第59話 世界を救う秘密結社の面接に来たら、どう見ても変人博覧会だった件
翌日――
箱崎モータース第二工場。
二階。
会議室。
成川律子は、パイプ椅子の上で小さく震えていた。
隣には妹の聖子。
……だが。
こっちも様子がおかしい。
目の焦点が完全に合っていない。
乾いた笑いを浮かべている。
「……ふふ……」
壊れてる。
完全に壊れてる。
(な、なんで……こんなことに……)
律子は内心泣いていた。
昨日までは違った。
悩みはもっと明確だったはずだ。
――高位悪魔が迫っている。
――村が襲撃される。
――自分のせいで皆が危険に晒される。
……なのに。
今はもう違う。
悪魔?
襲撃?
そんなものどうでもいい。
目の前の光景が。
それら全てを強制的に忘れさせるほど異常だった。
まず正面。
壁一面を埋め尽くす巨大モニター。
その手前。
長い会議用テーブル。
そこに並ぶ面接官たち。
右から――
犬神信人
背筋を伸ばし、完璧な姿勢で座る理知的な青年。
唯一まともそうに見える。
……見えるだけだ。
隣。
佐知子
艶やかな黒髪を揺らしながら資料をめくる美女。
どう見ても仕事のできるキャリアウーマン。
その隣。
箱崎守
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている老人。
たぶん黒幕。
いや絶対黒幕。
――ここまではまだいい。
問題はその隣だった。
テーブルの上。
そこにちょこんと座る――
熊。
ぬいぐるみの熊。
しかも会議用プレート。
【相談役 熊田】
(……欠席者の席にぬいぐるみ……?)
律子、思考停止。
さらに隣。
ゴスロリ少女。
漆黒のフリルドレス。
銀色の長髪。
透き通るような白い肌。
人形のような可憐さ。
……だが。
一目見た瞬間、本能が告げる。
(……この子……絶対ヤバい)
プレート。
【盲ちゃん】
(……ちゃん!?)
まだ終わらない。
その隣。
――段ボール。
いや。
人型だ。
全身を段ボールで覆われている。
肩にはガムテープ。
胸には大きく書かれていた。
【矢島生花店】
【スーパー・ハニー】
補強されている。
なぜか本気だ。
プレート。
【鎧坂博士】
(えっ……何これ……)
ギギギギ……。
錆びたロボのように首を横へ向ける。
聖子。
「……ふふ……」
まだ壊れてる。
そして最後。
普通のスーツ姿の男性。
……に見えた。
だが右手。
指にはめられている。
コアラみたいな生き物の指人形。
いや動いてる。
普通に動いてる。
プレート。
【金田祥太朗】
(やばいやばいやばいやばい)
律子は悟った。
かつてギルドでパーティーメンバーを募集したことがある。
その時ですら変人は多かった。
だが。
今ここにいるメンバーは――
その千倍ヤバい。
すると。
信人が立ち上がった。
「では」
空気が変わる。
「秘密結社――」
一拍置いて。
「《世界解放戦線 ガイアリベレイター》」
「新メンバー面接を開始します」
律子の喉が鳴った。
ごくり。
信人が軽く頭を下げる。
「面接官兼司会進行を担当します」
「犬神信人です」
「では会長」
視線が箱崎へ向く。
箱崎は腕を組みながらゆっくり頷いた。
「前回の面接では一人も採用にならんかった」
「しかし今回は違う」
「各々推薦人がおる」
「何人かは採用になると信じておる」
「公正な審査を頼むぞ」
(いや……)
律子は引きつった。
(私もうコネ採用って言われてるんだけど……)
(帰りたい)
(今すぐ帰りたい)
(むしろ不採用になりたい)
(こんな組織絶対嫌だ……)
信人が資料をめくる。
「今回は四名です」
「推薦人は順番に候補者の説明をお願いします」
「一人目」
「推薦人――佐知子さん」
佐知子がゆっくり立ち上がる。
妖艶な笑み。
「候補者はね……」
モニターが点灯した。
「彼女に盗めないものはない」
「世界中の捜査機関が追い続け――」
「ついに捕まえられなかった伝説の怪盗」
「《ルージュ》」
律子の目が見開かれる。
画面に映し出されたのは――
豪華な洋館。
クラシックな暖炉。
革張りのソファ。
背後には高価そうな名画。
……に混ざって。
幼児が描いたような謎の絵。
紙粘土らしき前衛芸術。
小学生の工作。
異様な空間だった。
中央に座る女性。
長い金髪。
黒いタキシードコート。
シルクハット。
アイマスク。
足を組み優雅に座っている。
その顔立ちは隠れていても分かる。
美人だ。
圧倒的に。
「こんにちは」
気品すら感じる声。
信人が頷く。
「では志望動機を」
ルージュは微笑んだ。
「最近……いろいろ忙しくてね」
「でも少し時間が取れそうだから」
「慈善活動でもしようかと思って」
面接官一同。
うんうん。
頷く。
律子だけ置いていかれる。
信人が続ける。
「何で貢献できますか?」
「アーティファクト……」
ルージュが妖艶に笑う。
「手に入れてみせるわ」
「レプティリアンのでも何でも」
(……レプティリアン!?)
律子の脳が停止する。
(えっ……この人たち本気で信じてるの!?)
すると段ボール男――鎧坂博士が頷いた。
「頼もしいですね」
(頼もしいの!?)
……その時だった。
背後のドア。
カチャ。
小さく開く。
そして――
よち……
よち……
小さな幼児が歩いてきた。
「……マ……ママ……」
沈黙。
面接官全員。
固まる。
数秒後。
(((((か、可愛いぃぃぃぃぃ!!)))))
空気が変わった。
ルージュが慌てて振り返る。
「あっ、ちかちゃん!」
「ダメじゃない!」
「ママ今、面接中なのよ?」
抱き上げる。
娘はきょとんとしている。
佐知子が微笑んだ。
「怒っちゃダメよ」
ルージュは苦笑した。
「ごめんなさいね……」
「パパがまたサブスクドラマに夢中なのね……」
ちかちゃんが面接官に向かって手を振る。
ぱたぱた。
その瞬間。
全員が立ち上がった。
「「「「「合格」」」」」
律子絶叫。
「ええええええええええええええええ!?」
箱崎が満足そうに頷く。
「母親業もできる」
「文句なしじゃ」
「パパ〜」
ドアの向こうから声。
ルージュは娘を返しながら少し苛立った声を出した。
「ちゃんと見ててよ〜!」
「まったく……」
そして画面に戻る。
「いいわよ」
「早ければ何日後かに手伝うわ」
「主人、最近帰り遅いけど」
「時間が合えばね」
佐知子が微笑む。
「お願いするわ」
信人が記録をつける。
「一人目」
「怪盗ルージュ」
「採用決定」
律子は椅子の上で震えていた。
(……帰りたい)
(ものすごく帰りたい)
(まだ一人目よね……?)
(あと二人いるの……?)
その瞬間。
信人が次の資料を取り出した。
「では――二人目に移ります」
律子はまだ知らない。
ここから先。
さらに常識が崩壊することを。
――続く。
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