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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第五章 ノルマなし、転勤なし!

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第72話 違います!

 さっきまでの歓声が、

嘘のように静まり返り。

つなぎ姿の人たちは一様に涙を流している。


「あの……、皆さん。

大丈夫ですか?」


 ビトメはおずおずとそう言う。

あの後、つなぎ姿の人たちはトシ・オーを見て大喜びして駆け寄ってきた。

皆、口々にその無事を喜び、感謝し、彼を褒め称える。

 しかし。


「……なんのことですか?」


 記憶のないトシ・オーはそう言って首をかしげるだけだった。

ビトメは、『白の教会』はトシ・オーと悪神『闇の神』と戦った仲間だと言うことを思い出した。

一部の人だけトシ・オーと知り合いかと思っていたビトメには、

全員が全員トシ・オーの顔を覚えていることに驚いた。

 しかし、ビトメが『白の教会』の皆に事情を一からお話ししたら、

このざまだった。

もう嗚咽しか聞こえない。


「……皆、いたんだ……。

三年前……、『闇の神』と闘いの時……」


 一人のつなぎの男性がポツポツと話し出す。


「無理だと思った……。

神は……、『闇の神』は、偉大すぎた……。

 現れた瞬間……!

終わった。

死んだと、……思った。

 そこに、主が、『光の神様』が、

残ったわずかな御力を絞り出して……!

我らを助けたっ……!」


 ビトメが知らなかった、

三年前の闘い。

それが語られる。

ビトメはトシ・オーを見たが、

何の反応もしない。


「でも! 彼は!

トシ・オー様はっ!

立ち上がった!

 ……我らを叱咤し!

……的確な指示をだされ!

一人で、神と神の闘いの中へ……!

歩いていった……!」


 何してくれてんだ、糞がぁ!


「大地を揺るがす神の御力を前に!

トシ・オー様は!

叫んだ!

 主が『光の神様』が敗れ、

『闇の神』が怒気を露にこちらに向かってきた……!

私は……、もう一度死んだと……、思った……!

 でも!

トシ・オー様は!

お母さんは!

『闇の神』と、対等どころか!

一方的に、打ちのめしてくれた!」


 ビトメが信じられないと呟く。


「そこに現れたのが七神だった!

アイツらは『闇の神』を殺されるのは困ると!

後一歩でトシ・オー様が、

『闇の神』を屠れると言うところで!

邪魔をして!

 ヤツを封印するにとどめて!

その上、トシ・オー様にその責を負わせて!

この始末!」


 その声に怒気が含まれる。

ビトメはさすがに聞き捨てならず。


「待ってください!

違います!

『命の神』は、

その命と引き換えに彼の中に世界の歪みを封じて……!」

「それが、そもそも嘘なんだよ……。

トシ・オー様は、『神を追い詰めた』。

神に並ぶどころか、越えてしまった。

 だから、七神が封印したかったのは、

『闇の神』でも、呪いでもなく、

トシ・オー様自身だった……!」


 あまりにも信じられない話にビトメは目を見開く。


「『命の神』の死?

この街の『癒し手』みたいなのを放置して逃げただけだ。

不都合なことは全部、見ないようにして。

その結果が、君たちの今の状況だろ?」


 ビトメは言い返せず、

でも、納得もできない顔をした。

つなぎの男性はそれを見てうなずく。


「おかしいと思わなかったのか?

貴女のさっきの話を我らは知らない。

それは、『七柱の神々』が、

その話を我らが主の『光の神様』に伝えてないからだ」


 その一言に、ビトメはハッとした。

そうだ。

彼らは知らなかった。

トシ・オーがどうなっていたか、

この三年間何も知らなかった。

 彼らの涙の訳を大まかに理解し、

でも納得できないビトメ。


 『七柱の神々』が、

彼らに、『光の神』に情報を伏せていた。


 何故?

彼らに知られると都合が悪いから。

以外に理由が思い付かないビトメは頭を抱える。


「貴女は何も知らず、

『七柱の神々』に利用されてるだけのようだ。

だから、我らはトシ・オー様だけでなく、

貴女もかくまいます」


 つなぎ姿の人たちは笑っていた。

しかし、ビトメはうつむいて、

なんとも言えない悲しい顔をしている。

 しかし、トシ・オーは。


「ビトメさんは、大丈夫です」


 その一言は、大きかった。

記憶がないことを加味しても、

トシ・オー自身の言葉は『白の教会』のメンバーたちを納得させた。


「それはそうと。

何故、『お母さん』?」


 ビトメは思わず聞いた。

少し離れたところにいた、

白づくめのつなぎを着た女性が話し出す。


「……我らが主、『光の神』は女神。

しかし、主は我らを導き、行く先を示し、

その背中で語る方で。

 しかも、以前の我らは女神であることを知らずに、

『父なる主』とお呼びしていたこともあり、

今でも『父』と言えば『光の神様』なのです」


 なんだか複雑だが、

ビトメはかろうじてうなずく。


「そして、『聖人様』であられるトシ・オー様は、

こう、なんと言うか。

我らの過ちを叱り、我らを支えて、

我らを助ける。

『母』のようで。

 しかも、我らの『聖女様』がトシ・オー様を、

『お母さん』と呼びまして。

それきり、

『お母さん』と言えば『トシ・オー様』なのです」


 今のトシ・オーしか知らないビトメには、

納得いきかねるが、何となく疎外感を感じた。

ビトメはもう一度、トシ・オーを見た。

しかし、様子はビトメの中のいつもと変わらなかった。

 それに少しほっとしつつ、

同時に彼が何か思い出したらどうなるのか、

と怯えてしまった。


「さて、お二人には今日はここで泊まってください。

皆、用意して」


 つなぎ姿の男性が号令をだすと、

ビトメとトシ・オーの前にテーブルが運ばれて来た。

椅子はないが、テーブルの上にこの大陸の地図が置かれる。


「今いる、ミルポアはここです」


 つなぎの男性はそう言って大きめのボルトを大陸の南東に置く。


「ここが、ナスタチウムのヘルト」


 次にボルトを置いたのは、大陸の北東山脈の辺り。

一つ目のボルトからかなりの距離がある。

ほとんど大陸の縦断だ。


「馬でヘルトへ行くのは、

現実的じゃない」


 遠征と呼べる距離だ。

馬や渡し船、地形と気候、季節も考えると、

ヘルトに陸路で帰るのに二、三年はかかる。


「瞬間移動の魔法使いに頼むなら、

莫大な費用がいる。

金貨レベルだ」


 一瞬で記録した土地に移動できる魔法。

『瞬間移動魔法』。

素晴らしいものであるが、同時に制約も多い。

運べるものの重さが決まっており、

重ければ重いほど魔力をたくさん消費する。

 しかも、移動するポイントを記録するために、

『魔法使いはその足だけでそこへ行ったことがある』、

と言う厳しい条件がある。

馬も使えない。

魔法使いの足で移動した場所、と言う条件だ。


「ヘルトを帰還ポイントに設定した帰還石を手に入れるのも困難だ

かなり高価だろうし」


 『瞬間移動魔法』制約の一部を克服したのが『帰還石』。

石を帰還ポイントに設定したい場所に持っていき、

そこで魔力を流せばポイントが記録される。

 ただし、運べる重さは限られ、片道のみの使い捨て。

今の場合は、

ビトメとトシ・オーの二人分帰還石が必要になる。


「我らはそれでも、

貴女たちをヘルトへ帰す。

 『命の神』の『七柱の神々』のためじゃない。

『お母さん』、トシ・オー様のために」


 そう言って、

つなきの男性はもう一つボルトを地図の上に置く。

それは、ミルポアから『死の荒野』を挟んで遥か東の端。

海に面した国。


「オスマンサスにある、

我らの本部。

ここへなら、

我らの魔法使いに頼めば瞬間移動で行ける。

 ここに隠れるより安全だし、

何を置いても我らのホーム。

それに、『光の神様』に一度お話しして貰えれば、

もっと協力できるはずだ」

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