閑話 緊急事態
●オフィスのようなところ●
「いた!
私の『加護』の発動を感知できた!
場所……、場所……!
っあぁ?!
ミルポア?!
ヘルトからここまでって、
大陸のほぼ北端と南端の距離じゃない!
絶対トラブルだ……」
『風の神』は、他の四人にとにかく連絡した。
四人は瞬きよりも速く『風の神』のもとへ現れる。
「いましたか?
場所は?」
『鋼の神』はハンカチで顔の汗を拭きながらたずねる。
「ミルポア!
大陸の南の端の方!」
「そりゃ、自分たちの意思で行けるところじゃねぇな」
『火の神』は頭をかきむしって、
『風の神』に謝罪した。
「適当こいてたみたいだわ。
すまん」
「謝る暇か、タバコ吸う時間があるなら、
働けヤニカス」
「ひっでぇ」
この二人、口こそ悪いが仲良い。
『風の神』に小突かれた『火の神』は、
ポケットからタバコの箱を取り出し、
渋面でゴミ箱へ投げやった。
『土の神』は眼鏡を上げて言う。
「……魔物の氾濫だ。
ここ、魔物に襲われたんだ。
だから、『加護』を使ってしまった」
ビトメが頑なに『加護』を使わないと決めていたのは、
六柱全員が知っていることだ。
それでも、彼女は使った。
使わざるおえないほど追い詰められたと見て、
間違いない。
「アイツには悪いけど。
呼ぶよ、『死の神』」
『水の神』はそう言って、
スマートフォンのようなものを懐から取り出した。
五柱の神々は、一様にうつむき加減で同意する。
『水の神』はスマートフォンへメッセージを文字で打ち込み、
送信した。
一拍置いて、神々の前に男が現れた。
顔面蒼白。
比喩ではなく、本当に骨と皮しかない。
目はおちくぼみ、しかし見開かれてギラギラしている。
ほほが痩けて、頭蓋骨に皮が貼ってあるだけのような。
白いシャツから覗く手や腕も細くなり、
中身のない皮が余っていた。
「緊急事態だな」
彼の声は、嫌にはっきりと聞こえた。
皆、一様に彼のことを心配そうに見ている。
それに気付いた彼は、
自らの身体を見回して聞く。
「……私の顔はそんなに酷いか?」
「言っちゃ何だがよ……。
今すぐ寝てほしいけど、
寝たら二度と起きなさそうな顔してんぞ」
『火の神』の言葉に『死の神』は肩をすくめたが、
それだけだった。
『鋼の神』は『死の神』の肩を支えて言う。
「……分派しましょう。
貴方の元からある権能は、そのままで。
『命の神』から受け継いだ、
『生命』と『変化』の権能のどちらかを分ければ……」
「『闇の神』にそそのかされて、それをして、失敗した。
さすがに二の舞はごめん被る」
彼の言う通りだ。
確かにそうだが。
「でも、それで分派せずに、
アンタが倒れたら元も子もないよ」
『風の神』の言う通りでもある。
「まだ行けるさ。
とにかく、目下の問題は二人が。
トシオが連れ去られたことだろ?」
誰も『死の神』の言葉に反論はできなかった。
「何としてでも、
二人を保護するんだ……!」
『死の神』は静かにそう言った。




