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第62話 秘密結社の面接で不合格を狙ったら、なぜか全会一致で即採用されました。

 箱崎モータース第二工場。


 二階会議室。


 成川律子は――


 人生最大の危機を迎えていた。


 悪魔襲撃?


 違う。


 村の危機?


 違う。


 高位悪魔バンティン・シャモア


 違う。 


 今、この瞬間。


 最大の危機は――


 自分がこの頭のおかしい秘密結社に入らされることだった。


 ここまでの面接。



 一人目。


 伝説の怪盗。


 なお二児の母。


 

 二人目。


 古代最強の英雄王。


 なおパンツ一丁。



 三人目。


 異世界最強の魔女狩り。


 なおブリキ。


 

(……帰りたい)


(本気で帰りたい)


(なんで私ここにいるの……)



 すると。


 犬神信人が資料を閉じた。


「では――最後の候補者です」


 律子、びくっ。


 嫌な予感しかしない。


 信人が続ける。



「四人目の推薦人は――」


 ゆっくり視線が動く。



「会長、箱崎さんです」



 ……その瞬間だった。


 会議室がざわつく。



 金田祥太朗が立ち上がった。



 右手のコアラ型指人形が激しく揺れる。


「えっ!?」


 その隣。


 鎧坂博士の段ボール装甲がガサガサ震えた。


「会長推薦!!」


「これは期待のルーキーですね!!」


 コアラ指人形が上下に揺れる。


「もう合格でいいんじゃないかな」



 律子。


(いやあああああああああああああ!!)


(なんでハードル爆上がりしてんの!?)


(やめて!!)


(まだ何もしてない!!)



 その時だった。


 正面。


 ゴスロリ少女。


 盲が――


 ニタァ……


 まるで全て見透かしたように笑っていた。


 完全に愉快犯の顔だった。


 律子の背筋が凍る。


 箱崎がゆっくり立ち上がる。


 咳払いした。


「今から紹介する律子くんはな――」


「剣聖である聖子くんの妹で」


 一拍置く。


「……なんと」


「聖女じゃ」


「「「聖女!?」」」


 

 熊。


 段ボール。



 コアラ。


 全員一斉に前のめりになる。



 律子。


(終わった)


 箱崎は止まらない。


「未来視」


「鑑定眼」


「高位治癒魔法」


「すべて使える」



 鎧坂博士が立ち上がる。


「……欲しい」


「司令部にぜひ欲しいですね」


 律子の顔から血の気が引く。


「な……なんで……」


 震えながら横を見る。


 聖子。


 ぶんぶんぶんぶん!!


 ものすごい勢いで首を振る。


 全力ジェスチャー。


《私言ってない!!》



 その瞬間。


 くっ……


 くくっ……


 くくくくく……


 声が聞こえた。


 前を見る。


 盲だった。


 腹を抱えている。


 肩が震えている。


 目が合う。


 ニヤァ……


 口角が吊り上がる。



 律子、硬直。


「……も、もしかして……」


「情報……」


 箱崎が即答した。


「情報ソースは明かせん」



 数秒沈黙。


 そして。


 律子は頭を抱えた。


「やられたあああああああああああああああ!!」


 その瞬間。


 盲、大爆発。


 椅子から転げ落ちる。


「ぎゃははははははははは!!」


 床を転がる。


「いやぁぁぁ最高!!」


「久しぶりよ!!」


「こんな面白い子!!」


 涙を浮かべながら笑う。


「あなた最高ね!!」


「いいおもちゃ見つけたわ!!」



 律子。


(……まだよ)


 ぎゅっと拳を握る。


 目に光が戻る。


(まだ終わってない)


(質問タイムで印象最悪にすればいい)


(ネガティブアピールよ)


(こんな濃すぎる人たちの仲間なんて絶対無理!!)



 その瞬間。


 金田が立ち上がる。


「おお!!」


「目に光が宿った!!」


 コアラ指人形がぶんぶん揺れる。


「これは大物だね!!」


 熊がテーブルを叩く。



 熊田雄一郎が叫ぶ。

「いやいや!!」


「参謀本部に欲しい!!」


「未来視持ちは革命だよ!!」


 金田が反論。


「うちの班だよ!!」


 鎧坂も参戦。


「いや司令部です!!」


「戦術演算が変わる!!」


 ――なぜか新人争奪戦が始まった。


 律子、白目。


 佐知子は呆れ顔。


「……しょうがないわね……」



 信人が仕切り直す。


「では自己紹介をお願いします」


 律子。


(よし)


(弱そうに)


(自信なさそうに)


(ダメ人間アピールよ)


 わざと視線を下げる。


 小さな声。


「あ……あの……」


「成川律子です……高校三年生です……」


「勉強も運動も……全然得意じゃありません……」


「昔……ほんのちょっとだけ……」


「ほんと少しだけ教会でボランティアしてて……」


「でも……ドジで……」


「迷惑ばかりかけて……」


「……こっちの世界に逃げてきました……」


 沈黙。


 よし。


 完璧。


 マイナス印象。


 そう思った瞬間。


 熊田が頷く。


「……うむ」


「ボランティア経験」


「素晴らしい人格形成だね」


 律子硬直。


 金田が感心したように言う。


「魔王討伐の立役者なのに……」


「謙虚なんだね」


「こういう子がいるとチームがまとまる」



 律子凍る。


(な、なんで知ってるの!?)


 前を見る。


 盲。


 くくくくく……


 ニヤリ。


 律子青ざめる。


(こいつ……!!)


 金田がコアラを揺らした。


「僕、彼女推すよ」


「うち、自己主張強すぎるから」


「こういう控えめな子は大事」



 ――一票。


 鎧坂博士も頷く。


「未来視」


「鑑定眼」


「人格良好」


「野球で言えば」


「スイッチヒッターで」


「守備全部できて」


「足も速い」


「万能選手ですね」


 ――二票。


 熊田が食いつく。


「で?」


「どれくらい未来見えるんだい?」


 律子焦る。


(まずい)


(ここは弱く……)


(3分って言おう)


(カップラーメンできるくらいって言おう)


 口を開く。


「ええ……三分……」


 次の瞬間。


 勝手に口が動いた。


「……七十二時間以内なら」


「どんな事象でも八十%程度の確率で予測可能です」



 静寂。


 律子、絶叫寸前。


(えっ!?)


(えっ!?)


(なんで!?)


 前を見る。


 盲。


 にやぁ……


「あなた」


 楽しそうに笑う。


「嘘ついちゃダメよ?」


 律子。


 わなわな震える。


 盲は手元の資料を見る。


「ちなみに」


「一週間以内なら七十五%」


「三ヶ月先でも七十%」


「……だったわよね?」


 律子。


 完全敗北。


「で……でも……」


「内容はざっくりなんです!!」


「ほんとざっくり!!」


 信人が眼鏡を押し上げた。


「……謙遜が過ぎると嫌味になりますよ」


 律子。


「うぅ……」


 熊田が勢いよく立ち上がる。


「革命だよ!!」


「七十二時間前に未来が分かるなら戦術が変わる!!」


「絶対必要だよ!!」


 ――三票目。


 過半数達成。


 箱崎が満足そうに立ち上がる。


「異論ある者はおらんな?」


 全員頷く。


 箱崎が笑う。


 そして右手を差し出した。


「では――」


「律子くん」


「《世界解放戦線 ガイアリベレイター》へようこそ」


 その瞬間。


 律子はゆっくり天井を見上げた。


 目から光が消える。


 口が開く。


 そして。


 すぅ……


 白い何かが口から漏れた。


 ……エクトプラズムだった。


 そのまま後ろへ倒れる。


 どさっ。


 聖子が立ち上がる。


 絶叫。


「律子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 会議室に響き渡る叫び。


 その横で。


 盲だけが。


 腹を抱えて笑い転げていた。


「ぎゃははははははははは!!」


「最高!!」


「ほんっと最高よあなた!!」


 こうして。


 成川律子は――


 人生で最も入りたくない組織に。


 正式加入することとなった。


 ……本人の意思を完全に無視して。


 


 ――続く。

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