閑話 焦燥
●ミルポア『癒し手』の教会●
「全滅?
衛兵がか?」
キャラウェイはさすがに聞き捨てならず、
報告にきた男を見て聞き直す。
「はい……。
死体すら、まともな状態にありません。
誰が誰の死体か全く分かりません」
「……『異端』ではなく、
もはや『武力勢力』だったか」
苦々しく呟きながら、
怒りで全身の贅肉を揺らすキャラウェイ。
しかし、目の前の男を怒鳴り付けるのもお門違いだ、と
判断できるだけの冷静さは保っている。
「で、二人が『白の教会』にいたかどうかも不明、か?」
「はい。
生き証人は一人もいませんで……」
「……ぐぅむ」
キャラウェイは焦った。
衛兵を一網打尽にする武力をもった『異端』。
奮発して衛兵を買収したのだ。
今さら町のチンピラを集めても、敵うとは思えない。
それに、いつ『白の教会』に瞬間移動の魔法使いを呼ばれるか分からない。
そこまでの武力があるなら、
そう言う魔法使いの部隊だってあってしかるべきだ。
むしろ、既に二人はどこかへ移動してしまった可能性すらある。
急がなければならないが、
直ぐ用意できる手駒が弱すぎる。
豪華絢爛な部屋の調度品だけが、
いつも通り落ち着いている。
キャラウェイはテーブルの上のフルーツを乱暴に手に取り、
口へ放り込んだ。
ボロボロと口が取りこぼした果実が床に落ちて染みになる。
キャラウェイの頭に糖が巡る。
「ここで諦めるには、
時間も出費もかさみすぎだ」
そう。
もうキャラウェイは引き返せない。
『癒し手』を裏切り。
『七柱の教団』を裏切り。
神すら裏切った、裏切り者。
それもこれも、
金のためにやったことだ。
『奇跡』がなくなってしまった今、
キャラウェイに新たな収入は見込めず。
蓄財を削るしかなく。
今さら質素堅実な生活にはなれず。
収集したコレクションを手放す気にもなれず。
身体の肉のように、言い訳と恨み言だけが溜まり。
逆転の可能性、投資として、
今回の件はかなりの金額をかけている。
それが、なんの実りもなさなしてない。
逆に損すらしている。
損切り、をするにも遅すぎた。
取れる手段は『前進』あるのみ。
「……」
キャラウェイは肉塊を揺らして椅子から立ち上がった。
「奴らに魔法使いを呼ばれるより前に行動せねば。
奥の手を使おうにも、時間が足りん」
「……それであれば、一つご提案が」
いつの間にか部屋にいたパティスが前に出てそう言う。
「今はゴブリンの知恵すら借りたい。
聞いてやろう」
「では、
私の商品の一つに、
擬似的に魔物を氾濫させられるアイテムがありまして……」
それはコストが高い。
そう直感したキャラウェイが唸る中、
パティスは説明を続ける。
「もちろん、魔物はコントロールできません。
この街全体が大変危険な状態になってしまいます」
パティスはそれでも笑みを浮かべて。
「だから、『白の教会』が彼らの言う『実験』で魔物の氾濫を起こさせた、
と言う噂を流して参りましょう」
キャラウェイは笑った。
パティスも笑っていた。
「では、我らの身の安全を保証できるアイテムもあるのだな?」
「えぇ、ございます。
こちらは、サービスとさせて貰いましょう。
そうですね。
これに共感してくれる人は必要だ。
我々以外全滅、と言うわけに行きません。
氾濫で生き残るのは、
七柱の教団と貴方に近い方がいいでしょう」
パティスは、暗に庇護対象を選べると言う。
キャラウェイは目を細めた。
「それは、いいなぁ」
贅肉を揺らして、彼は笑った。




