閑話 一大事
●オフィスのようなところ●
自分のデスクから跳び跳ねるように立ち上がり、
大声を張り上げる女性。
「ちょっと!
二人がどこかに行っちゃってるじゃない!」
スカートタイプのスーツを着た『風の神』はヒールをカツカツ鳴らして歩きだした。
「なんかの用事で移動したんじゃないの?」
近くのデスクにいたよれよれのスーツ姿で『火の神』がそう言うが、
『風の神』は紙の資料を彼の顔に投げつけた。
『火の神』が資料を拾いながら読み、目を見開く。
「はぁ!?
瞬間移動魔法?!
しかも、国境跨いだ!?」
「だから、どっか行ったつってんだろ!
ヤニが脳まで回ったか?!
しかも、そこから先が辿れない!
なにかに邪魔されてる!
私たち(七柱の神)すら惑わす何かがある!」
その声を聞いて、
他の三人も駆けつける。
眼鏡でかりゆし姿の『土の神』が、
スマホのようなものを操作して言う。
「ダメ。
大地に触れてるみたいだけど、
場所まで特定できない」
「こっちもダメ。
風に触れてても、どこかにいる、
ってくらいしか分からない!」
ヒールの踵で不満と不安を露にしつつ、
『風の神』は頭を抱える。
「……『死の神』は、まだ?」
恰幅の良いダブルのスーツ姿の『鋼の神』がそう問いかける。
四人は顔を見合わせてため息をついた。
「……『命の神』の権能を、
分派した神々ごと全部引き継いだんだ。
『死』の権能と『生命』の権能は、
すごく近くてすごく遠い。
同一なんだけど、異なる。
それこそ、コインの裏表だ。
ごっちゃに混ざらないよう必死になってる。
三年ぽっちで落ち着けるわけないだろ」
パンツタイプのスーツを着た『水の神』はそう言った。
そして、『水の神』は付け足すように皆に聞く。
「この話、『死の神』に言う?」
「……お待ちください。
まだ、彼女は私たちの『祝福』を使ってません。
『死の神』に伝えるのは、
『祝福』を使用したら、で良いでしょう。
ただし、今の時点で私たち全力で二人を探します。
原因究明より、二人の位置捕捉と心身の安全を確保する。
良いですか?」
『鋼の神』の提案に、全員うなずいた。
三年前のあの日、
ビトメに六柱の神々は一つずつ祝福を与えていた。
ありとあらゆる魔と邪、
病や呪い、毒までも焼き尽くす『火の加護』。
ありとあらゆるものに平等に降り注ぎ、
打ち付け、穿つ『水の加護』。
ありとあらゆる障害や壁、
谷間も山すら踏み潰し、ならす『土の加護』。
ありとあらゆる流れやうねり、
動きそのものから心までも凪ぐ『風の加護』。
ありとあらゆる災いや攻撃、
不幸も絶望も通さない『鋼の加護』。
そして、ありとあらゆる命を終わらせる『死の加護』。
これらはビトメに与えられ、
発動権限もビトメにのみ付与された。
全て一度きりしか発動できないが、
神から直接賜った『奇跡』。
効果は『創世の神』のアラートが鳴るギリギリまで上げられてた、
最上級の『加護』だ。
ビトメはまだそれを一つも使用していない。
使用すれば加護は付与した神に戻ってしまうので、
発動の有無はすぐさま分かる。
「例えトラブルでも自分たちで解決できるものなら、
良いんだけど」
『風の神』は大きなため息を付いた。
他の四柱もつられてため息をつく。




