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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第四章 フレックスタイム制!

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第65話 お前も辛いだろ?

 トシオは笑う。

笑う。笑う。笑う。笑っている。


「そもそも、

お前ら七柱全員が迂闊なんだよ。

『光の神』があんなんなっても、

『闇の神』があそこまでやっても。

お前ら気付かなさすぎだ。

 その結果、この隠蔽だぞ?

お前らにたいして信用なんて、

欠片もないんだ」


 『死の神』はなにも言い返せず、

苦しげに唸る。

トシオの言う通りだからだ。

 本当なら世界の破滅を覚悟して、

トシオを彼の元の世界に報告すべきだ。

それを、この世界を守るために、

見て見ぬふりを決めたのは七柱だ。

 『審判』の権能が、

『死の神』自身を苛むほどの隠蔽。

しかし、世界を守るために、

彼は耐えている。


「……他には、

他には望みはないのか?

金も、名誉も!

力も!

なんでも用意する!

だから、おとなしく暮らしていてほしい!」


 もう、周囲のダンジョンマスターたちも、

息を飲んでそのやり取りを聞いている。

 本来あり得ないのだ。

神が人に頭を下げて、謝罪し懇願する。

しかも、人が圧倒的に優位で、だ。

 トシオは『死の神』のそばまで歩み寄り、

しゃがんで言う。


「もう、黙れ。

シノちゃん自身も分かってるんだろ?

 そんな代替品で満足するなら、

俺は自力でとっくにそれらを取りに行く」

「……君は……っ」


 『死の神』も、何とかならないかと言いつつ、

ならないことは知っていた。

トシオはただひたすらに、帰る。

そのために三年以上、

死にものぐるいで生きてきたからだ。


「だろ?

分かってて聞くなよ。

お前も辛いだろ?」


 トシオはゆっくり立ち上がって、

空中に浮くモニタを見た。


「今のジャージ男の状態からして、

瞬間移動の魔法はしっかり空間を操作してる。

 これを解析できれば、

世界をわたることも可能だろうな」


 トシオがそう言った瞬間、

『死の神』は跳ねるように顔を上げて。


「待って!

待ってくれ!

それは止めてくれ!

 それは、この世界の人間が見つけたなら問題ないが、

君が見つけたら!」

「お前らのやらかしが、

すっかり、まるっと、どこまでも、つまびらかに、

俺の世界に伝わるな」


 『死の神』は言葉を失う。

しかし、トシオは見つけてしまった。

自力で元の世界に帰ることができる可能性を。

 トシオはバールのような存在だ。

わずかでも可能性を見つければ、

そこに突っ込み、ネジ込み、こじ開け、開く。

それが、この世界の破壊を招くことだとしても。

それが、全てを巻き込み破滅させることだとしても。

彼には関係がない。


「頼む! お願いだ!

止めてくれ!

 ダンジョンマスターたちも、

君から手を退かせる!

彼らは既にこの世界の生き物だ!

乱暴な手法はいくらでもとれる!

 しかも、

彼らは移籍時に『闇の神』が人間から魔物としてコンバートしてる!

我らとしては、

『発展度』が下がらないようにすればいい!

魔物なら、生きたまま封じることも容易い!」


 それを聞いてダンジョンマスターたちは顔を真っ青にした。


「ふざけるな!

お前らの勝手に従うわけないだろ!」


 ダンジョンマスターの代表者はひきつった顔でさけぶ。

しかし、『死の神』は反論する。


「従うんだ!

そのための契約書だ!

君らは契約したんだろ?!

『この世界に移住する』、

『この世界の理に従う』、

『この世界の神の元に隷属する』!

 この『神』は、『闇の神』だけでなくて、

我々も含む『全ての神』だ!

だから、君らは私に従うしかない!

『トシオと違って』!」


 ダンジョンマスターたちは、押し黙る。

各々、顔色は悪い。

絶望の顔、後悔の顔、憤怒の顔。

どれも、すべて根元は『後悔』だ。


「……だからなんだ?

俺が元の世界に、元の生活に戻れる訳じゃねぇんだろ?」


 トシオの一言は決定的だった。

とりつく島は、一つだけ。

それ以外は、言語道断。

 トシオは笑っている。

それは、狂ったものじゃない。

自棄になったものじゃない。

希望を見つけた笑顔だ。


「……ごめんなさい」


 突然聞こえた声はトシオでも、

『死の神』でも、ダンジョンマスターたちでもなかった。

次の瞬間、トシオが膝から崩れ落ちる。


「なっ!?」


 『死の神』はトシオに駆け寄ろうとしたが、

それより先に別人の手がトシオを抱き止めた。

その手は『命の神』の手だった。

 トシオは彼女の腕の中で動かない。


「『命の神』よ……。

ま、まさか……」

「殺してはいません。

ですが、

私はすべてを失う覚悟をしました」


 『死の神』は『命の神』の顔をみた。

その顔は覚悟をした顔。

しかし、同時に悲しい顔だった。


「『闇の神』から、聞き出しました。

彼は、トシオは、

言葉すら分からぬこの世界に落とされ。

必死に言葉を、文字を覚え。

騙され、裏切られ、謗られ、打ちのめされ。

 それでも、立ち上がり、逃げて、立ち向かって。

そうしてきたのは、

ひとえに『元の世界に帰ること』を目指していたから」


 『命の神』は、腕の中のトシオの顔を撫で、

少しでもその顔を刻まれた皺を、険を落とせないかと。

必死に、でも優しく。

母のように、父のように撫でる。

 しかし、深く深く刻み込まれたこれらは、

びくともしなかった。


「私たちは、

そんな彼に言ってはいけないことをいいました。

『帰れない』と。

 ……とても、とても残酷なことです。

もっと、彼に配慮すべきでした。

何もかも我々の責任です。

我々の罪です。我々が悪です。

我々の都合とわがままです。

 でも、彼を帰して上げることはできません。

だから、私は彼の記憶を封じます」


 『死の神』は、慌てて声を張り上げた。


「なっ!?

そんなことをすれば、君は消えるんだぞ?!

ただでさえ我らの権能は『分派』で散っているんだ!

 そんな中で記憶の封印なんてしたら、

『現世にたいする過剰な干渉』と見なされてしまうぞ!

そうなれば、君は消えるんだ!

分かっているのか?

君一人がこの件の全責任を負うことはないんだぞ?!」


 確かに、『命の神』の言う通り。

しかし、『死の神』の言うことも、

一理どころか多大にある。

本来なら、消えるなら『闇の神』だ。


「分かっています。

でも、トシオの、彼の魂はボロボロです。

人間の魂がここまでに傷つくなんて、

本来はあり得ない」


 全身全霊、全能をかけ、

がむしゃらに帰るためだけにすべてを捧げた。

その代償は、安くなかった。

トシオの魂は崩壊寸前と言える。


「このままでは、

トシオの魂は自壊してしまいます。

急いで彼を癒してさしあげねば。

彼の命は助かれど、元の世界に帰ることができなくなる」


 さらに、

そうなるとトシオの元の世界にトシオの異常が報告されて、

この世界は滅ぶ。


「彼を癒すために一度全ての記憶を封印し、

しかるべき場所を用意して、

時間をかけて癒す必要があるんです。

 これは、『闇の神』のやることを見逃していた。

すべてを知りつつ、

見て見ぬふりをした我々の責任です。

我々の罪です。

 我々が悪である限り、

罰を受ける必要があります。

私が、その罰を受けましょう」


 そう。

七柱の神々は、

『闇の神』の悪行をかなり以前から知っていた。

しかし、忙しさにかまけて、

大事にならないなら、と見て見ぬふりをしていた。


「責を問うなら『闇の神』だ!

君じゃない!

アイツにやらせればいいだろ!?

 君がいなくなったら、

『癒し手』たちは奇跡を起こせなくなる!

『闇の神』に罰もかねてやらせろ!」


 『死の神』は叫ぶ。

それは正論だが、『正しく』ない。

結局はこの世界のためで、

トシオはないがしろになる選択だ。


「あんなのにやらせませんよ。

『闇の神』はもう信じるに値しません。

 彼女の仕事が向こう数万年分溜まってます。

それらを処理しきるまで、

『反省室』から一歩も出しません。

 それに、トシオを明確に恨んでる彼女が、

正しくトシオの記憶を消して癒す手はずを取るとは、

思えません」


 『死の神』は言い返せなくなる。

何とか絞り出した声で聞く。


「……ほっ、他の五人は?」

「……既に、承知しています。

今、彼らは記憶を失ったトシオを安置する場所と、

環境を用意しています」


 『死の神』は膝から崩れ落ち、滂沱の涙をながした。

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