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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第一章 未経験者歓迎!

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第7話 ソロであんなもんを相手にしたくないからな

 行きつけの道具屋が開いていたので、

俺は店に入り店主に必要なものを伝えて用意して貰う。


「保存食五個。

柄なし投げナイフ五本、鳥の羽十五本。

薪の束三つと、ボロ布の大きいの」

「先生、デケェ獣でも仕留めんのか?」


 店主にそう笑われた。

ついでに、

請求書はマリー経由で冒険者ギルドへ出すよう依頼をした。

 店を出た俺はそのまま町を出て、樹海へ向かう。

いつもの採取ポイント付近を念入りに調べた。


「……見つけた」


 思わずため息が出る。

俺が見つけたのは大きな足跡だ。


「二足歩行、五本指、扁平足。

歩幅からして、身長四メートルくらいか」


 足跡からして、

サイクロプスで間違いない。

 書物からも情報を得ているが、

俺は酒場で会う冒険者たちからかなりの量の話を聞いている。

その中には、サイクロプスに関するものもある。

 サイクロプスは一つ目の巨人だ。

額に一本の角が生えていて、

身長は四から五メートル。

 人間のようなシルエットだが、

手の指が三本しかなく手先が不器用。

何かを握って振り回すくらいはできるが、

武器を作って使うことはできない。

飛び道具もせいぜい投石くらいだ。

 筋骨隆々で、素手で人間を挽き肉にできる。

しかし、ゴブリンやコボルトに負けないくらい、

頭が悪い。

単眼の大きさは顔の半分以上ある。

頭蓋骨の作り的にも、脳が小さいのだろう。

 そして、一番の弱点は視野が狭い事。

大きな単眼は視力こそ良いが、

視野が顔の正面の三十度くらいしかない。

上下も良く見えていないようで、

足元のわずかな段差でつまずくこともあるらしい。


「だから、落とし穴が効果的」


 俺は足跡の近くに穴を掘る。

手入れしているスコップは、

するする穴を深く大きくしていく。

横幅はだいたい四メートル。

深さは身長百七十五センチの俺がすっぽり埋まるくらい。


「時間がかかってしまった」


 日の高さ的にもう昼過ぎ。

周囲を警戒しつつ、

残りの作業を手早く行う。

 薪束をほどいて、

薪をナイフで削り荒く尖らせる。

そして、それを穴の底に上向きで埋める。

 簡易な杭だが、薪なので強度はない。

そのため、刺さったらこれが折れるので、

抜きづらくなる。

 買ったボロ布で穴を塞ぎ、

土を布に薄くまいて穴を隠す。

落とし穴はこれくらいでいい。

 その落とし穴が見える、

少しはなれた位置の低木の根のそばにまた穴を掘る。

全身から土の香りがする。

しかし、一心不乱に掘る。

 できたのは一人用の穴。

昔本で読んだ、

蛸壺とも呼ばれる一人用の塹壕だ。

それの中に入って持っている布で穴の口を塞ぎ、

頭を隠してさっきの落とし穴を見つめる。


「サイクロプスが来るのを待つか」


 ここからは、持久戦だ。

普通の獣は鼻が利く。

なので、この辺にただよう俺の匂いで、

獣は理由なく俺に寄り付かない。

 しかし、サイクロプスの鼻は人間程度。

そして、一度通った道は何度も通る。

さっきの視野が狭いのが理由だ。

開けていて足元まで良く見やすい道しか通らない。

それが、サイクロプスの習性だ。

 俺は今のうちに、

買った投げナイフに羽を巻く。

本当はナイフに溝を掘りたいが、

そんな時間がなかった。

 そして、魔法鞄から取り出したのは、

ひとつの瓶。

ラベルにドクロマークを書いてある。


「俺謹製の毒薬」


 落とし穴近くにきたサイクロプスを俺がおびき寄せ、

穴へ落としたら投げナイフに毒を付けてサイクロプスへ投げる。

この毒は即効性がある麻痺毒と、

遅効性の致死毒を混ぜたものだ。

 薬師ギルドの職員がこっそり教えてくれた、

俺の虎の子の一つ。

これで麻痺してサイクロプスが死んだら、

その耳を切って持ち帰る。

それが俺のプランだ。

そして、手順を一つでも失敗したら、

即逃げ帰る。


「ソロであんなもんを相手にしたくないからな」


 罠を使うのは、

他の冒険者も良くやる手法だが。

罠は素材を痛めるので好まれない。

毒なんてのも忌避される。

食べられるモンスターもいるためだ。


「まぁ、そんなことを言ってられんしな」


 うまく行けばもうけもの。

ダメなら、一目散に逃げて目撃証言をマリーに売る。

冒険者ギルドの思うように動いてやるつもりはない。


「保存食は今のうちに食うか」


 冒険者用保存食は、

高カロリー、高タンパク。

そして、匂いが少ないよう設計されている。

材料は主に穀類のペースト。

砂糖と混ぜて練って乾燥させて固めた固形の食料だ。

 難点は固すぎて噛めない。

俺は保存食を一つ口に放り込んで、

唾液でふやかしながら咀嚼する。

 日が傾いてきた。

久しぶりの野宿だな。

蛸壺の中は思うより心地良い。

ただ、虫が多いのと、

ランタンなどの明かりを灯すと目立つのが難点だ。

 日が落ちたが、

俺はランタンを使わずに。

ひたすら落とし穴を見つめる。


 このアニメやゲームで良く見る、

西洋風のファンタジーな世界。


 ここがなんなのかも、

今だに良く分かっていない。

俺の生まれ育った世界とは、

異なる世界だと言うことは分かる。

しかし、この世界とは、

なんて誰も説明してくれない。

唐突に始まる昔のゲームみたいだ。

 本当にうんざりする。

これはフィクション作品として楽しむから良いのであって、

実体験したらひたすらに糞だった。

なんだよ、ギルドとか。

魔法? 剣?

知ったこっちゃねぇよ。


「……ダメだ。

独りになるとこんなことばっかり考えてしまう」


 この三年間ずっとずっと、

帰りたい、とひたすらに願っている。

だが、この悪夢は覚めることなく。

俺を襲い続ける。

今回のこれだって、そうだ。

なんで俺が?


「糞だ。

本当に糞だ」


 夜でも、月明かりでしっかり見えている。

サイクロプスだ。

木々の隙間から、

文字通り頭一つ飛び出している。

その頭には角。

そして、大きな単眼。

 まっすぐこちらに向かってくる。

俺は魔法鞄から、

臭い玉を取り出した。

これは投げつけて当てると、簡単に割れて。

中から恐ろしく臭い液体が飛び散るようになっている。

 俺は穴から静かに這い出で、

近づいてきたサイクロプスを見つめる。

まだ気付かれていない。

 俺は落とし穴をまたいでサイクロプスの反対側に躍り出る。

そして、臭い玉をサイクロプスに当てた。

周囲に腐敗臭のような、排せつ物のような臭いが立ち込めた。


「ごあぁぁ!」


 サイクロプスが突然の事に驚いて叫んだ。

俺は魔法鞄から取り出した松明に手早く火をつけ、

振り回す。


「こっちだ!

間抜けヅラ!」


 大声でそう叫ぶと、

サイクロプスはまっすぐ落とし穴へ向かって駆け出す。

俺は毒薬と投げナイフを用意して、

落とし穴から少し離れた。


「ぎぃお!」


 サイクロプスが見事に落とし穴に落ちる。

俺はすかさず、

サイクロプスの胴体めがけて毒薬に浸けた投げナイフを投げる。

とりあえず、三本の投げナイフを投げて、

全てサイクロプスに突き刺さったことを確認した。


「ごごごご!」


 サイクロプスが悶え苦しみ出す。

しかし、サイクロプスが激しく暴れる。

俺は残り二本の投げナイフも毒薬に浸けて、

投げた。

この二本も見事にサイクロプスに突き刺さる。

 俺はそれを見届けて、

もう五歩サイクロプスから遠ざかる。


「これで死ぬか?」


 周囲にも注意しつつ、

サイクロプスを観察する。

落とし穴から這い出ようともがくが、

毒のせいかうまく行かず。

徐々に動きに勢いがなくなる。

麻痺毒が効いてきたのか。

 致死毒は効くまでは、もう少し時間がかかる。

俺は辺りをもう一度注意し、

他にサイクロプスや獣がいないか確認した。

まだいける。

 俺はもう少し待つことにした。

サイクロプスは次第に動かなくなり、

大きな単眼から血を流し吐血した。

致死毒が効いてるようだ。


「動かなくなったら、

耳をいただいて逃げる」


 サイクロプスはとうとう動かなくなる。

生死の確認のため、

俺はスコップを持ってサイクロプスに近寄る。


「……死んだか?」


 俺はスコップを背負って、

魔法鞄からナイフを取り出した。


「あら?

なんで死んだの?」


 突然聞こえた女の声。

俺が跳ねるように声がした方を見る。


「……糞が」


 そこにいたのは、

宙を浮いた女の子だ。

 何がおかしいって、

宙を浮いていることより、

彼女が着ている服だ。


「地球の服じゃねぇか」


 俺が三年ぶりに見た、

俺の思う『普通の服』を着た女の子が、

宙に浮いていた。

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