追記4 悪魔王直属執行官、面接を受けに来ました。
机に突っ伏したまま、聖子は完全に燃え尽きていた。
「……もう帰りたい」
隣では律子も額を机に押しつけたまま、小さく震えている。
「私も……」
副会長就任を押しつけられそうになり、精神力はすでに限界だった。
そんな二人をよそに、会議室ではまだ面接が続いていた。
――その時だった。
部屋の空気が変わる。
冷たい。
まるで真冬の吹雪が室内へ流れ込んだように、温度が一気に下がる。
誰も喋らない。
誰も動けない。
時間だけが止まったような静寂。
コン――。
革靴が床を叩く音だけが響く。
誰も開けていない扉が、ゆっくりと軋みながら開いた。
その向こうに立っていたのは、二人の男。
細身の男は、黒地に赤いピンストライプのズートスーツ。
羽飾りのついたフェドラ帽。
そして鳥の嘴を思わせる、不気味なペストマスク。
悪魔王直属執行官――
モルデカイ・グレイブ。
その隣には、二メートルを超える大男。
紫灰色のスーツに身を包み、一言も発さず直立している。
弟の、
バラム・グレイブ。
静寂を破ったのは拍手だった。
パチ……
パチ……
パチ……
ゆっくりとした拍手を止めると、モルデカイは帽子を取り、胸へ手を添えて優雅に一礼する。
「律子様。」
「この度は、次期会長ご就任、誠におめでとうございます。」
その一言で、部屋中が凍りついた。
「…………え?」
律子だけが間の抜けた声を漏らす。
(えっ。)
(なんで知ってるの!?)
(まだ決まってないよね!?)
(というか地獄まで情報共有されてるの!?)
頭の中だけが大騒ぎだった。
モルデカイは穏やかに笑う。
「では――」
「我々も面接をお願いできますかな。」
全員の視線が箱崎へ集まる。
箱崎は腕を組み、
「うむ。」
「ああ、よかろう。」
「軽っ!!」
律子は勢いよく立ち上がった。
「相手、悪魔ですよ!?」
「しかもどう見てもラスボス側ですよ!?」
「面接する相手じゃないでしょう!」
「まあ落ち着け。」
「落ち着けません!!」
律子だけが一人ツッコミを続ける。
聖子が真剣な眼差しを向けた。
「目的は?」
モルデカイは少しも隠そうとしない。
「悪魔王陛下より命を受けまして。」
「世界解放戦線ガイアリベレイターへ協力せよ、と。」
すると、信人が静かに口を開く。
「違いますね。」
一斉に視線が集まる。
「本当の目的は内部情報。」
「レプティリアンは、いずれ悪魔族ごと世界を滅ぼします。」
「だから共闘できる今のうちに情報を集めておきたい。」
「最終的には、自分たちだけでも生き残るため。」
沈黙。
モルデカイは小さく拍手した。
「お見事です。」
「さすが犬神信人様。」
「まさしく、その通り。」
律子は頭を抱えた。
(怖い怖い怖い。)
(悪魔が即答で認めたよ!?)
ニックが椅子から立ち上がる。
葉巻をくわえたまま、斧を肩へ担ぐ。
「で?」
「あんた強いのか。」
モルデカイは少し考え、
部屋中を見渡した。
「そうですな。」
「ここにいる皆様を相手にすれば……」
「半数ほどは道連れにできます。」
場の空気がさらに重くなる。
「もちろん。」
「そのような真似は致しませんが。」
「十分怖いわ!」
律子の悲鳴だけが響いた。
佐知子が肩をすくめる。
「じゃあ入れるしかないじゃない。」
「次期会長。」
「だからなんで私なのよ!」
信人が追い打ちをかける。
「もし裏切るなら。」
「律子さんが会長になってからでしょう。」
「あわわわわわ……」
律子の思考が停止する。
その時だった。
白蛇を揺らしたスネーク佳代が静かに言う。
「断る未来。」
「ここにいる半分が死ぬわ。」
律子は青ざめた。
(断れるわけないじゃない……。)
小さく肩を落とす。
「……わかりました。」
「よろしくお願いします。」
モルデカイは深々と頭を下げた。
「感謝いたします。」
「できれば私は。」
「律子様直属の護衛を務めさせていただきたい。」
「……私?」
律子が目を丸くする。
モルデカイは当然のように答えた。
「終末の王――」
「その御母堂であらせられるお方ですから。」
部屋が静まり返る。
律子だけが顔色を失っていた。
「……な、なんで。」
「それを知ってるの?」
モルデカイは穏やかに微笑む。
「地獄で知らぬ者など、おりません。」
「終末の王は。」
「悪魔族にとっても、伝説なのです。」
律子は声にならない悲鳴を飲み込んだ。
(いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!)
その日。
世界解放戦線ガイアリベレイターには、新たに二人の悪魔が加わった。
そして律子の胃痛は、また一段階レベルアップすることになるのだった。
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