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第81話 村を襲う悪魔軍団、宇宙最強種族まで乱入したので終わったと思ったら、怪しい壺売りが「願いを叶える壺、買いませんか?」と言い出した件

 夜の袈裟懸村。


 月明かりに照らされた山道を、一台のトラックが土煙を上げながら疾走していた。


 エンジンが悲鳴を上げる。


 荷台の鉄板がガタガタと揺れる。


 その運転席――


 ハンドルを握る佐知子の目は、鋭く前方を見据えていた。


 隣には聖子。


 後部座席には熊田と、カルトのような白衣姿の青年――壺井壮介。


「もう少し……もう少しで公民館ルートを抜ける……!」


 その瞬間だった。


 キィィィィィィィィィッ!!


 タイヤが悲鳴を上げる。


 佐知子が急ブレーキを踏み込んだ。


 車体が大きく揺れる。


 聖子がダッシュボードに手をつく。


「きゃっ!?」


「な、何よ!?」


 ヘッドライトの先。


 そこに――いた。


 女子高生。


 セーラー服。


 長い黒髪。


 華奢な体。



 ……しかし。


 その瞳は、人間のものではなかった。


 縦に裂けた瞳孔。


 両手から伸びる鋭利な鉤爪。


 制服の袖口から覗く鱗に覆われた皮膚。


 

 じっと。


 

 じっと。



 まるで獲物を見る捕食者のように、車内を見つめている。


 佐知子が小さく舌打ちした。


「……最悪ね」


 低い声。


「一番……来てほしくない連中が来たわ」


 聖子が固まる。


「……え……あ、あの子……何?」


 その時。


 聖子に抱えられていた熊のぬいぐるみ――熊田が低く呟いた。


「……レプティリアンだ」


 空気が凍る。


「な……」


「え?」


 熊田が珍しく本気の声を出す。


「恒星間文明の中でも最悪クラスの戦闘種族……」


「……こんなタイミングで来るとか……冗談だろ……」


 聖子が叫んだ。


「レプティリアンって……っ!!」


「えっ!?」


「ほんとにいたの!?」



 すると横で。


「えええええええええっ!?」


 壺井壮介が青ざめていた。


「な、なんですか今度は宇宙人なんですか!?」


 その腕の中。


 大事そうに抱えていた壺がカタカタ揺れている。



 そして――


 さらに最悪な事態が起きる。



 背後。


 闇の中から無数の赤い眼が浮かび上がる。


 

 悪魔軍団。


 まだ数十体。


 こちらへ向かって全速力で迫っていた。


「後ろも来てる……!」


 聖子が振り返る。


 その瞬間――



 ドンッ!!!


 目の前の女子高生が消えた。


「……っ!?」


 次の瞬間。



 バァン!!


 車体が大きく沈む。


 ボンネットの上。


 No.54。


 女子高生型レプティリアンが、鉤爪を車体に突き立てていた。


 メキメキメキメキ……


 まるで紙でも破るかのように。


 分厚い鉄板が裂ける。


 聖子の顔が引きつった。


「うそでしょ……」


 No.54の瞳が聖子を捉える。


 そして――無機質な声。


「……発見」


 虚空へ向かって告げる。


『本部。応答せよ』


 機械的な通信音。


 ――応答する。No.54。


「検体を発見した」


 ――確保せよ。それ以外は破壊。


「了解」


「検体……?」


 聖子の背筋が凍る。


 佐知子は迷わない。


 片手で拳銃――50口径オートマチックを抜く。


 バン!!


 バン!!


 バン!!


 だが。


 No.54は消えた。


 速い。


 人間の動体視力では追えない。


「クソッ!!」


 その瞬間。


 佐知子がアクセルを床まで踏み抜いた。



 ゴォォォォォォォン!!


 急加速。


 No.54が車体から弾き飛ばされる。


 だが――


 背後にいた悪魔たちがレプティリアンを囲んだ。


「おい……てめぇ何者――」


 最後まで言えなかった。


 シュンッ!!


 一閃。


 五つの首が宙を舞う。


 血の噴水。


 さらに。


 

 一歩。


 

 二歩。



 三歩。


 通り過ぎるたびに悪魔が崩れていく。


 殺戮。


 蹂躙。


 No.54は悪魔を完全に無視し――


 再び車を追い始めた。


 

 その速度。



 異常。



「……チッ」


 佐知子が呟く。


「聖子ちゃん!!」


「運転代わって!!」


「え!? わ、わかった!」


 走行中。


 二人が座席を入れ替わる。


 後部座席へ移った佐知子は壮介を見る。


「いい?」


 ナイフのような鋭い目。


「耳塞いで頭下げて」


「は、はいっ!!」


 バサァッ!!


 荷台シートが剥がされる。


 そこに固定されていたのは――


 ブローニングM2。


 50口径重機関銃。


 佐知子がトリガーを握る。


 ドドドドドドドドドドドッ!!


 火線が夜を裂く。


 No.54に命中。


 だが――止まらない。


「……はぁ?」


 弾丸を受けながら走ってくる。


 皮膚が裂ける。


 肉が飛ぶ。


 骨が見える。


 ……だが再生している。


「化け物……!」


 佐知子は次の武器を取り出した。


 巨大な猟銃。


 エレファントガン。


 ニトロエキスプレス弾装填。


 二連射。



 ドォン!!


 

 ドォン!!


 No.54が大きく吹き飛ぶ。


「……よし!」


 しかし。


 ゆっくり。


 ゆっくりと。


 立ち上がる。


 裂けた肉が蠢く。


 骨が再生する。


 

 そのまま。


 再び全速力。


 佐知子が乾いた笑みを浮かべた。


「……まあ」


 腰からナイフを抜く。


「そうなるわよね」


 


 その時だった。


 後部座席。


 おずおずと。


「あのぉ……」


 全員が振り向く。


 壮介だった。


「……この状況……」


 困った顔。


「……なんとか出来ますけど」


 沈黙。


 聖子が目を丸くする。


「えっ……あんた強いの!?」


 壮介が慌てて首を振る。


「いえいえいえ!!」


「喧嘩とか一回も勝ったことありません!!」


「でしょうね」


 聖子が即答した。



 だが。



 壮介は真顔になる。


 ゆっくりと。


 胸に抱えた壺を掲げた。


 月光が反射する。


「……でも」


 にこっ。


 場違いなほど爽やかな笑顔。


「この壺……買いませんか?」


 沈黙。


「…………は?」


「願い……叶うんです」



 満面の笑み。


 車内の空気が完全停止した。


 

 その時。


 壮介の脳内に声が響く。


 ――くくく……


 幼い少女の声。


 どこか尊大で、艶めいた響き。



 ――ようやく……


 ――ようやくわらわの出番じゃな……


 

 壺が――淡く赤く光る。



 聖子と熊田が顔を見合わせる。


「……なにこれ」


「……嫌な予感だね」


 背後。


 なおも迫るNo.54。


 さらに遠方から悪魔の咆哮。


 

 空が白み始める。


 夜明けまで――あと僅か。


 そして。


 袈裟懸村防衛戦は。


 ついに――最終局面へ突入する。



 壺の中で。


 古代邪竜がゆっくりと笑った。


 

 ――では……


 ――願いを叶えてやろうぞ。


 その声は。


 まるで世界の終わりを告げるように――妖しく響いた。


☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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