第63話 死んでないみたいだぞ?
●???●
土ぼこりが収まった。
ガレキの中に立っていたのは。
「ジャージか。
あぁ、そう言えばいたな。
糞神と同じか、それ以上のバカ野郎」
「……あれ、反省した!」
ジャージ姿の男はそう言って、
何故か偉そうに腕を組む。
不遜、までいかない。
子供が威張るような、そんな感じで腕を組む。
「だけどな!
今は、俺一人じゃない!」
ジャージの男の周囲にモニタのようなものが現れて、
空中に浮く。
モニタは三枚、三人の男女が表示された。
「『死の神』がいるのか!
丁度良い!
聞け!
七柱の神々よ!
我らはダンジョンマスター!
我らは『闇の神』の解放を要求する!
従わなければ、この場でサトウ トシオを殺害する!」
モニタの内の一枚に写された男性がそう叫ぶ。
トシオは鼻で笑って言い返す。
「俺の命もストップ高だな!
神と交換だとよ!
バッカみてぇ!」
お腹を抱えて笑うトシオ。
しかし、次の瞬間ジャージがトシオの目の前に現れて拳を振り抜く。
「ダメ!」
『雷光の聖女』がそれを止めようとしたが、
止めきれずに吹き飛ばされた。
商業ギルドの壁が派手に吹き飛ぶ。
「ギルドが!」
「それどころじゃありませんよ!
逃げるんです!」
アニスは騒ぎを聞き付けて部屋に来たジャバの背に乗り、
ライムにマリーを抱えるよう指示する。
そして、四人は倒壊寸前の商業ギルドから逃げ出した。
残されたのはトシオとジャージ男と『死の神』。
「……聖女が力負けしたか。
速さは勝ってたが、力が足りてなかった」
「そうだ!
俺は最強だ!」
ジャージ男はそう言って笑う。
その顔は悪ガキのものより、
ヒーローごっこをする子どもの顔だ。
「で?
助けてくれるの?
シノちゃん」
「……頼む、聞いてくれ。
君らは、今とんでもないことになる寸前だ。
今なら、止められる。
あの高級な酒をトシオに渡せば、許してくれるはずだ」
「人数分寄越せ?
四人だから四本だ」
「……何故だ?
その物言いだと、
我らは驚異ではないと?」
宣戦布告した男が苛立ちを見せながらも、
冷静に問う。
「君が代表者か?
頼む。
神たる立場もなにもかも捨てて、頼む。
今すぐ矛を納めてくれ。
トシオをこれ以上暴れさせるわけに行かないんだ。
多分、君たちも想像できないくらいひどい目に遭う」
「言い過ぎじゃねぇ?
それだと、俺は化け物か邪神じゃねぇか」
「……『大海のダンジョン』のマスターを屠り、
『最古のマスター』たる、『闇の神の聖女』を無力化した。
どれもこれも、
サトウ トシオの力ではなく、
『白の教会』の科学によるものだと聞いたが」
「大海のやつの話を聞いてなかったのか?
そりゃ、残念。
じゃぁ、死ねよ」
トシオが笑う。
その瞬間、
『死の神』すら驚くほど突然に死の気配が濃密になった。
死は突然訪れて当然なはずなのに、
それを司る神すら唐突で驚きを隠せない。
「止めてくれ!
トシオ!
頼むから止めてくれ!
ダンジョンマスターが死んでも世界が滅ぶんだ!
頼むからこらえてくれ!」
「死ななきゃいいんだろ?」
トシオはそう言って笑い、ジャージ男に何かを投げた。
ジャージ男は避けなかった。
よほど自分の最強に自信があるようだ。
しかし、『死の神』は顔面蒼白で、
それを止めようと必死になる。
「間に合わないよ?
シノちゃん。」
トシオの投げたそれがジャージ男に触れた瞬間、
ビールや炭酸水をグラスに注いだようなシュワッと言う音がした。
その瞬間、
ジャージ男はそこにいなかった。
「……え?」
ダンジョンマスターの代表者が理解できずに、
呆けた顔でそう言った。
他のモニタに写るダンジョンマスターたちも、
似た表情でフリーズする。
『死の神』は膝から床に崩れ落ち、
絶望した顔になる。
トシオは笑っている。
「な……んだ……、『それ』」
ダンジョンマスターの代表者がそう言って指差したのは、
さっきまでジャージ男がいた場所だ。
そこには、グロテスク極まりない肉の塊に、
無数の目や口鼻等が生えた『何か』だった。
トシオは感心しつつそれを眺める。
『死の神』は耐えきれず、
その場で吐いた。
「『それ』?
そいつが、さっきのジャージのヤツだぞ?」
トシオがあっけらかんと言い放つ。
ダンジョンマスターたちが一斉にざわめいて否定する。
「そんなわけないだろ!?
だって、そこにいるはずなんだ!
まだ、我らは同志、
『武人のダンジョン』のマスターを観測してるぞ!」
「じゃあ、分かるだろ?
それが、さっきのヤツだ」
よくみると肉の中に布が癒着したみたいに取り込まれている。
たくさんの目はギョロギョロとせわしなく動いており、
たくさんの口からは聞き取れない何か音を発し続けている。
「シノちゃん、死んでないみたいだぞ?
これでいいか?」
「……良いわけあるか」
『死の神』は消え入りそうなほどか細い声言い返し、
また吐く。
「何をした!?」
「ん?
行き先の違う帰還石を何個かまとめてぶつけて同時に発動させた。
良かったな。
古い映画みたいに、ハエと融合しなかった」
帰還石は瞬間移動の魔法が封入された魔法道具。
使えば、登録された場所へ一瞬で移動できる。
それを複数同時に、
全く違う行き先が登録された石を発動させた。
つまりは、空間の相位がそこで狂う。
狂った空間は空間自体の連続性を保とうとする力によって、
登録された場所への出口を作れず。
そこに巻き込まれたものは、
その場に空間がない状態に等しくなっているため行き場を失い。
しかし、連続性を保持しようとする万物を破壊しうる力で、
光の何倍もの速さで空間ごとかき回されて、
結果生まれたのはこの醜い肉塊だった。
「ほら、ジャージ男はちゃんと生きてる。
でも、ひどい目にあってる。
これくらいなら、俺の溜飲も抑えられるしな」
『死の神』は返事の代わりに、また吐き戻す。




