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第76話 最悪の防衛戦――超越者たちはポップコーン片手に地獄を観ている。

 袈裟懸村防衛戦――第三戦線


 和人のマンション。


 リビング。


 大型モニターには、袈裟懸村の各地で繰り広げられる戦闘映像が映し出されていた。


 その正面。


 ソファに深く腰掛けている二人。


 ――盲。


 黒いゴスロリドレスの少女。


 ――レオニダス。


 金髪碧眼、蝶ネクタイを締めた無邪気な少年。


 二人とも。


 同じ顔をしていた。


 ぽかん。


 完全に口が開いている。


 沈黙。


 先に口を開いたのはレオニダスだった。


「あれ……?」


 隣で盲が目をぱちぱちさせる。


「……うん」


 レオニダスが首を傾げる。


「なんか……思ってたのと……だいぶ違う」


「わかる」


 盲が真顔で頷く。


「私、もっとこう……」


「パニック映画になると思ってた」


「だよね?」


「うん」


 二人同時にモニターを見る。


 そこにはつい先ほどまで映っていた映像。


 命を賭けたニックとセルペンスの激突。


 そして。


 ガル・エンキとディルガームの魂を削る死合い。


 盲が腕を組む。


「胸熱バトル展開」


 レオニダスが続ける。


「敵同士なのに熱い友情」


 盲。


「王道少年漫画」


 レオニダス。


「ジャンプっぽい」


 二人同時。


「「これ、かなり面白いよね」」


 ぴったりハモった。


 横で。


 バンティンの顔が引きつっていた。


「……ありえない……」


 声が震える。


 セルペンス。


 ディルガーム。


 どちらも高位悪魔。


 最前線で何百年も戦い抜いてきた歴戦。


 その中でも上位。


 決して弱くない。


 それが。


 戦死。


 しかも。


 こんな辺境の星の。


 こんな田舎村で。


 しかも相手は意味不明な連中。


 盲がニヤリと笑う。


「ふふっ……次は少し違うわよ」


「次?」


 レオニダスが身を乗り出す。


 盲がモニターを指差した。


「金田さんだから♡」


 そこに映る男。


 黒いスーツ。


 無表情。


 そして。


 右手には――コアラの指人形。


 レオニダスの目が輝いた。


「あっ……」


 ニヤリ。


「あれ……」


「あれは……」


「Gliese 581-K《グリーゼ581-K》由来の」


「シンビオス・ナインじゃん」


 盲も口角を上げる。


「でしょ?」


「これは面白くなるわよ」


 その場の空気が変わる。


 和人。


 律子。


 バンティン。


 三人同時に寒気を覚える。


 ――何だ。


 ――何が始まる。


 久男だけは窓を見ながら呟く。


「……節さん遅いですね……」


「調整に時間がかかってるんでしょうか……」


 まるで別の心配をしていた。


 その頃――


 袈裟懸村。


 公民館を越えた奥の一本道。


 その先へ向かう十五体の悪魔。


 先頭の悪魔が足を止めた。


 目の前。


 ぽつんと立っている男。


 黒いスーツ。


 細身。


 表情は虚ろ。


 右手には。


 コアラの指人形。


 そのコアラが。


 喋った。


「よく来たね〜」


「待ってたよ〜」


 悪魔たちが顔を見合わせる。


「……なんだ?」


「指人形?」


「パペットマスターか?」


「魔力を感じねえぞ」


 一斉に襲いかかる。


 その瞬間。


 ぐちゅ。


 嫌な音。


 金田の左腕が――


 変形した。


 骨が軋む。


 肉が波打つ。


 皮膚が裂ける。


 内部から現れたもの。


 細長い。


 鋭利な刃。


 だが。


 それは金属じゃない。


 生きていた。


 ぐねぐねと。


 蛇のように。


 蠢いている。


 悪魔たちが止まる。


「……は?」


 次の瞬間。


 ヒュンッ――!!


 鞭のように腕がしなった。


 ザンッ!!


 五つの首が飛ぶ。


 遅れて血柱。


 悪魔たちは何が起きたか理解できない。


 さらに。


 ヒュンッ!!


 反転。


 また五つ。


 首が飛ぶ。


 さらに。


 ビュガァァァァッ!!


 四つ。


 肉片。


 骨片。


 眼球。


 内臓。


 赤い雨が夜空へ吹き上がる。


 静寂。


 金田が首を傾げる。


「あれ?」


 困った顔。


「……五体のつもりだったんだけど」


 生き残った一体。


 鷹の頭。


 高位悪魔。


 アッキピテル。


 全身から冷や汗が流れていた。


 ――十五人。


 ――いた。


 今。


 一人。


 自分だけ。


 さっきまで隣にいた仲間の首が。


 地面を転がっている。


 理解が追いつかない。


 金田がゆっくり近づく。


 優しい声だった。


「うん」


「これ避けたの……久しぶり」


「君……名前は?」


 アッキピテルの喉が震える。


「……アッキ……ピテル……」


 逃げたい。


 逃げろ。


 本能が叫ぶ。


 だが。


 身体が動かない。


 脚が凍りついていた。


 アッキピテルが震えながら言う。


「……あ……あんた……名前は……?」


 金田が少し考える。


「うん」


「金田祥太朗だけど……」


 コアラが喋った。


 ニヤリ。


「本当の名前はね」


「この星の生物には発音できないんだよ」


 ゾクリ。


 全身が総毛立つ。


 アッキピテルの瞳が開く。


 ――こいつはダメだ。


 ――絶対にダメだ。


 恐怖を振り払うように両手を突き出す。


 魔力を集中。


「死ねッ!!」


 ドゴォォォン!!


 光弾。


 連射。


 連射。


 連射。


「死ね!!」


「死ね!!」


「死ねぇぇぇ!!」


 魔力が尽きるまで。


 意識が飛ぶまで。


 爆炎。


 轟音。


 地面が揺れる。


 煙が立ち込める。


 数秒後。


 煙が晴れた。


 そこにいた。


「あ……ガ……ガガガ……」


 金田。


 だが。


 原型がない。


 胴体が裂けている。


 腕が千切れている。


 胸が半分消えている。


 顔も崩れていた。


 アッキピテルが震えながら笑う。


「……勝った……」


「は……はは……」


「化け物め……」


「やった……!」


 その瞬間。


 ぐちゅ。


 嫌な音。


 アッキピテルの笑顔が止まる。


 金田の裂けた胴体が。


 動いた。


 裂け目から。


 大量の歯が生えた。


 ギチギチギチギチ……


 肉が裂ける。


 口になった。


 巨大な。


 異常な。


 生物の口。


 それが。


 伸びた。


 一瞬で。


 眼前。


 アッキピテルの最後の視界。


 巨大な歯。


 闇。


 絶望。


 ――パクリ。


 静寂。


 ぐちゃ。


 咀嚼音。


 月が照らす。


 そこに立つ金田。


 何事もなかったように。


 元通りになっていた。


 だが。


 足元から。


 蔦が伸びていた。


 緑色の植物。


 皮膚を突き破り。


 蠢いている。


 月光を反射し。


 ぬらぬらと光る。


 金田が空を見上げた。


 右手にはまだコアラ。


 ぽつり。


「……げほっ」


「丸呑みは……行儀よくないよね」


 コアラが笑った。


「でも……まだ来るよ」


 金田が前を見る。


 闇の向こう。


 新たな殺気。


 さらに強い。


 さらに異質な。


 何かが近づいていた。


 その姿は――まだ見えない。


 だが。


 次の悪魔は。


 知ることになる。


 この村で最も戦ってはいけない怪物が。


 誰なのかを。


 夜はまだ。


 終わらない。


 ――続く。


☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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