の鉤爪を完全に止めていた。
そのまま。
空いた右手が蛇のように伸びる。
顔面へ龍爪。
No.54が反射的に身を引く。
風圧だけで地面が裂けた。
瞬間。
背後へ回り込むNo.54。
爪撃。
ツボニールが楽しそうに笑う。
「ほう……これを躱すか」
黄金の瞳が細くなる。
「……なかなか良いのう」
次の瞬間。
ツボニールが前へ出た。
一歩。
それだけ。
だが景色が置き去りになる。
No.54の目前。
右腕が突き出される。
No.54も反応した。
両腕で防御。
止めた――
……そう思った。
ツボニールが口元を歪める。
「……かかったの」
「……ッ!?」
グシャァッ!!
鈍い音。
No.54の肩口から鮮血が噴き上がった。
「ぐ……はっ……」
No.54の瞳が揺れる。
ツボニールの背後。
いつの間にか生えていた巨大な黒い尾。
鋭利な龍尾が肩を深く貫いていた。
そのまま。
持ち上げる。
華奢な少女の腕とは思えない怪力。
そして――
ドゴォォォォン!!
地面へ叩きつけた。
クレーター。
土砂が吹き飛ぶ。
ツボニールが追撃に入る。
龍爪が心臓へ。
だがNo.54が高速回転。
紙一重で回避する。
距離を取る。
肩の傷口が蠢く。
肉が盛り上がる。
骨が再構築される。
数秒で完全修復。
ツボニールが面白そうに眺める。
「……自動修復か」
腕を組む。
「よいの」
そして。
金色の瞳が輝いた。
空気が変わる。
世界が軋む。
「……では」
光が収束する。
瞳へ。
時間が止まったような静寂。
No.54が危険を察知し飛ぼうとする。
遅い。
ツボニールが笑う。
「これはどうじゃ?」
次の瞬間――
閃光。
轟音。
空間そのものが白く塗り潰された。
極太の光線。
龍眼から放たれた黄金の破滅。
一直線にNo.54を呑み込む。
ドォォォォォォォォォン!!!
爆炎。
熱風。
木々が薙ぎ倒される。
数秒後。
煙が晴れる。
そこに立っていたのはツボニールだけだった。
地面には――
No.54の下半身だけ。
上半身は消滅していた。
焼け焦げた肉の匂い。
ブス……ブス……と煙が上がる。
ツボニールが鼻で笑った。
「ふん」
「さすがに……これは修復できんじゃろ」
戦闘終了。
圧勝。
宇宙最悪の戦闘種族。
その尖兵が。
わずか数十秒で消された。
ツボニールは何事もなかったように振り返る。
そして壮介の元へ歩いていく。
そのまま――
ひょい。
壮介を抱き上げた。
「えっ?」
「つ、ツボニール様?」
ツボニールが聖子を見る。
「ここで待っておれ」
夜風に銀髪が揺れる。
「妾はこれより……お主の旦那を迎えに行く」
聖子が目を丸くした。
「……え?」
ツボニールが笑う。
「それが願いじゃろ?」
「え……あっ……」
すると壮介が慌て始めた。
「ぼ、僕も行くんですか!?」
ツボニールが当然のように頷く。
「当然じゃ」
ぎゅっと抱き寄せる。
密着。
「番じゃからな」
さらに身体を擦り寄せる。
「お主がおらんと魔力供給ができぬ」
聖子が固まった。
視線が往復する。
ツボニール。
壮介。
ツボニール。
壮介。
そして叫んだ。
「……あんたたち、そういう関係なの!?」
ツボニールはどう見ても十三歳程度。
完全にローティーン。
聖子が青ざめる。
「ちょっと待って……」
「壮介くん……それアウトじゃない!?」
壮介が慌てて首を振った。
「ち、違います!!」
「ツボニール様こう見えて……五万年以上生きてますから!」
聖子がさらに混乱する。
「情報量多すぎるのよ!!」
ツボニールが頬を膨らませる。
「何じゃ何じゃ」
「見た目で判断するでない」
胸を張る。
「心は常に乙女じゃ」
そして壮介に頬を寄せる。
「いずれは子も成す予定じゃしの」
瞳がハートになる。
壮介が真っ赤になる。
「つ、ツボニール様っ……!」
聖子が固まる。
「……で」
「つまりその子……嫁なの?」
壮介が慌てて訂正する。
「い、いえ!」
「僕はツボニール様の巫……契約媒体です!」
熊田が低く呟いた。
「……なるほど」
真剣な声。
「神格存在に選ばれ、その力の依代となる者……」
「神聖娼婦…いや娼夫…」
「極めて特殊な契約だな」
ツボニールが笑う。
「まあ……どちらでもよい」
そして。
ちゅっ。
壮介の頬に口づけた。
「妾のものじゃ」
壮介の顔が真っ赤になる。
「う、うわぁぁ……」
ツボニールは満足そうに頷く。
「……では」
黒翼が広がる。
巨大な魔力が渦を巻く。
「行ってくるぞ」
轟音。
二人の姿が夜空へ舞い上がる。
目指す先。
犬神信人の戦場。
だが――
その遥か別方向。
森の闇の中。
新たな影が動いていた。
赤い瞳。
不気味な殺意。
まだ誰も知らない。
袈裟懸村防衛戦は――
まだ終わっていないことを。
むしろ。
ここからが本当の地獄だということを。
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
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