第81話 ビトメさんが色々思い出してしまうようで
ビトメの指示通り、
戦後処理はつつがなく済まされた。
魔物の群れは歩いてどこかへ帰っていき。
人に紛れていたシェイプシフターたちも、
それに合流して出ていった。
たくさんの死者が出た。
特に数が多いのは『白の教会』のメンバーと、
自爆していった子どもたちだ。
子どもたちは、
『癒し手』の教会が直営する孤児院の子どもたちだった。
やはり、というかなんと言うか。
それは一瞬で露見し、
魔物の群れもキャラウェイの手によるものだと発覚。
発覚した理由は単純。
キャラウェイ自身の自白だ。
ビトメの『命を大事にしてください』は、
かなり広義で伝わってしまったようで。
キャラウェイの手下たちはそれを聞いたとたんに全員街から逃げ出し、
キャラウェイは完全な孤立無援になってしまった。
「金なら!
金なら払う!」
キャラウェイはそう叫んだが、
誰一人として彼の元には残らなかった。
文字通り身動きひとつ取れないキャラウェイは、
あっという間に捕まって、すぐに自白。
あっけなさ過ぎて、拍子抜けだ。
だが、どうやらキャラウェイの手下と共に逃げおおせたのが、
パティスだった。
彼の行方は一向に掴めなかった。
「魔法使いが到着しました」
魔物の氾濫から、約八時間後。
すっかり夜が更けてから、
『白の教会』の魔法使いがミルポアに到着した。
戦後処理を一番先頭で行っていた彼らを責めることはできないが、
かなり遅い。
ビトメは、奈落の底まで落ち込んでいる。
顔に生気がなくなり、大理石の像のようだ。
彼女はあの後泣き疲れ、眠ってしまったが。
目覚めてからは、
一言も話さずラボの角で膝を抱えていた。
その間、なにも水すら口にしていない。
トシ・オーは、その横にずっと座っていた。
ずっと水筒と携帯食料を持って座っていた。
トシ・オーはそれらに一切手を出してない。
二人して、何も口にしていない。
つなぎの男性が連れてきたのは、
もう一人のつなぎの人と変な格好の人だった。
「こっちは、仲間の魔法使いです。
そっちは」
「初めまして。
そして、大変申し訳ございませんでした!」
変な格好の人は、
流れるように二人に土下座した。
肩まで覆う頭巾の、カウルを目深にかぶって。
上半身は裸に鎖を巻いている。
両腕はむき出しの筋肉が隆起しており、
伏せてるのに盛り上がっている。
腰にはくるぶし辺りまである長い腰布。
足は皮のすね当てと具足。
ビトメは、一度だけ見たことがある。
この服装は、『教会』にいる『異端審問官』だ。
「この度は!
お二人の異変に気付くのに時間がかかってしまい!
到着が遅れてしまいました!
本当に、申し訳ございません!」
何故か彼はそう言って謝っている。
「キャラウェイを含め、
買収されていた七柱の教会関係者は全て『背教者』とし、
捕らえました!
また、街の衛兵を派遣したこの土地の領主も、
キャラウェイから金を受け取っていたので、
捕らえました!」
異端審問官たちのこの服装には、
意味がある。
彼らはあくまで審問官であり、
罪を裁くのは『神』の役割としている。
だから、
彼らは背教者や異端を『生きている常態』で捕らえる。
そのため、彼らは武器は持たずに、
素手による投げ技、関節技、固め技を中心にした体術で戦う。
その戦闘スタイルに合わせて、
分厚い布のカウルを被り、
胴体に巻いた鎖で身を守りつつ。
むき出しの両腕で相手に掴みかかり、
足を払い、崩し、倒し、固める。
そのためのこの服装だ。
「お二人に!
ビトメ様に、このような思いをさせてしまい!
本当に本当に!
申し訳ございません!」
『教会』に『風の神』が降臨して二人の危機を知らせた。
『白の教会』の助けがあったと聞いた七柱の教団幹部は、
また出遅れた、と悔しがったが。
自分たちの教団の裏切りも『神託』で聞いて顔を青くした。
これではどこから助けを出しても、
警戒を強めさせるだけだと判断した『教会』が、
見た目でわかりやすい役職の異端審問官を派遣した。
今土下座しているのは、
オスマンサスに常駐している異端審問官だ。
「ここからは、
『白の教会』の方々と我ら異端審問官がお二人の警護にあたります!」
「……だ、そうです。
正直、うちはこの人らに良い思い出がないので、
同行は勘弁してもらいたいんですけど。
異端審問官全員で我らに土下座して……。
いや、もう、頭ぐちゃぐちゃで、
ほぼ押しきられました」
つなぎの人はうんざりした顔だ。
しかし、ビトメは放心したまま。
何も返さない。
トシ・オーが、ビトメの肩を優しく掴んで軽くさする。
彼女の顔が少しだけ緩んだのを見て、
トシ・オーは水筒を差し出した。
ビトメは、反射的にそれを掴んでゆっくり口に当てて水を飲む。
少しずつ、少しずつ水を飲み込み。
少しだけ、ビトメの瞳が揺れる。
トシ・オーは、異端審問官とつなぎの魔法使いに向き直った。
「すみません。
先に私たちをオスマンサスへ移動させてもらえますか?
ここにいると、
ビトメさんが色々思い出してしまうようで」
「……わかりました。
ゼンフさん、
他の異端審問官の方は運ばなくていいんですよね?」
土下座したままの異端審問官は、
肯定して顔だけ上げた。
「はい!
あぁ、私は身体が重いので、
私自身の瞬間移動魔法で戻ります。
場所は『白の教会』の神殿の前でよろしいですか?」
「えぇ。
そこで落ち合いましょう。
では、トシ・オー様、ビトメ様。
お近くまで行っても良いですか?」
トシ・オーがうなずいた。
ゼンフと呼ばれた異端審問官は立ち上がって、三人から離れる。
つなぎの魔法使いはゆっくり笑顔で二人に近づき、
二人の手の取って呪文を唱え出す。
少しすると呪文が完成し、
三人の周りの景色が霧のように消えていく。
現れたのは白い長方形の背の高い建物だった。
少し離れているが、
その建物にはたくさんの窓と見事に透明なガラスが見える。
そして、入り口らしいドアの上に、
『白の教会』と書かれた看板が飾られていた。
トシ・オーの記憶があったら、こう叫んでいたはずだ。
『ビルは立方体だっつってんだろ!』と。
『これは、四角錐! ピラミッドかよ!』と。
少し離れたところに、
異端審問官のゼンフも現れた。
つなぎの魔法使いと彼は、
ビトメたち二人を連れて『白の教会』の神殿へ向かう。




