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第60話 秘密結社の面接二人目は、古代最強の英雄王でした。なお服はほぼ着ていません。

 箱崎モータース第二工場――二階会議室。


 成川律子は、静かに悟っていた。


(……帰りたい)


 先ほど、一人目の面接が終わった。



 伝説の怪盗ルージュ


 世界中の捜査機関が追っても捕まらない天才怪盗。


 ……なお二児の母。



 そして娘が可愛かったので満場一致合格。


 意味が分からない。


 何も分からない。


 この組織の採用基準が分からない。



 隣を見る。


 姉の聖子。



「……ふふ……」


 まだ壊れていた。


 完全に現実逃避している。


 すると。


 信人が次の資料をめくった。


 犬神信人が淡々と言う。


「では二人目に移ります」


「推薦人――熊田相談役」


 その瞬間。


 テーブルの上。


 ちょこんと座っていた熊のぬいぐるみが――


 すくっ。


 立ち上がった。


「どうも」


「相談役の熊田雄一郎です」


 律子、硬直。


(えええええええええええええええええ!?)


 反射的に隣を見る。


 聖子。


 目が泳いでいる。


 たぶんもう別世界にいる。


 精神が離脱している。


 熊田は気にせず話し始めた。


「昔ねぇ……悪魔研究をしている最中に」


「ちょっと時空魔法を習得しまして」


「そこで彼に出会ったんですよ」


 会議室の空気が変わる。


 熊田の声だけが響く。


「古シュメール時代――」


古代王国パラダイト建国の王」


「最強の剣闘士」


「英雄」


「古代最強の退魔師」


「《ウルクの剣聖》」


「《神魔調伏》」


 一拍置いて。


「その名は――」


「ガル・エンキ」



 ――次の瞬間だった。


 律子の足元。


 巨大な魔法陣が展開する。


 赤い光。


 床一面に幾何学模様が走る。


 空気が震える。


 熱風が吹き荒れる。


 まばゆい閃光。



 そして。


 ゴゴゴゴゴ……。


 石造りの巨大な玉座が現れた。


 その上。


 一人の男が座っていた。


 肘をつき。


 足を組み。


 まるで世界そのものを見下すような不遜な表情。



 漆黒の長髪。


 彫刻のように整った顔立ち。


 褐色の肌。


 全身には一切の無駄がない。


 鍛え抜かれた筋肉。


 神話からそのまま抜け出したような圧倒的存在感。


 そして。


「余が――ガル・エンキである」


 低く響く声。


「お前たちは未来の世界の者であるな」


 律子、完全停止。


(……え)


(ちょっと待って)


(待って待って待って)


(なんかおかしい)


 確かに圧倒的だった。


 神話級の威厳。


 王としての風格。


 覇者のオーラ。


 ……だが。


 一点だけ問題がある。


 いや。


 致命的問題がある。



 ――服を着ていない。


 

 いや正確には。


 ビキニパンツ一枚だった。


 それだけ。


 本当にそれだけ。


 ほぼ裸。


 筋骨隆々。


 彫刻みたいな肉体。


 無駄な脂肪ゼロ。


 だが。


 王様は裸だった。



 会議室沈黙。


 数秒後。


 犬神信人が手を挙げた。


「陛下」


「失礼ですが……なぜその格好なのですか?」


 律子は思った。


(なんでそこ聞くのよ!?)


 ガル・エンキは鼻で笑った。


「……愚問よ」


 ゆっくり立ち上がる。


 筋肉が隆起する。


 


「余は芸術なのだ」


「この姿こそ至高」


「これ以上の美など存在せぬ」


「完全なのだ」



 律子がぽつりと呟く。


「……無理……」


「これは……無理……」


 首を横に振る。



 すると。


 ガル・エンキが振り返った。


 目が合う。


「……ほう」


 ニヤリと笑う。


「分かっているではないか」


「そうだ」


「これ以上の美の追求は無理なのだ」


「完成されているのだからな」



 律子。


「違う違う違う違う!!」


 だがガルは聞いていない。


 突然、自分の腰へ手をかける。


「……よもや」


「この腰巻きすら不要だと言うのか」


「さらなる高み……!」



 律子絶叫。


「いやあああああああああああああ!!」



 その瞬間。


 バン!!



 熊田が机を叩いた。


「待ちたまえ、王よ」


 ガルが止まる。


「む?」


 熊田が真顔で言った。



「こちらの文化ではね」



「筋肉がついていない部分は隠すのが美なんだよ」


 


 沈黙。


 

 数秒後。



 ガル、目を見開く。



「……何ッ!?」


 そしてゆっくりブーツを脱いだ。


 自分の足を見る。



「……では」


「ここも隠すべきなのか」



 信人がメモを取る。


「そうですね」


「次回から靴下を用意しましょう」



 律子絶望。


(待って)


(パンツ一丁に靴下だけって)


(余計おかしくなるんだけど!?)



 その時だった。


 聖子が突然口を開いた。


 聖子が鋭く言う。


「……でも」


「剣の実力はどうなの?」


 空気が変わる。


 ガルが笑った。


「ほう」


「余の実力を知りたいか」


 偶然だった。


 一匹の蝿が会議室を飛んでいた。


 ガルは背中の大剣を抜く。



 巨大。



 人間一人ほどの長さがある。


「よかろう」


 ――次の瞬間。



 一閃。



 見えなかった。



 誰一人。



 何が起きたか理解できない。



 ……数秒後。


 ぽと。


 地面に蝿が落ちる。


 

 羽だけ切断されていた。



 胴体は生きている。


 脚をジジジジ……と動かしている。


 聖子が立ち上がった。


 目を見開く。


「……嘘でしょ」


 声が震える。


「飛んでる蝿の羽だけを……」


「しかも……大剣で……?」


 聖子は本能で理解した。


 化け物だ。


 剣士として次元が違う。


「あなた……どこで剣術を学んだの……?」


 ガルは当然のように答える。


「余の師は余だ」


「これ以上の師など存在せぬ」


 聖子が息を呑む。


「……あなた」


「露出狂だけど……」


「実力は本物だわ……」


「こんなの……見たことない……」


 熊田が満足そうに頷いた。


「じゃあ」


「合格だね」


 その瞬間。


 面接官全員が無言で頷く。


 満場一致。



 ガル・エンキ、採用決定。


 魔法陣がゆっくり消えていく。


 そして律子は。


 ただ虚ろな目で天井を見ていた。


(……まだ二人目……)



(あと……二人いるの……?)


(……もう帰りたい……)


 心の底から。


 そう思った。



 ――続く。



☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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