追記3 伝説の占い師、加入審査。――ただし占われるのは未来ではなく黒歴史でした――
箱崎モータース第二工場、二階。
世界解放戦線加入審査会。
鎧坂ほのか、壺井壮介とツボニール、エレノア。
二組の加入が決まり、会議室もようやく落ち着きを取り戻した――かに思えた。
信人が次の資料を手に立ち上がる。
「それでは、三人目の加入審査です。」
律子は静かに両手を組む。
(お願いだから……。)
(今度こそ普通の人であって……。)
しかし、その願いは開始三秒で砕け散った。
コアラの指人形を揺らす金田が、得意げに胸を張る。
「僕が推薦するのは――」
わざと間を置く。
「伝説の占い師。」
「的中率、驚異の九十五パーセント。」
「森羅万象、お見通し。」
「信じない者は地獄行き。」
律子が小さく呟く。
「もうそのキャッチコピーだけで怪しいんだけど……。」
金田は気にしない。
「その名も――」
「スネーク佳代さんです!」
扉が開く。
入ってきたのは、法衣をまとった穏やかな尼僧だった。
年齢は五十代ほど。
柔らかな笑顔。
落ち着いた物腰。
――ここまでは普通。
問題は、その両腕だった。
右腕には赤い蛇。
左腕には白い蛇。
どちらも壺から飛び出したような巨大な蛇のぬいぐるみである。
しかも目がやたらと生き生きしていた。
(……アウト。)
(どう見てもアウト。)
律子は天井を見上げた。
佳代は静かに頭を下げる。
「紹介に預かりました。」
「スネーク佳代です。」
「対人鑑定を得意としております。」
すると。
右手の赤蛇が突然口を開いた。
「ワシは過去担当。」
左手の白蛇も続く。
「私は未来担当。」
佳代が胸へ手を当てる。
「私は現在担当です。」
三人同時に頭を下げた。
「「「よろしくお願いいたします。」」」
会議室が静まり返る。
最初に口を開いたのは聖子だった。
「す、すごい……。」
「腹話術が本格的。」
三人が同時に首を振る。
「「「違います。」」」
「本当にしゃべっています。」
「「「よろしく。」」」
律子は頭を抱えた。
(普通の人は!?)
(普通の人はいないの!?)
だが、その「的中率九十五パーセント」という言葉だけは気になった。
(もしかして……。)
(この人なら私の役目を代われる?)
期待を込めて身を乗り出す。
「本当にそんなに当たるんですか?」
佳代は穏やかに微笑む。
「ええ。」
「控えめな数字です。」
場がざわつく。
聖子が面白そうに前へ出た。
「じゃあ。」
「まず私を占って。」
佳代が頷く。
「では。」
「特別ですよ。」
右手の蛇がゆっくり持ち上がる。
「レッドスネーク。」
「オンステージ。」
赤蛇の瞳が、じっと聖子を見つめる。
「ふむ。」
「剣姫。」
「ラブリー剣士。」
「剣のプリンセス。」
「異世界では女子人気が異常に高かった。」
聖子の笑顔が固まる。
「な……。」
「男子より女子ファンが多かった。」
「画集も売れた。」
「同人誌の主役にもなった。」
聖子の顔から血の気が引く。
「ちょ、ちょっと待って。」
「さらに。」
「酒場で飲み過ぎ。」
「賞金稼ぎと大乱闘。」
「酒場のやらかし剣姫。」
「記憶喪失剣士。」
「そんな二つ名もあった。」
会議室が静まり返る。
全員が聖子を見る。
(……ありそう。)
「違う!」
「違うから!」
声だけが妙に震えていた。
赤蛇は満足そうに頷く。
「うむ。」
「反応を見る限り百点。」
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
佳代は涼しい顔で言う。
「では現在を。」
今度は本人が目を閉じた。
「妊娠中ですね。」
「毎日日記を書いています。」
「しかも。」
「旦那様への愛を詩にして。」
「今日も一ページ。」
聖子が立ち上がる。
「やめてーーーーーー!!」
耳まで真っ赤。
「そ、そんなわけないじゃない!」
目が泳ぐ。
汗が止まらない。
律子は思う。
(書いてる……。)
(これは絶対書いてる。)
佳代は構わず続ける。
「では未来。」
白蛇がゆっくり顔を上げた。
「十人産める。」
全員が固まる。
「ただし。」
「八人目で心が折れる。」
「妹は五人。」
「合わせて十三人。」
「四人で子育て。」
全員。
「多い。」
白蛇はまだ終わらない。
「あと。」
「長男に。」
「キラキラネーム付けたくなる。」
「でも、超真面目な子に育つ」
「名前とかけ離れてる」
聖子が飛び上がる。
「な、なんで!」
「まだ考えてない!」
「いや。」
「考えてる。」
「昭和っぽい自分の名前への反動。」
「図星。」
「違うーーーーー!!」
もはや虫の息だった。
律子は妙な違和感を覚える。
(この人。)
(占い……?)
鑑定眼を発動する。
すると。
壺の中。
魔力反応。
白蛇本体。
「えっ……。」
「まさか。」
白蛇がニヤリと笑った。
「気付いた?」
「私が本体。」
壺から、小さな白蛇がひょこっと顔を出した。
「占いじゃないの。」
「過去視。」
「現在視。」
「未来視。」
「全部、本当に見えてるだけ。」
律子は絶句した。
「占いじゃないじゃん!」
熊田が感心したように腕を組む。
「なるほど。」
「律子君と組めば。」
「見えない未来はなくなるな。」
ほのかも頷く。
「作戦会議には必須ですね。」
「ブリーフィングで一番活躍しそう。」
律子は青ざめる。
(えっ。)
(私。)
(引退できると思ったのに。)
金田が胸を張る。
「だから推薦したんだ。」
「実力は本物だよ。」
聖子だけが机に突っ伏したまま呟く。
「占いじゃない……。」
「黒歴史暴露大会だった……。」
箱崎会長が立ち上がる。
「異議はあるか?」
全員が首を横に振る。
「なし。」
「よし。」
「加入承認。」
拍手が起こる。
こうして――
白蛇様ことスネーク佳代は、世界解放戦線の正式メンバーとなった。
しかし。
箱崎はそのまま席に着かなかった。
「もう一つ。」
その一言で会議室が静まり返る。
「実は、あと数年で儂は会長を退こうと思っておる。」
全員が息を呑む。
「次の会長候補じゃが――」
箱崎は、真っ直ぐ律子を指差した。
「律子君。」
「君を後継者にしたい。」
一瞬、時が止まる。
「…………え?」
律子の口から、間の抜けた声が漏れた。
「まずは副会長じゃ。」
「儂が直々に鍛える。」
律子は顔面蒼白になる。
「む、無理です!」
「私なんて、皆さんの足元にも及びません!」
すると、新加入したばかりの佳代が、白蛇を揺らしながら優しく微笑んだ。
「大丈夫。」
「あなたは、みんなを導く人になる。」
金田も嬉しそうに頷く。
「聖女様が旗振り役なんて最高じゃないか。」
ニックは葉巻をくわえながら笑う。
「俺は昔から女リーダーの部隊にいた。」
「問題ねぇ。」
ほのかも静かに口を開く。
「女性だけの部隊を作るのも面白そうですね。」
そして最後に、信人が淡々と言った。
「適任です。」
「象徴としても、能力としても。」
律子はその場でふらりと揺れた。
「あわわわわわ……。」
口から魂が抜けるように白い息が漏れる。
一方。
聖子はまだ机に突っ伏したままだった。
「お願い……。」
「誰か……。」
「未来より私の黒歴史を消してぇ……。」
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
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