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第47話 元聖女な彼女が嫉妬深すぎるので、浮気してないのに異世界式裁判にかけられました。

 夕方。


 オレンジ色に染まった帰り道。


 祓川高校からの帰宅途中。


 成川和人は、片手をポケットに突っ込みながら、大きく欠伸をしていた。


(……昨日は大変だったな)


 昨夜。


 律子による“異端審問会”。


 危うく、生きたまま火あぶり刑を宣告されかけた。


 ……理不尽だった。


 完全に。


 その時だった。


 背後から声。


「ちょっと、あんた待ちなさいよ!」


 若い女の声。


 和人が振り返る。


 そこに立っていたのは――昨日の少女。


 長い赤髪。


 ブレザー姿。


 腕組みしながら睨んでいる。


 倉敷まりあ。


「……君は昨日の」


「話があるの」


 まりあは顎で前方を示す。


 小さな公園。


「そこの公園で話しましょう」


(……嫌な予感しかしない)


 和人は心の中でため息をつく。


 そしてもう一つ。


 確認済みだった。


 ――この生徒は学校に存在しない。


 名簿にいない。


 担任もいない。


 完全に正体不明。


 頭をぽりぽり掻く。


「もう遅いしさ」


「明日学校で聞くよ」


「じゃ」


 踵を返した。


 その瞬間。


「へぇ〜……いいの?」


 まりあがスマホを取り出した。


 画面を見せる。


 そこには。


 マンションから一緒に出ていく和人と律子。


 ……写真。


「これ……バラ撒かれてもいいなら」


「帰れば?」


 にやり。


 ……だが。


 和人の目がすっと細くなる。


(脅迫)


(写真盗撮)


(最初に脅し)


(やり方が雑すぎる)


(素人だな)


 相手は慣れていない。


 手が微妙に震えていた。


 声も少し上擦っている。


 明らかに演技。


 和人は淡々と答えた。


「やれば?」


「……え?」


「じゃあね」


 再び歩き出す。


 まりあの顔色が変わった。


「あっ……待って!」


 さっきまでの余裕が消える。


 次の瞬間。


 まりあは駆け寄った。


 そのまま。


 和人の手を両手で掴む。


 涙目。


「お願い……!」


「お願いだから……話聞いて!」


 ……沈黙。


 和人は数秒考える。


 そして大きくため息。


「……うーん」


「仕方ないか」


 まりあの顔がぱっと明るくなる。


 だが――


 二人は気付いていなかった。


 百メートル後方。


 電柱の陰。


 じぃぃぃぃぃぃ……


 ねっとりとした視線。


 律子だった。


 目が据わっている。


(……昔の女?)


(……泣きながら復縁を迫る女?)


(……まさか元カノ?)


(……よりを戻そうとしてる?)


 脳内ドラマ開始。


 まりあが涙を流す。


『……私とのこと……遊びだったの……?』


 和人が優しく微笑む。


『そんなことないさ』


『じゃああの女は……』


『毎日ご飯ばかりじゃ飽きるだろ?』


『たまにはパンも食べたくなるのさ』


『和人……』


『君の若さには勝てないよ』


 ――終了。


「あああああああああああああああ!!」


 律子、頭を抱える。


「若さって何ですか!!」


「私も若いです!!」


「ピチピチです!!」


「……決めました」


 瞳に炎が灯る。


 公園。


 ベンチ。


 まりあが腕を組む。


「率直に言うわ」


「月戸さんを解放しなさい」


「……は?」


「あなたの悪事はお見通しよ!」


 びしっ。


 指を突きつける。


「弱みを握って関係を強要してるんでしょ!」


 ……沈黙。


 和人は半眼になる。


「……うーん」


「なんか盛大に誤解してるね」


「しらばっくれないで!」


 和人はゆっくり息を吐く。


 そして真顔になる。


「勘違いしてるみたいだけど」


「僕は彼女を利用なんてしてない」


 まりあが黙る。


 和人は続ける。


「むしろ助けられてるのは……僕の方だよ」


「……え?」


「一緒にいてくれて」


「笑ってくれて」


「僕を必要だって言ってくれて」


「そんな子を傷つけるような真似はしない」


 少し視線を落とす。


 そして静かに言う。


「僕は……ちゃんと責任を取る」


「男として」


「彼女を大切にするよ」


 ――百メートル後方。


 律子、停止。


 顔真っ赤。


 耳まで真っ赤。


 湯気。


(……責任……)


(……大切にする……)


(……男として……)


(……私を……)


 数秒沈黙。


 そして。


「きゃあああああああああああ!!」


 そのまま公園へ全力ダッシュ。


「ちょっと待ったああああああああああああ!!」


 同時に振り向く二人。


 まりあ。


「あ、じゃ」


 ダッシュ。


 一瞬で消える。


「……え?」


 取り残される和人。


 その前に。


 にやぁ……


 笑う律子。


 とても怖い。


「恋愛検察官です」


「成川和人さん」


「浮気容疑で……」


 指を突きつける。


「確保します♡」


「いやしてないだろ!?」




 その夜。


 和人のマンション。


 ソファに座る二人。


 律子は静かに目を閉じていた。


「始めます」


 その瞬間。


 視界が揺れる。


 世界が反転した。


 気付けば。


 そこは――巨大な法廷だった。


「……は?」


 被告席。


 裁判官席。


 検察席。


 傍聴席。


 警備兵。


 弁護席。


 完璧な裁判所。


 ……だが。


 違和感があった。


 和人の顔が引きつる。


 全員。


 律子だった。


 裁判官も律子。


 警備兵も律子。


 傍聴席も律子。


 記録係も律子。


 なぜかメイド服の律子までいる。


 ざわざわざわざわ……


「火あぶりかしら」


「いえまだ早いわ」


「有罪濃厚ですね」


「監禁刑が妥当かと」


「永久同棲刑もありですね」


「怖い怖い怖い怖い!!」


 その時。


 ――コンッ。


 木槌が響いた。


 最も高い席。


 裁判官の律子がゆっくり立ち上がる。


 静寂。


 全員が黙る。


 そして。


 冷たい声。


「静粛に」


 空気が凍る。


 律子が真っ直ぐ和人を見る。


 まるで罪人を見る目だった。


 その唇がゆっくり開く。


「それではこれより――」


 一拍。


 木槌が振り下ろされる。


 ガンッ!!


「成川和人に対する」


「恋愛背信罪審理」


「第一回公判を開始します」


 和人絶叫。


「意味が分からないんだけどおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 暗闇の中。


 赤髪の女が宝珠を覗く。


「……やはり」


 拳を握る。


「完全に洗脳されている……」


 狂信じみた瞳。


「待っていてください……」


「必ず救い出します……」


 次回。


 ――開廷。

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