第63話 ようやく面接が終わったと思ったら、次回の応募者がさらにヤバかった件
――十五分後。
会議室。
成川律子は、完全に魂が抜けていた。
ぐったりとパイプ椅子に沈み込み。
虚ろな目で天井を見つめている。
その隣では姉の聖子も、すでに限界を迎えていた。
「……お姉ちゃん」
「……なに……」
「私……もう何が普通なのか分からなくなってきた……」
「奇遇ね……私もよ……」
二人、遠い目。
つい十五分前まで。
自分たちは普通だった。
……少なくともそう思っていた。
だが今は違う。
秘密結社。
怪盗。
ブリキの魔女狩り。
パンツ一丁の英雄王。
しゃべる熊。
段ボール科学者。
コアラ型宇宙生命体。
……もう考えるだけ無駄だった。
すると。
資料を整理していた犬神信人が、何事もなかったかのように口を開いた。
「では」
「次回面接は一ヶ月後になります」
律子。
(……まだやるんだ)
信人は新しい履歴書を全員に配り始めた。
「候補者の事前選考を始めます」
律子、嫌な予感しかしない。
信人は一枚目を手に取った。
「まずこの女性ですが」
全員の視線が写真へ向く。
そこには――
艶やかな黒髪。
落ち着いた微笑み。
柔らかな雰囲気を持つ大人の女性。
どう見ても優しそうな美人だった。
信人が淡々と説明する。
「現在四十二歳」
「お子さん二人」
「すでに成人済みで就職」
「元魔法少女です」
「過去に仲間と共に魔王討伐経験あり」
会議室が静まる。
数秒後。
箱崎守が腕を組んだ。
「……これ」
「魔法少女ではなく」
「魔法熟女じゃな」
律子が吹きそうになる。
箱崎は真顔のまま続けた。
「まあ……わしから見れば大差ないが」
その隣。
テーブルの上の熊――熊田雄一郎がうんうん頷いた。
「でも良いんじゃない?」
「能力に衰えなしって書いてる」
金田が聞く。
右手コアラが揺れた。
「で?」
「これ誰の推薦?」
その瞬間。
ガサガサ……
段ボールが挙手する。
鎧坂博士だった。
「……私です」
金田が履歴書を見直す。
「あれ?」
「名字……鎧坂?」
数秒沈黙。
鎧坂が照れくさそうに段ボールの兜を触った。
「……お恥ずかしながら」
「妻でして」
「「ええええええええええええええええええええええ!!」」
聖子と律子、完全同期。
同時に立ち上がる。
「結婚してるの!?」
「えっ待って!!」
「しかも!!」
履歴書を見る。
超美人。
モデル級。
明らかにモテる。
二人同時に。
段ボールを見る。
履歴書を見る。
段ボールを見る。
履歴書を見る。
段ボールを見る。
「……なんで?」
鎧坂、咳払い。
「ええ……」
「妻は魔法少女コンテスト二連覇しておりますので」
律子。
(情報量が多い……)
聖子。
「私もう……ツッコみ疲れた……」
信人は次の履歴書を出した。
「では次です」
「これは私の推薦です」
写真には。
スーツ姿の年配男性。
優しそうな顔。
人の良さそうな笑顔。
信人が説明する。
「新潟のちりめん問屋勤務」
「長年、副社長の随行員」
「全国に広い人脈があります」
「人柄とコネクションで仕事するタイプですね」
「かなり愛されています」
「忍術も少々」
「戦闘能力も一定以上」
「ただ……少々うっかりするのが欠点ですね」
「あと日本中の名物料理に異常に詳しいです」
聖子の顔が固まった。
じっと履歴書を見る。
名前欄。
山形八兵衛
「……も、もしかして……」
聖子の口が引きつる。
「……うっかり八兵衛なの!?」
信人が驚く。
「おや」
「山形さんをご存知で?」
聖子焦る。
「あっ……いや……なんとなく……」
箱崎が頷いた。
「情報員として優秀そうじゃ」
「書類審査パスじゃな」
信人がさらに続けた。
「あ、もう一人いるんですが」
「全国を仕事で回る方なんですよ」
「食べ歩きが趣味でして」
「昼食代に五千円とか普通に使います」
箱崎が聞く。
「……何ができるんじゃ?」
信人は真顔。
「全国の美味い店を熟知しています」
「ほら」
「命をかける前の食事でまずいもの食べたくないじゃないですか」
数秒沈黙。
箱崎が深く頷く。
「……そうじゃな……」
妙にしみじみしていた。
その時。
律子が恐る恐る口を開く。
「……も、もしかして……」
「その人……ゴローさんって……」
信人が驚いた。
「えっ」
「過去視しました?」
律子全力で首を振る。
「い、いや……勘です……勘……」
箱崎が手を振る。
「まあその者は……おいおいじゃな」
律子。
(絶対違う意味でヤバい人来る……)
すると今度は金田が挙手。
コアラがぴょこぴょこ揺れる。
「じゃあ次は僕」
新しい履歴書。
そこには。
ベールを被った女性。
……なぜか壺を抱えている。
律子。
(嫌な予感しかしない)
金田が嬉しそうに言った。
「伝説の占い師」
「スネーク佳世さん」
「的中率なんと九十五パーセント」
律子の目が見開いた。
(……九十五!?)
(えっ)
(私より当たるじゃない!!)
金田は続ける。
「履歴書が空白なのはね」
「《謎の占い師》設定を崩したくないからだって」
「僕、結構相談するよ」
「どこでご飯食べたらいいかとか」
律子の胸に希望が灯る。
(……この人……)
(採用されたら……)
(私いらなくなるんじゃ……?)
(引退できるかも!!)
しかし。
箱崎は腕を組んで悩んでいた。
「……うーむ」
信人も難しい顔。
「すでに未来視持ちメンバーいますからね」
律子、慌てて前のめりになる。
なるべく自然に。
精一杯控えめに。
「あ……あの……」
全員視線が向く。
「せっかく応募していただいたんですし……」
「面接くらい……しても……」
内心。
(お願い!!)
(採用して!!)
(私の代わりになって!!)
箱崎が頷く。
「……そうじゃな」
律子心の中でガッツポーズ。
(よしっ!!)
だが。
信人はまだ資料を持っていた。
「あと候補者二名います」
「吟遊詩人」
「魔力を込めた壺を売る僧侶」
聖子が真顔になる。
「……待って」
「吟遊詩人ってこの世界にいるの?」
金田が普通に答えた。
「うん」
「軍の音楽隊所属なんだけどね」
「異常に身体能力高いよ」
聖子。
「なんで?」
信人が最後の資料をめくる。
「あと僧侶ですね」
「雑誌広告で壺売ってます」
「ものすごい効果があるらしいです」
「真偽は……捜査中です」
聖子と律子。
同時に顔が引きつった。
「……それ」
「新興宗教じゃない?」
「完全にそうよね?」
箱崎がパンパンと手を叩く。
「まあその二人は次じゃな」
「今日はここまでじゃ」
会議終了。
こうして。
狂気の採用会議は終わった。
……いや。
正確には。
まだ始まったばかりだった。
律子は静かに悟る。
自分は――
とんでもない組織に入ってしまったのだと。
心の底から。
本気で。
今さらながら。
後悔していた。
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