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第68話 悪魔軍団が村を襲撃したら、待っていたのは変人しかいない秘密結社でした ~ようこそ、地獄の防衛戦へ~

「……くっ!」


 バンティン・シャモアの顔面から血の気が引いていた。


 まずい。


 完全にまずい。


 思考が高速回転する。


 ――全部、あいつだ。


 脳裏に浮かぶのは、あの少女。


 あの忌々しい超越者。


 盲。


 最初から知っていた。


 全部知っていて、自分をこの状況に誘導した。


(止めなければ……!)


 即座にスマホを取り出す。


 サブナックに連絡しなければ。


 襲撃を止める。


 今ならまだ間に合う。


 親指が発信ボタンに触れた――


 その瞬間。


 ……空気が止まった。


 ピキッ。


 空間そのものに亀裂が走る。


 温度が急降下する。


 部屋中の空気が凍りついた。


 マリアが突然立ち上がる。


 瞳が――赤い。


 異質な笑み。


 口元がゆっくり吊り上がる。


「……ふふふふふ」


 その声は、明らかにマリアのものではなかった。


「この身体……ちょっと借りるわね」


 全員が硬直する。


 和人。


 律子。


 久男。


 そして――バンティン。


 マリアの身体が揺らめく。


 パチン。


 指が鳴る。


 次の瞬間。


 服装が一変した。


 黒を基調にしたレース。


 幾重にも重なるフリル。


 赤いリボン。


 ゴシックドレス。


 小柄な少女。


 狂気を孕んだ笑み。


 盲。


「どう?」


 くるり、と一回転。


 スカートがふわりと広がる。


「これで分かる?」


 沈黙。


 数秒。


 盲が眉をひそめた。


「あれ?」


「……なんか反応薄くない?」


 久男が静かに口を開いた。


「……あなたは」


 少女は両手を腰に当てた。


 そして満面の笑み。


「私の名は盲!」


 大きく腕を広げる。


「人呼んで――」


 一拍。


 ドヤ顔。


「笑ゥゴスロリ少女!!」


 全員をビシッと指差す。


「ドーン!!」


 …………。


 …………。


 …………。


 完全沈黙。


 盲が困惑した。


「えっ」


「ちょっと待って」


「リアクション薄くない?」


 和人が小さく呟く。


「……いや……その……」


 律子も困っている。


「……何て反応すれば……」


 盲が頬を膨らませる。


「もう!」


「ノリ悪いなぁ!」


 そして。


 その視線がバンティンへ向く。


 ニヤリ。


 酷薄な笑み。


「約束……破っちゃダメだぞ♡」


 バンティンが睨みつける。


「……貴様……知っていたな」


「契約違反だ」


 盲は肩をすくめた。


「え?」


「何言ってるの?」


 小馬鹿にしたように笑う。


「私が教えたのは“村”の情報だけ」


 指を一本立てる。


「彼女の嫁ぎ先」


「マンション」


「家族」


「これ……契約内容に含まれてないよね?」


 絶句。


 バンティンが何も言えない。


 そして。


 盲が鼻で笑った。


「……それに」


「もう遅いよ」


 いつの間にか。


 彼女の手にはバンティンのスマホ。


 プッシュ。


 発信。


 数秒後。


『……そろそろ時間だ』


 サブナックの声。


 盲が満面の笑みを浮かべる。


「ああ、大丈夫よ」


 全員が凍る。


 バンティン「!!?」


 盲は完璧にバンティンの声色を真似していた。


「ああ、問題ありません」


「開始後……後詰め部隊も投入してください」


 電話の向こう。


『いいのか?』


『過剰戦力じゃないか?』


「いえ」


 盲は笑う。


「逐次投入より、一気に投入した方が被害は少ないです」


『……そうか』


『西山、東山の展開部隊も同時投入させる』


「ええ」


「ご武運を」


『ああ、お前もな』


 ――プツッ。


 通話終了。


 部屋が静まり返る。


 盲はニヤリと笑った。


 スマホを放り投げる。


 バンティンの胸に当たる。


「はい」


「返却」


 バンティンの顔面が引きつる。


 盲はソファに腰掛けた。


 足を組む。


 そして。


 とんでもなく楽しそうに笑った。


「さあ……」


「いよいよ始まるわよ」


「みんなで観戦しようじゃない」


「あいつら…どう出てくるか…」


「結末まで」


 バンティンが震えながら言う。


「……あいつら……とは?」


 盲の口角がゆっくり上がる。


 狂気そのものだった。


「ガイアリベレイター」


「悪魔」


「そして……」


 目が細まる。


「……あいつら♡」


「ぎゃはははははは!!」


 腹を抱えて笑う。


「もう最高!!」


「楽しすぎる!!」


 マンション中に狂った笑い声が響いた。





 同時刻。


 袈裟懸村。


 村の入口。


 闇夜を切り裂くヘッドライト。


 十数台の大型ピックアップトラックが列を成して進んでくる。


 しかし。


 その入口には。


 大型トラックが横向きに止められ、即席バリケードが形成されていた。


 その前。


 二人の男。


 迷彩服姿。


 肩にはショットガン。


 箱崎守。


 犬神信人。


 先頭車両が停止。


 ドアが開く。


 ズシン。


 地面が揺れる。


 現れたのは――


 サブナック。


 三メートル近い巨体。


 青黒い筋肉。


 禍々しい角。


 巨大な翼。


 まるで暴力そのもの。


 二人の前まで歩み寄る。


 二メートル。


 停止。


 赤い瞳が二人を睨む。


「……おい」


「ヒューマン」


 低い声。


「女を渡せ」


 箱崎と信人が顔を見合わせた。


 信人がじっと観察する。


「……悪魔って初めて見ました」


 箱崎が腕を組む。


「わしは何度か見たことあるぞ」


「別れたカミさんが怒ると、だいたいあんな感じじゃ」


 信人が頷く。


「鬼嫁ですね」


「お前んとこはもっと酷くなるぞ」


 サブナックの青筋が浮いた。


「……おい」


「舐めてんのか?」


 信人が軽く頭を下げた。


「ああ、すみません」


 サブナックが鼻を鳴らす。


「十五分待ってやる」


 翼が広がる。


「それ以上は待たん」


「皆殺しだ」


 箱崎が頷く。


「……十五分あるんじゃな」


 踵を返す二人。


 そのまま無線機を取り出す。


「十五分待ってくれるそうじゃ」


 山中。


 伏せ撃ち姿勢。


 アンチマテリアルライフルを構える巨漢。


 マイク。


 元SEALs。


 あり得ないほど腹肉がはみ出している。


『ラジャー』


『西部劇ミタイデスネ』


 別地点。


 ドラグノフ狙撃銃。


 カテリーナ。


『ラジャー』


『マモルとノブト……ドッチがセメデ、ドッチがウケデスカ〜』


 信人「無線切ってください」


 公民館前。


 巨大な斧を杖代わりに寝る男。


 ニック。


 その横。


 剣を地面に突き立て直立する王。


 ガル・エンキ。


 金田の声。


『こちら待機完了』


 別地点。


 鎧坂。


『配置済みだ』


 黒煙が揺れる。


『……忍ゆえ……連絡不要』


 佐知子。


『聖子ちゃんと熊田さん、トラックで待機中よ』


 熊のぬいぐるみが揺れる。


「安心したまえ」


「これより不利な戦場は何度も経験している」


 聖子いや……ぬいぐるみなんだけど……


 信人が村外れを見る。


 一軒だけ灯りがついている。


 律子の未来視で示された場所。


「……ぴったりですね」


 箱崎が頷く。


「空恐ろしいわ」


「車の数まで一致しとる」


 その視線が――村の西外れへ向く。


 夜の村。


 ほとんどの家が明かりを落としている中で。


 ――一軒だけ。


 ぽつん、と灯りがついていた。


 まるで。


 そこだけが、この戦場から切り離されているかのように。


 信人も視線を向ける。


「……本当に西側は空けるんですね」


 信人の問いに。


 箱崎は珍しく真顔だった。


「悪魔相手なら問題ない」


「問題なのは……その先じゃ」


「……?」


「この世にはな」


「起こしてはいかんもんがある」


 無線。


「全員……配置どおりじゃ」


『『『ラジャー!!』』』


 その時。


 箱崎が思い出した。


「……そういえば」


「ルージュは?」


 信人が苦笑する。


「娘さんが熱を出したそうです」


「なら仕方ない」


 箱崎が頷く。


「無理はさせん」


「八兵衛さんなら来れますよ」


「近くの温泉いるみたいです」


「……うっかりさんなんじゃろ」


「まあ次回ですね」


 二人はトラック後部へ向かう。


 そこから引っ張り出されたのは――


 異様な金属塊。


 巨大な六連銃身。


 キュイイイイイイイイイイン――!!


 高速モーター音。


 M134。


 手持ち式ガトリングガン。


 二人が保護レンズを装着する。


 信人が笑う。


「あいつら素人ですね」


 箱崎も笑う。


「奇襲のイロハも知らん」


 信人、安全装置解除。


「……まだ時間前ですが」


 箱崎が銃口を上げた。


「派手にいこうかの」


 次の瞬間。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!


 凄まじい火線。


 一分間四千発。


 先頭車両が爆散。


 炎柱。


 ガラスが砕け散る。


 遠方からの狙撃音さえ掻き消える轟音。


 夜空が赤く染まる。


 その瞬間。


 袈裟懸村。


 防衛戦――開始。


 そして悪魔たちはまだ知らない。


 今夜。


 襲撃する側こそが。


 狩られる側だということを。


(続く)

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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