第80話 命を大事にしてください!
まだまだ魔物の大群は街に襲いかかってきている。
『テクノマギ』が優勢ではあるものの、
街にもいくらか魔物が侵入している。
その上で、これだ。
「いたよー!」
「あそこー!」
子どもたちは、人間に。
『白の教会』のメンバーに向かって駆け寄ってくる。
近づいたら。
「はい!
どうぞ!」
子どもは手の中の何かをちぎって、
爆発する。
「魔道具だ!
爆裂の魔道具を持ってる!」
「なんてことを!」
つなぎの人々は、
子どもたちを助けるために試行を繰り返すが。
「やったー!」
「わーい!」
次々に子どもたちは爆発していく。
嬉しそうに、楽しそうに。
その命を自ら散らして行く。
友達を誘って、皆で仲良く。
「……いや」
ビトメはガクガク震えて、膝から崩れ落ちる。
目の前の光景が、現実離れしすぎて。
しかも、子どもたちが次々に死んでいく。
病でも、事故でも、ケガでもない。
争ったり、襲われたりでもない。
自ら命を絶っていく。
ラボが大きく揺れて、爆音が近くで聞こえた。
「ここもマズい!
皆!
二人を連れて逃げましょう!」
「地下はマズい!
スラムへ逃げよう!
まともなやつならとっくに地下に逃げてる!
今、出会ったやつは、
魔物かきっと『まともじゃない』!」
つなぎ姿の人々は、二人を連れてラボの一階へ降りた。
すると、入口付近に爆発痕と重態のつなぎの人を抱えるつなぎの男性がいた。
辺りには、
子どもだったとおぼしき血飛沫や肉片がこびりついている。
「建物が囲まれる前に、脱出しましょう!
地下への入り口は閉鎖して!」
スラムへ飛び出したが、あちこちに子どもがいる。
つなぎの人たちがなんとか子どもから爆弾を取り上げようとしているが、
うまく行かずに爆発がそこらで起きた。
目の前の光景が信じられない。
ビトメは止めどなく涙を長し、
頭の中はぐちゃぐちゃ。
何よりも死んでいく子どもたちが楽しそうなことが、
辛くてたまらない。
生きていれば、良いことはある。
生きてさえいれば、
きっと楽しいことや嬉しいことがある。
でも、この子らは嬉しそうに死んでいく。
「よし!
爆発を阻止したぞ!」
つなぎの一人が、
子どもを捕まえて手にしていた魔道具を奪っていた。
「これ……で、……?」
「いやぁぁ! 返して!
それがないと!
それがいるの!
いやぁっ!」
爆弾を取られた子どもは、
泣き叫び、絶望の顔になっている。
つなぎの人はそれを見て困惑していた。
「これがないと!
これがないと母さんと父さんに会えないの!
返して! 返してぇ!」
ビトメはその言葉で察してしまう。
この子たちの両親は、もういない。
だから、誰かに吹き込まれたんだ。
『爆弾を持って行って爆発すれば、親に会える』、と。
子どもたちは親にもう一度会いたくて、
会いたくて、会いたくて。
だから、目標に向かって行って、爆発する。
この子らには、それが死だとは理解できておらず。
親のいるところへいける、とだけ信じて。
必死に、必死に、死にに来ている。
ビトメたちの前にも一人やってきた。
先頭にいるつなぎが、
さっきの人の真似をして子どもから爆弾を奪った。
「うわ!
やめて! 離して! 返して!
それがないと!」
やはり、子どもは絶望の顔で暴れる。
ぶちっ!
いつのまにか子どものそばにいたトシ・オーが、
子どもの髪の毛を引き抜いた。
その髪は、彼の手の平の上で芋虫や蛇のように悶えて、
のたうち回り苦しむ。
それを見たつなぎの一人が、
目の前の子どもを銃で撃ち抜いた。
子どもの頭が果実のように砕け、
黒色をぶちまける。
そして、子どもの身体は溶けるように崩壊して、
黒い水溜まりになった。
「シェイプシフターだ!
シェイプシフターがいた!」
「全部そうなのか!?」
「違う!
こっちは本物の子どもだ!
混ざってる!」
「シェイプシフターは、無機物にも化けるぞ!
周囲の障害物にも気を付けろ!」
偽物だったとはいえ、
目の前で子どもの頭が吹き飛ぶ様をみてしまったビトメ。
彼女はとうとう、限界を向かえた。
死ぬまで使うまいと、己自身と亡き『命の神』に誓ったが。
彼女は使うことに決めた。
六柱の神々の加護を。
「……っ!!
私は! 『命の神様』への信仰を!
この命が尽きようとも!
決してやめません!
神様!
『風の神様』!
その御力をお借りいたします!
私の信仰を妨げる、
ありとあらゆるものよ、凪げ!」
ビトメは滂沱の涙を流しながらも、
『風の神』の加護を発動させた。
ビトメが両手を胸の前で打ち合わせた途端、
人も、魔物も、生き物全てがピタリと動きを止めた。
その顔は、皆一様に『無』。
感情どころか、思考すら『凪ぎ』になり。
放心状態だ。
ビトメは大きく息をすって、
加護に乗せて自分の声を街中に届ける。
「魔物たちは、帰ってください!
二度と人を襲わないでください!
子どもたちは、
爆弾を捨てて『白の教会』に来てください!
『白の教会』の人たちは、
怪我人の救助と子どもたちの安全確保を急いでください!」
空っぽな状態の生き物たちは、
ビトメの声にしたがって動き出した。
これが、三年前にビトメが授かった『風の神』の加護。
一時的に、周囲の全てをコントロールできる御力。
生き物全ても、魔法や自然現象すら、
ビトメの指示に従う。
「爆弾の魔道具は全て無力化してください!
火事は消えてください!」
ビトメの脳裏に、キャラウェイの顔が浮かぶ。
この件に、彼が無関係だとは到底思えない。
しかし、ビトメは。
「命を大事にしてください!
命は! 一つしか!
ありません!
皆さん! お願いします!」
ビトメは最後の指示をそう締め括った。
彼女は、そのまま地面に崩れ落ち、泣き叫ぶ。
唯一、加護の対象になれないトシ・オーが、
ビトメに近寄りそばに座り込み。
ビトメがトシ・オーにするように、
ビトメの両肩を優しくさする。
「大丈夫。
大丈夫です」
ビトメがそう言う様に
トシ・オーはそうビトメに言い聞かせる。
ビトメはそれを見て更に泣き出した。
ビトメは、もう考えることを止めて、
トシ・オーの胸に顔を埋めて泣き叫ぶ。
トシ・オーは、ぎこちない手だが彼女の背を優しく撫で続けた。




