閑話 追跡
●ミルポア『癒し手』の教会●
部屋に響くのは、
食器と銀器が微かに触れる音。
そして、不快な咀嚼音。
部屋の床に跪いた男は、頭を上げずに動かない。
豪勢な食事に囲まれたキャラウェイは、
床の男に一瞥もくれず食事を進める。
何かの肉をむさぼるその姿は、ひたすらに浅ましかった。
骨を取り、ねぶり、
キャラウェイはその骨を床の男の方に投げつける。
そんなに大きな骨じゃない。
しかし、コツン、と音がするのでそこそこ痛そうだ。
もう数刻の間このような光景が続いている。
キャラウェイは自分の指をねぶって言う。
「見つからない、と?」
「……はい。
追跡の魔道具も、
いつの間にか外されており。
この街に住むチンピラの服に入れられてました」
キャラウェイは小樽ほどの大きさの木のジョッキを両手でつかんであおる。
「街の出入り口には見張りを張り付け。
門番には賄賂をつかませて、
通る馬車の荷台は全て確認させています。
しかし、それでも見つからず」
「ヘルトから大金を積んで瞬間移動させてきたのは、
単に二人を手元に置くためじゃない。
二人を孤立無援にするためだった。
あの二人はこの国、この街に縁がない。
知り合いすらいない。
金もないのにどこへ言ったと言うんだ?」
キャラウェイは床の男に飲み干したジョッキを投げつけた。
かなり大きな音がした。
床の男は頭から血を流しながらも、
呻き声すら漏らさない。
男は口を開き、自分の考えを伝える。
「……考えられるとしたら、
他の教会に助けを求めたか」
「それはない。
そちらは私が止めた。
この街にある七柱のどの教会も、
二人を見つけたら捕らえる手はずになっている」
キャラウェイは自信満々にそう言って、
ボウルいっぱいのサラダを自分のもとへ引き寄せてむさぼる。
フォークを使っているが、
キャラウェイの手が大きすぎて見えず、
素手で食事をしているように見える。
「……お言葉ですが、
『七柱』以外は?」
「……んん。
『異端』のことか?
この街は広い。
あんなスラムのボロ屋まで、
何の当てもなくたどり着けるか?
この街の地理すら分からない二人が」
キャラウェイは口から食べかすを飛ばしながら嘲笑う。
床の男はそれでも食い下がる。
「しかし、お話しでは例の男の昔の仲間だと」
「道端で『異端ども』が偶然二人を見つけて、か?
……可能性はありそうだな。
よし、燃やせ。
今晩だ。
スラムごと『異端ども』を燃やしてしまえ。
あぶり出したところを捕らえよ」
床の男はうなずいて、部屋から出ていった。
キャラウェイはまた食事に意識を戻した。




