第78話 大丈夫ですから!
魔物の大群。
絶望的なその声を聞いても、つなぎの人々は笑っている。
「タイプは!?」
「ゴブリン、サイクロプス、とか!
亜人系!
後、節足動物系!
デカいクモとか、ムカデ!」
「毒だ!
どっちにも、毒が効果的だ!」
「毒クモにも効くのか!?」
「殺虫剤は効いてるだろうがよ!?」
戦う意思。
冷静な分析と、経験から来る判断。
『白の教会』は、
抗い、足掻き、闘い、逃げても再起する。
それが、彼らの歴史であり、誇り。
しかし、ビトメには狂人にしか見えなかった。
なんと恐ろしい人たちだろうか。
だが、頼れるのはこの人たちのみ。
「お二人は建物内へ!」
ビトメとトシ・オーは、
ラボの方へ連れていかれた。
ビトメは、それにやっと気がついた。
トシ・オーが、怯えてない。
知らない場所や、
人の大声、金属器等に怯えて叫んで暴れていた三年前のトシ・オー。
最近は収まったとはいえ、
この緊急事態の、
しかも周りの人が殺気立っているにも関わらず。
トシ・オーは落ち着いている。
ビトメすら不安で混乱しているのに。
まるで、この状況に馴染んでいるかのように。
ビトメは思わずトシ・オーの手を握って言った。
「大丈夫!
大丈夫ですから!」
自分も、トシ・オーも宥めるために、
そう言いきる。
揺らぐ足元を、言葉で固めるために。
揺らぐ意思を、言霊で固めるために。
ビトメの意図は伝わってないようだが、
トシ・オーはそれを見てはい、とだけ返した。
いつも通りのトシ・オーだった。
「『テクノマギ隊』、出動!」
地下からラボに現れたのは、
奇妙な鎧を身に付けた人たちだった。
「行くぞ、『ラビット』!」
一人がそう叫んで、ラボを跳び出した。
彼のテクノマギの鎧に付いた無数のスラスターが、
ボッ、と一瞬だけ吹き出す。
彼はその勢いを『足場』にし、
鍛え上げた筋力で縦横無尽に跳び回る。
頭に二本のセンサーが生えていて、
まるでウサギのような鎧だ。
「『タイガー』、出る!」
次にとびだしたのは巨体。
彼は大型の肉食獣のような、
大きく鋭い爪と牙を着けたテクノマギの鎧を着込み。
背中のブースターを噴出させて、
まるで獣のように地を駆けていった。
テクノマギ。
魔法と科学をトシ・オーが掛け合わせた特殊技術。
三年前は量産する必要があったため、
同じ形式のフルプレートアーマーのようなものだった。
当時は武器が重火器だったので、
それで良かったのだが。
彼らはそれで良しとはしなかった。
『鎧』なんだったら、使い手に合わせよう!
そうなったらば、
もう効率も何もかも吹き飛ぶ。
彼らはおもちゃを手に入れた子供になった。
特殊技術が使える、『天才クソガキ』になった。
「『イーグル』、出ます!」
彼女は両腕の翼パーツを広げて、
背中のエンジンを吹かして飛び上がる。
テクノマギの鎧で身を包んだそのシルエットは、
まさに大型の猛禽類。
「『ヘビーブル』、参る」
三メートルを越える巨体が、
信じられない速さで駆け出した。
彼はそもそも、二メートルを越える巨体。
それが、巨大なテクノマギの鎧を着込み、
巨人種の魔物と肉弾戦で正面から渡り合えるようになっている。
「援護に出よう、『ウルフ』」
長い銃身を構えて、
音もなく飛び出していった彼女はスナイパー。
黒いテクノマギの鎧は、その身を隠し音を殺す。
超遠距離、しかも、
針に糸を通すような精密さで打ち出される弾丸を回避することは困難だ。
そもそも『白の教会』は、
『スキンヘッドで全裸のマッチョな男が両腕を広げて空へ飛び立とうとしている』像を神像としていた。
その目標は、『人の神からの独立』。
鍛え上げた肉体と、積み重ねた知恵で、
神に頼らず障害を乗り越える。
それが、彼らの目標であり、生き方でもあり、信仰だ。
それにトシ・オーが与えた『テクノマギ』は、
まさに『水』。
『水を得た魚のよう』に、
五人は魔物の大群へ向かっていった。
「今出ていったのは、
『テクノマギ』です。
彼らの装備はトシ・オー様の考案されたものです!
全て、『ダンジョンの魔物の氾濫』を鎮圧するための装備です!」
二人の護衛に来たつなぎの人々がそう説明した。
つなぎの人々も、皆銃を手にしている。
この『つなぎ』は軽装に見えるが、
彼らの研究と実験と、その失敗を受け止める特殊装備。
下手なフルプレートアーマーより、頑強だ。
護衛たちはフルフェイスのヘルメットを被って、
ビトメたちを護るために陣形を組んだ。
「各地にある『白の教会』には、
全て『ダンジョンの魔物の氾濫を鎮圧可能なだけの戦力を常備しています』。
もちろん、ここもそうです。
ダンジョンマスターが現れたとしても、
なんの問題もありません!」
つなぎの人々は笑っている。
自信満々で、笑っている。
ビトメはひきつった顔で礼を言った。
「あ……、ありがとう……ございます」




