第80話 人類最後の科学者――《ハインラインA型》、悪魔と星間最強種族を同時迎撃開始
袈裟懸村――西部戦線。
地獄だった。
夜の村道。
そこに転がるのは――数え切れない死体。
腕。
内臓。
千切れた翼。
地面を真紅に染める血液。
悪魔軍は完全に混乱していた。
それも当然だ。
西部から侵攻していた三十体の悪魔部隊は――今や壊滅寸前。
その原因はたった五体。
いや。
正確には――五人。
人間の姿をしていた何者か。
だが、その正体は人間ではない。
縦に裂けた瞳孔。
硬質な鱗。
鋼鉄より硬い鉤爪。
恒星間文明圏において最悪の戦闘種族。
――レプティリアン。
その中央。
桜井精肉店の老婆だった存在。
レプリカントNo.94が冷徹な瞳で悪魔を切り裂いていた。
腕が振るわれる。
次の瞬間。
悪魔の上半身と下半身がずるりと滑り落ちる。
血が噴水のように吹き上がった。
だがNo.94は一切見向きもしない。
その耳に通信が入る。
『――No.94、応答せよ』
「……本部、応答する」
機械のような冷たい声。
『村中央部にてアーティファクト反応確認』
一瞬。
No.94の瞳が細くなる。
『至急索敵。破壊後、回収せよ』
「了解。」
振り返る。
その後ろ。
腰の曲がった老人。
そして女子高生。
二体のレプリカントが待機していた。
No.9。
No.54。
「……目標変更。」
冷たい声。
「村中央部へ向かえ。」
二人は無言で頷く。
そして。
次の瞬間――地面が爆ぜた。
凄まじい脚力。
二つの影が一瞬で闇へ消える。
目指す先。
そこは――
鎧坂光司が戦闘中の最終防衛ライン。
同刻。
村中央部。
超大型決戦兵装《ハインラインA型》。
周囲には悪魔の死体が山のように積み上がっていた。
しかし。
まだ終わらない。
夜空にはなお十五を超える飛翔型悪魔。
鎧坂はコックピット内部で淡々とモニターを見ていた。
感情はない。
あるのは演算だけ。
「……現状報告。」
AIが即座に応答する。
【敵飛翔体、高度上昇中】
【飛行モード移行推奨】
「滞空可能時間。」
【七分二十二秒】
「撃墜可能数。」
【計算完了】
【確定撃墜二十五】
「残存戦力。」
【十五体】
鎧坂は数秒考える。
静かな声。
「地上戦対応可能か。」
【高確率で一体以上残存】
【小型核融合炉、活動限界接近】
【再起動まで六十分必要】
数秒。
沈黙。
そして。
「……了解。」
瞳が細くなる。
「飛翔モード移行。」
瞬間。
機体背部装甲展開。
ガコン――ッ!!
巨大な翼が広がる。
背中に搭載された大型リアクターが咆哮する。
ブォオオオオオオオオオオオッ!!
ジェット噴射。
地面が陥没。
ロケットのように巨体が夜空へ撃ち上がる。
【十秒後、敵中央突破】
【迎撃開始】
鎧坂が操縦桿を押し込む。
「……一掃する。」
次の瞬間。
ドドドドドドドドドドドドドッ!!
肩部。
左右一門。
二門大型キャノン砲。
一斉射撃。
夜空が真昼になる。
続けて。
右腕。
超大型ハンドキャノン。
閃光。
極太エネルギー弾。
飛翔悪魔がまとめて蒸発する。
空に火球が咲く。
ドカン!!
ドガァァァン!!
炎に包まれた肉片が落下していく。
夜空に浮かぶ火花。
まるで――線香花火だった。
【活動限界まで三分】
【強制着陸開始】
轟音。
ハインラインA型が地面へ着地。
だが。
前方。
新たに三十体。
悪魔軍増援。
「……継続迎撃。」
キャノン砲連射。
次々と吹き飛ぶ悪魔。
接近個体。
左腕装甲展開。
巨大な螺旋ドリル。
ギュオオオオオオオオッ!!
スパイラルクロー起動。
突撃してきた悪魔を串刺し。
そのまま内部から粉砕。
血霧が舞う。
しかし。
AI音声が変わった。
【警告】
【新規敵性反応】
【レプティリアン接近】
【十秒後、交戦圏】
鎧坂の目が動く。
「……確認。」
その時だった。
乱戦の中。
一人の老人が歩いてくる。
異様だった。
口元に牙。
瞳孔は縦に裂け。
両手は巨大な鉤爪。
その歩みの途中。
近づいた悪魔が五体。
だが。
老人は見向きもしない。
腕が一閃。
悪魔五体が同時に崩れ落ちた。
そして。
敵が消えた瞬間。
老人――No.9がゆっくり振り返る。
視線がぶつかる。
【活動限界まで三十秒】
鎧坂が左腕を構える。
スパイラルクロー高速回転。
だが。
次の瞬間。
No.9が消えた。
「――ッ!?」
一瞬。
反応できない。
ガギィィィィィン!!
鋭い鉤爪がキャノピーを貫く。
あと数センチ。
鎧坂の顔面が裂けていた。
「……速い。」
即座に反撃。
スパイラルクロー射出。
ロケットのように回転しながら突撃する。
必中。
鎧坂はそう判断した。
だが。
No.9は――両手で止めた。
ギギギギギギギ……
火花。
衝撃波。
そのまま巨体ごと吹き飛ばされる。
二転。
三転。
地面を転がる。
【小型炉停止】
【再起動六十分】
装甲解除。
コックピット展開。
鎧坂が静かに降り立つ。
その身体には――
忍者を思わせる流線型戦闘スーツ。
右手を前へ。
「……高周波ブレード。」
空間が歪む。
その手に一本の刀が形成される。
青白い刃が月光を反射した。
No.9が呟く。
「……アーティファクト。」
一歩前へ出る。
「持っているな。」
沈黙。
「渡せ。」
冷たい視線。
「見逃してやる。」
鎧坂は答えない。
ただ――刀を肩へ乗せる。
そして。
左手をゆっくり曲げる。
来い。
挑発。
No.9の瞳が細くなる。
「……そうか。」
地面が爆ぜた。
瞬間接近。
鉤爪が閃く。
ギィィィィィィン!!
強化装甲が裂ける。
だが。
同時。
鎧坂の刀がNo.9の脇腹を斬り裂いた。
血が舞う。
No.9が後退。
その瞬間。
鎧坂の左腕装甲展開。
「――射出。」
小型モーターハンドガン。
熱電化学弾頭。
バシュッ!!
光の軌跡。
No.9の肩を貫通。
表情が初めて歪む。
「……くっ……」
その隙。
鎧坂が消えた。
「終わりだ。」
一閃。
青白い軌跡。
No.9の首が宙を舞う。
身体が崩れ落ちる。
静寂。
風だけが吹く。
鎧坂は立ち尽くした。
そして。
ぽつりと呟く。
「……父さん。」
脳裏によぎる。
燃え盛る研究所。
最後に笑った父の顔。
あの日から二十年。
ずっと。
一人で戦ってきた。
だが――
AIが警告音を鳴らす。
【新規敵性反応】
【レプティリアン個体確認】
【No.54 高速移動中】
鎧坂が顔を上げる。
その先。
美しい月明かりの下。
高速で疾走する女子高生。
いや。
人間ではない。
レプティリアン。
No.54。
その進行方向は――
聖子たちのトラック。
鎧坂の瞳が細くなる。
「……まずい。」
次の瞬間。
彼は地面を蹴っていた。
夜が裂ける。
新たな戦場が――始まる。
(続く)
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。




