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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第五章 ノルマなし、転勤なし!

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第76話 後で、おくすり飲んどきましょ

 一夜空けて。

ろくに眠れず食欲もないビトメに出された食事は、

おそらくこの世界の人間の大半が異議を申し立てる内容だった。


「これ、は?」

「はい!

トシ・オー様が食べたがっていた物を再現できないかと、

試行錯誤した最新作!

『ニホーン・ショック八十三号』です!」


 湯気の立つほど暖かい泥水で満たされたスープディッシュ。

白い虫の卵を集めたような何か。

どう見ても腐っていて異臭を放つ豆。

萎びた野菜たち。

赤黒いソースがかかった白い何か。

唯一まともそうなのは、何かの魚を焼いたもの。

 ビトメは生唾ではなく、固唾を飲んだ。


「これ……、たべ、食べ物ですか?」

「はい!

一番美味しいものを用意しました!

ただ、お味がトシ・オー様の求めていたものと一致するか分からず。

 苦心した調理班は、

とにかく美味しいもの、として作っています!

試作品が百八号まである中で、

一番美味しいのはこれだそうです!」


 給仕をしてくれたつなぎの女性はそう説明する。

トシ・オーすら、手をつけるのを躊躇っている。

彼の記憶がないこともあるが、

これは記憶があっても躊躇いたくなる料理だ。

 海外にある日本にない日本食の、異世界バージョン。

未知の物を未知な調理法で加工した、未知の塊である。

ちゃんとした和食器にもられてたとしても、

食べるのを躊躇うものばかり。

 つなぎの女性は、笑顔で説明を続ける。


「『ナトー』は癖が強いので、

ダメな方が多いのですが。

こちらの『トーフー』は、

ソースの『シャイユー』共々人気です!

 『ナトー』に『シャイユー』をかける人もいますけど、

私は塩でいただくのが好きです!」


 名前に名残は見られるようだ。

だが、記憶がないトシ・オーには、関係なかった。

 トシ・オーはとりあえず、

泥水の満たされたスープディッシュを手にとってスプーンをいれた。

スプーンを持ち上げると、

匙の中には黒いビロビロが入っていた。

どうにも食べ物に見えない。


「それは、『カメノケ』と言う海藻です。

オスマンサスでは、今大人気の食材です!

塩でつけて乾燥させると長期間保管できて、

保存にも輸出にもいいし。

栄養もあってヘルシーなんですけど。

 お通じが黒くなるのだけ、皆驚かれるんですよね。

黒い色だけ消化できずに出てくるみたいで」


 もう、ワカメですらない何かだ。

トシ・オーは意を決して、

泥水とカメノケを口に運んだ。

ビトメもそれにつづく。


「……お、美味しい」


 ちゃんと出汁から取られた味噌汁の味だ。

ビトメには見た目こそ異様だが、

味は今まで飲んだことのあるどのスープより美味しい。

 トシ・オーには記憶がないが、

身体がそれに反応したのか、味噌汁の残りを一気にあおった。


「トシオさん?!

落ち着いて!

喉つめますよ?」

「そうです!

おかわりはいっぱいありますから」


 はっきり断言出きるのは、

これは『味噌汁ではない』と言うことだ。

見た目はそこそこ似ているものの、味は全く別物。

だが、それでも、やっぱり、身体か求めてしまう。


 故郷の味。


 トシ・オーはそのままの勢いで、

虫の卵をかっ食らう。

これも穀類なのだが、

異世界の植物であることには変わりない。

 決して『米ではない』。

米ではないのに、トシ・オーの手は止まらない。

ぐわつ、ぐわつ、と口に放り込んでいく。


「お、おかわりを!

おかわりを用意してきますね」


 つなぎの女性はそう言って駆けていく。


「……トシオさん。

思い……だしましたか?」


 ビトメは、思わず問いかけた。


「……いいえ。

でも、美味しいです」


 トシ・オーは変わらない調子だったが、

食べる速度と勢いは凄まじい。

身体が求めて止まないのだ。

和食を、米を、大豆製品を。

例えそれが、本物とは程遠い味の代替品だとしても。

食べる手を止められない。

 食に関しては世界屈指の変態性を発揮する日本人。

それは、三大欲求を越えて、

魂から求めるものだからだろう。

トシ・オーも、

例に漏れず元の世界の食べ物に飢えていた。

 ビトメは不安に思えてならない。

目の前にいるトシ・オーは、記憶がない。

彼女はその事を不憫に思っていた。

 今では逆に、思い出さない方が良い、と思っている。

こんなし烈な生活、人間がしてていいものではない。

しかし、神を敵に回すということは、

こう言うことだと理解した。

 癒すために記憶を封じた。

その理由が、思惑が、

神を殺しうる人間の無力化だと『白の教会』たちは言う。

しかし、ビトメには癒すためだと、心底思った。

こんな記憶、こんな経験、

いいものな訳がない。

 それが、この食事で記憶が戻るかもしれない。

そう思うと、

トシ・オーが食べるのを止めようかと悩むほどだ。


「……その、腐ったのはやめときましょ?」

「これは、これで」


 『ナトー』を混ぜて口に運んだトシ・オー。

まんざらでもない顔だ。


「後で、おくすり飲んどきましょ。

胃腸薬を」


 ビトメは、二重の意味でそう言った。

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