第73話 タダ!?
二人が案内された部屋は、
先程までいた倉庫のような施設。
『白の教会』の人たちは『ラボ』と呼ぶ施設の地下にある、
居室。
「な……、なんで、地下なのに、
こんなに明るいのですか?」
「ここは、『電気』があるからな。
壁のあそこと、床のあそこに『電灯』を仕込んでる」
つなぎの男性は、
通路の角辺りを指差してそう言った。
そこはガラスで囲われた光源がある。
「で……『でんき』?」
「『死の荒野』、
俺たちは『宝の山』って呼んでる。
そこの土を使うんだ。
そうすると、魔力とは違う。
空から降ってくる『雷』の力を得られる。
それを貯めて、使いやすい大きさにして、
『電灯』みたいな装置に与える。
そうすると、光るんだ」
ビトメにはよく分からない。
しかし、こんなに過ごしやすい地下室は初めてだった。
「しかも、空調も『電気』で動かしてる。
あちこちにある格子の窓みたいなのから、
『羽根』を回して空気や湿気を吸って、
地上に逃がしてる」
つなぎの男性は床の排気口を指差して笑う。
ビトメは混乱しながらも、
なんとか返事を返した。
地上の施設はスラムにあることも合間って、
粗末と言っていいものだったが。
地下はビトメが知るどんな施設より進んだ技術で作られていることが分かる。
この不一致さに、目が回るようだ。
「こんなんで驚いちゃ、
トシ・オー様についてけないよ?
次は『自動昇降機』だ。
一番下の広間に降りよう」
「『昇降機』は、乗ったことがあります。
オブリークの『教会』にあったので」
「ありゃ、魔力で動くやつだ。
こっちは『電気』で動く。
動きがこっちの方が遅いけど、
あっちより重い物を上げ下げできるのが魅力だ」
つなぎの男性は自信満々にそう言う。
そして。
「これ、トシ・オー様が教えてくれただぜ?」
「へ?」
ビトメが変な返事をしていまい、顔を赤らめる。
しかし、つなぎの男性は見ていない。
彼が見ているのは、遠いところだ。
「『異世界の手記』。
俺たちがそう呼んでる、
トシ・オー様がくださった膨大な『メモ書き』。
どれもこれも走り書きだったり、
書きかけだけど。
全て『異世界の技術の塊』だった」
トシ・オーは『迷い人』だ、とビトメは聞いていた。
しかし、彼の記憶がないので関係ない、と思い、
さっきまですっかり忘れていた。
「一番下が医務フロアになってるから、
そこでお二人の身体を調べておこう。
何かの魔法とか魔道具を仕込まれてないか。
後、健康も」
そう言って、
つなぎの男性は壁の穴に付いていたシャッターを右へ引いた。
そこにはなにもない。
下まで続く長い長い穴があるだけ。
しかし、シャッターの脇にボタンがあり、
男性はそれを押した。
すると、奇妙な駆動音が下から聞こえてくる。
男性はシャッターを元通り閉めて少し待つように言う。
ほんの数十秒で、シャッター越しになにかが着たのが見える。
つなぎの男性はもう一度シャッターを開くと、
そこには箱のような部屋ができていた。
二人はつなぎの男性に連れられて部屋に入る。
つなぎの男性は箱に付いたボタンを押す。
すると、箱が降下を始めた。
走るより遅く、
歩くよりは早いくらいの早さで箱が降下していく。
ビトメが乗ったことがある魔動の昇降機は、
大きな『皿』のようなものに人がのって上下に動く。
こちらは『箱』が上下に動くようで、
むき出しで上下する魔動のものより動いているときに感じる空気の流れが少なく、
同時に浮遊感が少ない。
「……どこまで降りますか?」
ビトメが心配になってつなぎの男性に問いかけた。
彼は笑って。
「一番下なんだ。
今半分くらいまで着たから、
もう少し待って」
深い。
ビトメはそのまま地獄に繋がってないか不安になるほどだ。
箱がやっと止まった。
シャッターを開くと、
とても開けた場所に出た。
そこの壁は白く、
床と天井は薄いピンク。
真ん中に受付のようなものがあり、
そこに何人かいて時おり訪れる人の対応をしている。
よく見るとつなぎを着てない人もいる。
「ここが、医務フロア。
スラムの人にも解放してて、
ケガとか病気だと思ったら皆ここに来る
真ん中の受付で簡単に話を聞いて、
適宜対応する医者の部屋の番号を案内される。
壁際の大きな数字が、それだ。
一番は内科。基本的に言う病気の対応をする。
二番が外科。骨折か酷い切り傷はあそこ。
急患が一番多いとこだ。
三番が形成外科。年寄りが多いかな。
ざっくり言うと、
腰とか膝とか骨に関する医者がいる。
四番は歯科。
歯にまつわる医者がいる。
一番頼りになるけど、一番怖いのはここ」
『癒し手』だったビトメには、
驚きの光景が広がる。
『スラムの人が医療を受けている』。
経済的弱者の代名詞のような人たちが、
下手をすると普通の人より良い医療を受けているのだ。
「あ!
あの、スラムの人なんですよね。
この人たちは、
お幾らで診て貰えているのですか?」
「ん?
人にもよるけど、
基本タダだよ」
聞くはずのない単語に過剰に反応してしまうビトメ。
「タダ!?
薬代や医師の報酬は?」
「ここね、実験施設でもあるんだ。
ケガや病気の『記録』を保存させてもらって、
それを『白の教会』で共有して、
必要なら病理、詳しく調べさせて貰う代わりに、
タダで診てる」
「じっ! 実験!?
そんな、酷いことを!」
ビトメの反応で色々察したつなぎの男性は、
丁寧に補足する
「ちゃんと患者には説明してるし、
本人たちも納得してる。
新しい薬や治療法を試すことはあるけど、
わざと殺すようなことはしないぜ?
皆医者だから、必死に患者を助けようとしてる。
その情報はさらに良い薬や良い治療法の『元』になる。
俺たちはそう言った『元』をもらって、
代わりに患者を診る。
これが酷いのか?」
ビトメは絶句した。
確かに、イメージした実験と異なるようだ。
このフロアを行き来する人は皆、
穏やかな顔をしている。
誰も檻に入れられたり、
生きたまま微塵に刻まれたりしていない。
「ささ、一番に向かって歩こう。
二人は『健康診断』だ」
ビトメとトシ・オーはつなぎの男性に背を押されながら、
互いの顔を見合わせる。
『健康診断』とは、なんだろうか。
二人は若干の不安を抱えたまま進む。




