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第39話 最強義母襲来!? 花嫁修業のはずが命懸けになりそうです。

 カフェ『フランク』。


 本日は店休日。


 しかし店内には客がいた。


 いや――。


 客と呼ぶには、あまりにも空気が物騒だった。


 窓際の席。


 上品なブラウスに黒のスラックスを着こなした玉藻佐知子。


 その対面には――


 パンチパーマ。


 虎柄のTシャツ。


 黒のテーパードパンツ。


 煙草を指先で弄ぶ小柄な女性。


 成川戮子。


 両者は無言で向かい合っていた。


 店内に流れるジャズだけが妙に大きく聞こえる。


「戮子ちゃん」


 佐知子が優雅に微笑む。


「ここは禁煙よ」


「ふん」


 戮子が鼻を鳴らした。


「世知辛い世の中になったもんだね」


 笑顔。


 だが。


 佐知子の額には青筋が浮かんでいた。



「あんたにやられた背中の傷がね」


 戮子がニヤリと笑う。


「時々痛むんだよ」


 その笑顔の意味は明白だった。


 ――次は殺す。


 対する佐知子も笑顔を崩さない。


「そう?」


「私も胸の傷が疼くわ」


 にっこり。


「刺された場所だからかしら」


 ――返り討ちよ。



 見えない火花が散る。


 龍。


 虎。


 そんな幻が見えるほどの威圧感だった。


 そして。


 その二人の横で。


「怖い怖い怖い怖い怖い!!」


 月戸聖子は震えていた。


 ガタガタガタガタ。


 椅子が揺れる。


(なんで!?)


(なんで花嫁修業なのに命の危険を感じてるの!?)


(私、料理習いに来たんだよね!?)


 逃げよう。


 今すぐ逃げよう。


 そう判断した聖子は立ち上がった。


「あっ、今日はお友達同士で水入らずということで――」


 そっと後退。


「待ちな」


 即座に戮子が言った。


 ピタッ。


 聖子が硬直する。


「へっ?」


 振り返る。


 戮子が煙草に火をつけながら言った。


「あんたに会いに来たんだよ」


(嫌な予感しかしない……)


「は、はい……」


 聖子は恐る恐る席に座った。


 刺激しない。


 逆らわない。


 野生動物と遭遇した時と同じ対応である。


 戮子は煙を吐きながら言った。


「私は成川戮子」


「和人の母」


「信人は私の妹の子だ」


「よろしくお願いします」


 聖子は深々と頭を下げた。


「月戸聖子です」


「信人さんとお付き合いさせていただいております」


(品定めだ……)


(絶対品定めだ……)


 心臓がうるさい。


 すると戮子は顎を撫でた。


「なるほどね」


 じっと聖子を見る。


「筋は良さそうだ」


 嫌な予感が加速した。


「妹はいるのかい?」


 聖子の背筋が凍る。


(来た!!)


「え?」


「妹さ」


「血縁は大事だからね」


 ニヤリ。


「どんな子なんだい?」


 聖子は悟った。


 律子が危ない。


 この人に見つかったら終わる。


 直感だった。


 すると戮子が続ける。


「私の後を継ぐ子を探してるんだよ」


(絶対ダメーーーーー!!)


 警報が鳴り響く。


 聖子は決意した。


 妹を守る。


 たとえ評判を犠牲にしても。



「り、律子ですか……」


 ごくり。 


「頭が悪くて……」


 心の中。


(教会首席です)



「怠け者で……」


(二十四時間勤務を四年続けました)


 

「鈍臭くて……」


(和人の部屋への侵入技術は職人級です)



「素直じゃなくて……」


(本当は誰より素直です)



「妄想癖が酷くて……」


(それだけは本当)


 聖子は人生で初めて妹の悪口を並べていた。


 罪悪感が凄い。


 命を懸けて自分を救ってくれた妹だ。


 なのに。


 今。


 全力で評価を下げている。


「とてもお義母さんの眼鏡にかなうとは……」


 すると。


 戮子は腕を組んだ。


「そうかい」


 残念そうな顔。


「惜しいねぇ」


 ため息。


「九州の山奥で三年くらい鍛えようと思ったんだけど」


「三年!?」


 聖子が素で叫んだ。 


「長いです!」



「そうかい?」


 戮子が首を傾げる。



「信人なんか半年だったよ」



「半年!?」



 聖子の目が飛び出た。


 あの信人が。


 あの何でも出来る超人が。


 半年鍛えられた?


「生きて帰れれば一流になるさ」


「生きて帰れれば!?」


「死ぬ可能性あるんですか!?」


「まあ多少はあるさね」


「多少じゃないですよね!?」


 聖子のツッコミが炸裂する。


 すると佐知子がコーヒーを飲みながら呟いた。


「三年で済むかしら」


「どうだろうね」


 戮子が頷く。


「死ななきゃ五年かな」


「基準がおかしい!!」


 聖子が叫んだ。


 この二人。


 会話が怖い。


 価値観がおかしい。


 なぜこんな人達が普通にカフェで話しているのか。


 理解不能である。



「でも残念だねぇ」



 戮子が肩を竦めた。


「信人の嫁なら鍛えがいがありそうだったのに」


「結構です!!」



 思わず本音が出た。


 しまった。


 聖子は青ざめた。


 しかし。


 

 戮子は豪快に笑った。


「ははは!」


「そのくらい元気がある方がいい」


 佐知子も苦笑する。


 

「だから言ったでしょう」


「想像の百倍スパルタだって」


「百倍どころじゃないですよ!」


 聖子は本気で抗議した。

 

 そして心の中で固く誓う。

 

 絶対に。


 絶対に。

 

 律子をこの人達に近づけない。


 そう決意したのであった。


 ――日曜日の夜。


 帰宅した聖子は真顔で妹を見た。


「律子」


「なに?」


「絶対に」


「うん?」

 

「絶対にお義母さんには近づくな」

 

「え?」


「絶対よ」


「なんで?」

 

「いいから逃げなさい」

 

「???」

 

 首を傾げる律子。


 その意味を。


 彼女はまだ知らない。


 成川戮子という災害級の存在を。


 そして聖子が命懸けで妹を守ったことを。


 まだ知らないのであった。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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