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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第五章 ノルマなし、転勤なし!

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第71話 間が悪かったようですね

 どこへ行くのか分からない。

しかし、トシ・オーは歩く。

だから、ビトメはその後をついていく。

 落ち着いてきてやっと分かってきたが、

ここはナスタチウムではない。

乾いた空気、道端の植物は低木ばかり。

赤茶色の土が舞い上がり、

強い日差しが皮膚を焼く。

 フェイスベールは変装としても良いが、

日除けとしても非常に良かった。

寒い地域で生まれ育ったビトメにこの日差しはかなり辛い。


「座りましょう」


 トシ・オーはビトメにそう言った。

いつの間にか噴水の広場のようなところに出ていた。

暑さにやられていたビトメは、フラフラとベンチに腰かけた。

トシ・オーはその隣に座って、

どこで盗んだのか水筒を取り出しビトメに飲ませる。

 ビトメは唇に触れたものが冷たい飲みであることに驚き、

ほのかに甘いことに更に驚く。

同時に、全部盗品であることを思い出して気に病む。


「……はぁ。

美味しいです」

「聞いてください。

ここまでで分かったことを伝えます」


 トシ・オーは語りだす。

いつの間にか彼の頬に溜め込まれていた果物はなくなっていた。


「ここは、ナスタチウムより遥か南。

アカシャです。

 街の名前はミルポア。

砂漠と荒野の街です。

暑さに気を付けましょう」

「な……、なんで分かったんですか?」

「皆のお話を聞きました」


 皆のお話を?

服を調達し、しばらく人混みを歩いた二人。

その間、通行人や街の人々の話を聞いていた、

と言いたいらしい。

 ビトメは信じがたかった。

しかし、トシ・オーの語り口はしっかりしている。

街の雰囲気からも、口からで任せではないと察せられる。


「さっき私たちがいたのは、

『癒し手』の協会だったそうです。

道行く人たち、皆そこが騒がしいと噂してます。

 だから、『癒し手』の協会へは逃げられません」

「……な、仲間が、私たちを誘拐した」


 ビトメはキャラウェイの語り口を思い出す。

『総本山からの予算に色を付けて貰う』。

そう言っていた。

身代金、とは言わなかった。

 思わずうなだれるビトメ。

仲間だと思ったパティスに拉致され、

挙げ句『癒し手』の教会に軟禁され。

 でも、何となく理由は分かる。

『奇跡』で荒稼ぎしていた『癒し手』たちだ。

ビトメもそう言う者がいることは知っていた。

しかし、金のためにここまでひどいことをする人たちだとは、

思っていなかった。


「大丈夫」


 トシ・オーは何故かそう言いきる。

その顔はいつもの覇気のない顔だ。

彼は懐から一枚の紙を取り出した。

いつどこから盗ったのかわからないが、

その紙にはジグザグのマークと太陽のような丸に線が数本生えたマークが描かれている。

ビトメはそれを受け取り、眺める。


「『白の教会』……ミルポア支部……?

白の教会は、確か『光の神』を崇拝されている。

三年前まで異端として迫害されていた教団ですよね」

「大司教様が、

この紙を持ってるのを見たことがあります」


 トシ・オーの一言は恐らく事実だ。

ビトメもこの紙を大司教が持っているのを見たことがあるから。


「……ここに助けを求める、のですか?」

「助けてくれなくても、なんとかできるはずです」


 トシ・オーはそう言って、

紙の一部を指差した。

ビトメはその一言を読み上げる。


「……研究員募集中?

『研究員』?」

「住み込み歓迎、と書いてあります。

これに応募したことにして、

今日隠れる場所を用意して貰いましょう」


 トシ・オーはいつも通り抑揚のない話し方をするが、

いつもより言葉数が多い。

ビトメたちは立ち上がり、紙に書かれた場所まで歩く。

 街の外れ、ボロ家が並ぶスラムの入り口。

そこに、『白の教会』はあった。

簡素な建物のとなりに、

大きな倉庫のような施設があり、

そこから喧騒が聞こえてきた。

 簡素な建物のドアを開いたが、

誰もいないようだったので、

二人は倉庫のような施設の方へ入って行く。


「よっしゃぁ!

二番、閉め終わった!」

「十三番、OK!」

「水を入れろ!」

「始めるぞ!

構えろクソども!」


 建物のなかではつなぎ姿の男女がところ狭しと駆け回り、

大きな鉄でできた装置を動かす。

装置はけたたましい音を上げ、

揺れて動いて、蒸気を吹上げ。

生き物のようにのたうつ。


「圧力上昇!」

「……今だ! 圧力開放!」

「温度の低下を確認!」

「そのまま行きやがれ、クソが!」


 ちーん。


 ベルの音がなったと同時に、

全員が黙って静かに一点を見つめる。

そこには垂れ下がった太めのチューブと空のグラス。


 カラン!


 音を立てて氷がチューブから落ち、

グラスに滑り込んだ。

 その瞬間、爆発したように歓声が上がり、

つなぎ姿の人々は大喜びしてお互いを褒め称える。


「氷ができた!」

「冷たい!

冷たいぞ!

くそったれ!」

「クラウン持ってこい!

コイツで冷やして飲もう!」

「そんな良い酒ねぇよ!

それに、まだ油クセェ。

鉄っぽい味もする」

「氷を魔法なしで作ることはできた!

次は味と匂いだな」


 よく見ると装置からチューブが延びていて、

そこから氷が産み出されているようだ。

チューブの下のグラスを回収して、

タルに変えると次々に産み出される氷がそこへ貯まっていく。


「食えたもんじゃない、不味い氷だ!

食用への道のりはまだまだ!

 だが、これなら野菜やら肉を冷やせるぞ!

物流が変わるんだ!」

「薬も冷えるから、長期保存に使える!」

「やったぞ、クソが!

『冷蔵庫』ができるぞ!」


 また、割れんばかりの歓声と拍手が建物を揺らす。


「な、なんか、おめでたいようですが。

間が悪かったようですね」


 ビトメが言う通り、誰も二人に気がつかない。

立ちすくんでいると、つなぎ姿の男性が二人に気がついた。


「あぁ!

なんだい?

なんか用かい?」

「あ!

いや! その!」

「この紙を見てきました」


 慌てふためくビトメをよそに、

トシ・オーは男性へさっきの紙を差し出した。

そして、男性に髪は隠したまま顔だけを露にする。

 男性はそのトシ・オーの顔を見て驚愕の顔に変わる。


「お、お母さん!?」

「は?」


 トシ・オーは首をかしげた。

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