第82話 3億円で世界最強を召喚しました ~怪しい壺を投げたら古代邪竜の幼女が出てきて宇宙最強種族と戦い始めた件~
夜の山道。
トラックは激しく揺れながら、袈裟懸村の奥へと突き進んでいた。
背後から迫る悪魔の軍勢。
さらに。
常識外れの速度で追跡してくるレプティリアン――No.54。
佐知子のブローニング重機関銃ですら止められない。
エレファントガンすら通じない。
完全な絶望。
その車内で――
場違いなほど穏やかな声が響いた。
「……この壺、買いませんか?」
にこっ。
壺井壮介が、いつもの気弱そうな笑顔を浮かべていた。
胸に抱えた古びた壺をそっと差し出す。
「願いが叶うんです」
沈黙。
狭い車内の空気が止まる。
聖子と熊田がゆっくり顔を見合わせた。
聖子の心の声。
(……いやいやいやいやいや)
(この状況で詐欺なの!?)
(頭おかしいでしょこいつ!!)
対して。
熊のぬいぐるみ姿の熊田が低く呟く。
(……いや)
(逆にこういう時だからこそ……信じるしかないだろう)
「……いいだろう」
熊田が前を向いたまま言う。
「君に賭ける」
「……いくらだ?」
壮介は少し考え――
営業マンのように笑った。
「そうですね」
「後ろのレプティリアンだけなら……1000万円」
「ですが――」
後ろを振り返る。
悪魔軍団。
迫るNo.54。
そして笑顔。
「敵を全部制圧するなら……3億円です」
「特別ですよ」
「初回限定サービスです」
沈黙。
熊田がゆっくりブラックカードを取り出す。
「クレジットカード払いでいいかね」
「いいえ」
壮介が首を振る。
そして。
まっすぐ聖子を見た。
「今回……出していただくのは聖子さんです」
「……え?」
壮介の目が妙に真剣になる。
「この戦いはあなたから始まっています」
「願掛けをするのは……あなたです」
静寂。
エンジン音だけが響く。
聖子は目を閉じ――
大きく息を吐いた。
「……私もだいぶイカれてるわね」
苦笑。
「この状況で……こんな怪しい壺に頼ろうとしてるなんて」
「成功報酬よね?」
壮介は頷く。
「ええ」
「今回は信者様扱いなので特別サービスです」
聖子が眉をひそめる。
「……信者になった覚えないんだけど」
壮介が不思議そうな顔になる。
「え?」
「犬神さん、うちの信者ですよ?」
「………………は?」
空気が止まる。
「ええええええええええええええっ!?」
聖子が絶叫した。
「あいつカルト入ってるの!?」
「カルトではありません」
壮介が胸を張る。
ドヤ顔。
「室町時代から続く由緒ある神社です」
「全然フォローになってないわよ!!」
No.54がさらに迫る。
あと数秒。
壮介が時計を見る。
「……で?」
「買わないんですか?」
「もう時間ありませんけど」
聖子は目を閉じた。
一秒。
二秒。
三秒。
そして――
「……いいわよ」
覚悟を決めた顔。
「買うわ」
「もちろん……3億円コースで」
熊田がじっと見る。
「君……そんな金あるのかね」
聖子が即答した。
「旦那が払うに決まってるでしょ」
「……それ君のお金じゃないよね」
ジト目になる熊田。
聖子は胸を張った。
「いいのよ!!」
「どうせあいつの子供産むんだから!!」
「もう私のもんよ!!」
「爆弾発言だな君!?」
その瞬間。
――ブゥゥゥン
空間が歪んだ。
宙に、一枚の紙が浮かび上がる。
黄金の文字が踊る。
《契約書》
壮介がペンを差し出した。
「こちらにサインを」
「……ほんと何なのよこれ……」
聖子は震える手で署名した。
すると。
壮介が深々と一礼する。
営業スマイル。
「ありがとうございます」
「殲滅コース」
「ご注文承りました」
壺を差し出す。
「では願いを込めて」
「外へ投げてください」
聖子は壺を掴む。
そして叫んだ。
「……もうヤケクソよ!!」
窓を開ける。
「敵を全部殲滅して!!」
「旦那と……みんなを守って!!」
全力で投げた。
夜空へ舞う壺。
ゆっくり。
ゆっくり。
まるで世界そのものが停止したかのように。
そして――
パリン。
壺が地面に落ちる。
砕ける。
次の瞬間。
轟音。
閃光。
白い世界。
そして――
「よくぞ言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少女の声。
眩い光の中心。
そこに立っていたのは――
銀髪。
腰まで伸びる絹のような髪。
12歳ほどの華奢な少女。
可憐な顔立ち。
控えめな胸。
だが。
頭部から二本の黒い角。
背中には裂けた黒翼。
瞳には――古代そのものを思わせる威圧。
少女は聖子を見る。
口元が吊り上がる。
「汝の願い――」
両手を広げる。
空気が震える。
「このツボニール・ツヴァイの名において」
「確かに聞き届けた」
大気が揺れる。
周囲の木々が軋む。
「その願い」
「成就したぞ」
高らかに宣言する。
そして。
ゆっくり振り返った。
その視線の先。
No.54。
レプティリアンがじっと少女を見つめていた。
分析。
観察。
警戒。
右腕の鉤爪を向ける。
「……貴様」
縦に裂けた瞳。
「龍種だな」
一歩前へ出る。
「同族として勧告する」
「こちらにつけ」
沈黙。
ツボニールは腕を組んだ。
鼻で笑う。
「……ふん」
空気が変わる。
圧力が増す。
少女の肌に黒い鱗が浮かぶ。
指先が鋭い龍爪へ変貌する。
瞳が黄金に染まる。
「下等な恐竜種風情が」
「妾に命令するとは」
口元が歪む。
「……笑止千万」
No.54が無機質に通信を飛ばす。
『本部。応答願います』
――応答する。
「原生種と遭遇」
「交渉不可」
数秒の沈黙。
そして。
――命令変更なし。
――サーチ・アンド・デストロイ。
No.54の目が細くなる。
「了解」
ゆっくり。
戦闘姿勢。
「……原住民か」
「いいだろう」
ツボニールがニヤリと笑う。
くいっ。
指を曲げる。
挑発。
「御託はよい」
「かかってくるがよい」
その瞬間。
月が雲間から顔を出した。
二つの怪物が向かい合う。
宇宙最悪の戦闘種族。
古代より眠る邪竜。
次の瞬間。
大地が――割れた。
袈裟懸村防衛戦。
最終局面。
人類の知らない怪物同士の戦争が――始まる。
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。




