第61話 秘密結社の面接三人目は、元おとぎ話出身の不死身の魔女狩りでした。
箱崎モータース第二工場。
二階会議室。
成川律子は悟っていた。
(……もうダメだ)
二人終わった。
二人しか終わっていない。
なのに精神力は限界だった。
一人目。
伝説の怪盗。
なお二児の母。
二人目。
古代最強の英雄王。
なおパンツ一丁。
意味が分からない。
もう悪魔襲撃とかどうでもよかった。
今最大の問題は――
(……私、ここに入るの……?)
隣を見る。
聖子。
目が虚ろだった。
完全に壊れている。
「……ねえ、お姉ちゃん」
「うん……」
「私、なんか昨日までの価値観が崩れていく音がする……」
「……奇遇ね……私も……」
二人揃って遠い目をする。
すると。
犬神信人が次の資料をめくった。
「では――三人目の候補者です」
「推薦人は……」
視線が横へ向く。
ゴスロリ少女。
盲。
彼女は勢いよく手を挙げた。
「はいっ!!」
「はーい!!」
……なぜか妙にテンションが高い。
盲は満面の笑みを浮かべた。
「私が紹介するのはねぇ――」
楽しそうに指を立てる。
「異世界最強の《ウィッチハンター》」
「彼に退治された魔女は数知れず」
「どんな絶望的状況でも絶対に諦めない」
「何回死んでも立ち上がる超タフガイ」
「少し口は悪いけど、そこは愛嬌よ♪」
にやり。
「見れば分かるわ」
その瞬間だった。
律子の隣。
何もない空間に――
古びた木の扉が現れた。
ギィィィ……
ゆっくり開く。
中は闇。
その奥から。
重い足音。
……カツン。
……カツン。
……カツン。
そして現れた。
銀色。
全身銀色。
完全に銀色。
円筒型の胴体。
円柱の腕。
金属質の脚。
頭には円錐形の銀色ハット。
彫りの深い顔。
その顔面にも銀の塗料。
ティアドロップ型サングラス。
口元には葉巻。
煙がゆっくり立ち上る。
完全にハードボイルド。
だが。
どう見ても――
ブリキだった。
律子、絶叫。
「ええええええええええええええええええええ!?」
聖子も目を剥く。
「ま、まさか……」
「……オズの――」
その瞬間。
銀色男が人差し指を立てた。
「……おっと」
低い渋い声。
葉巻を咥えたまま笑う。
「お嬢ちゃん」
「過去を語るのは無用だ」
「聞くのは野暮ってもんだぜ」
煙を吐く。
「今の俺は……ただのニックだ」
「それ以上でも」
「それ以下でもねぇ」
そのまま空いているパイプ椅子へ座る。
会議室に紫煙が漂った。
律子、心の声。
(いや絶対ブリキの木こりじゃん!!)
(ほぼそのままじゃん!!)
(何なのこの組織!!)
ニックは足を組んだ。
「……で?」
「どうなんだ?」
その時。
段ボールの男。
鎧坂博士が口を開いた。
「興味深いね」
「そのボディ……」
「オリハルコンかね?」
ニックは鼻で笑った。
「いや」
「ブリキさ」
ニヤリ。
鎧坂が首を傾げる。
「ブリキ?」
「鉄より強度は低いはずだが」
ニックがゆっくり葉巻を外す。
「こいつは俺の誇りだ」
「だがな……」
ゆっくり斧を持ち上げた。
巨大な戦斧。
刃が不気味に光る。
「……あんたの玩具より強いぜ」
空気が変わった。
「対魔戦闘用特注品だ」
「東の魔女の呪い付きでな」
斧の切っ先を鎧坂へ向ける。
「たとえあんたが相手でも」
「負ける気がしねぇ」
そして笑う。
獰猛に。
「……撃ってみなよ」
「持ってんだろ?」
「チンケな豆鉄砲」
沈黙。
会議室が凍る。
数秒後。
鎧坂がゆっくり立ち上がった。
「……いいのかい?」
背中からライフルを取り出す。
……もちろん段ボール製。
律子、内心叫ぶ。
(なんで段ボールなのよ!!)
鎧坂が誇らしげに言った。
「これはね」
「強化段ボール製」
「デュアルステージ・モーターライフルだよ」
ニック。
「……なんだそりゃ」
「簡単に言うとね」
鎧坂がレバーを引く。
カチン。
「熱電化学弾頭を電磁加速」
「リニアモーターで再加速して撃ち出す」
「超高速徹甲弾さ」
ニックが不敵に笑う。
「……ふん」
「やっぱり豆鉄砲だな」
鎧坂が構える。
「律子くん」
「聖子くん」
「危ないので下がりたまえ」
二人即座に後退。
ニックが斧を構える。
「……いいぜ」
「来な!!」
――次の瞬間。
タタタタタタタタッ!!
モーターライフルが火を吹いた。
爆音。
閃光。
薬莢が飛ぶ。
だが。
「ぬぅッ!!」
ニックが動く。
超高速。
斧が残像を残す。
ガガガガガガッ!!
火花が炸裂。
金属音。
衝撃波。
粉塵が巻き上がる。
数秒後。
煙が晴れる。
そこに立つニック。
身体に数発着弾していた。
だが倒れない。
肩を押さえながら笑う。
「……くっ」
「何発か直撃したじゃねぇか」
ゆっくり傷を見る。
「……いいな」
「その豆鉄砲」
鎧坂が満足そうに座った。
「……私からは合格だ」
今度は右端。
金田祥太朗が右手を上げる。
……正確には。
右手のコアラ型指人形が喋った。
「いいね」
「近接特化タイプか」
「僕と似てる」
ニックがじっと見つめる。
数秒。
そして口元が上がった。
「……いいな」
「あんた……強いな」
「西の魔女みたいだ」
金田が笑った。
「そういう君も」
「Tatra社製の自律型戦闘ドロイドみたいだよ」
「昔あれには手を焼いた」
律子。
(……何言ってるの……)
(意味が……分からない……)
二人は同時に頷いた。
完全に通じ合っている。
金田が言う。
「僕は賛成かな」
「できれば彼と組みたい」
ニック、葉巻を咥える。
「……金田って言ったな」
「鉄人かよ」
「残念だが俺はレバー操作できねぇぜ」
誰もツッコまない。
盲が満足そうに頷いた。
「じゃあ決まりね♪」
三人目。
《ウィッチハンター・ニック》
合格。
その時だった。
律子が小さく震えながら呟く。
「……ねえ、お姉ちゃん」
聖子が虚ろな目で答える。
「……なに……」
「私……」
「《妄想癖のある元聖女》って……すごいパワーワードだと思ってたんだけど……」
聖子、遠い目になる。
「……うん……」
「今までのメンバーに比べたら……霞むね……」
「……だよね……」
二人同時。
深く頷く。
その時。
信人が最後の資料を手に取った。
「では」
「最後の候補者に移ります」
律子。
びくり。
嫌な予感しかしない。
そして。
信人が静かに告げた。
「四人目――」
「成川律子さん」
「あなたです」
…………。
律子の思考が止まった。
(……終わった)
そう思った。
――続く。
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