第61話 は、早めに帰って貰えると嬉しい
起きがけの大声ほどこたえるものはない。
それが飲んだ次の日なら、なおのことツラい。
「おーきーて!
おかーさーん!」
「だから、誰がお母さんだ!?」
『聖女』か。
俺は痛む頭を両手で押さえながら、
彼女の方を振り向く。
「ねぇ!
主がいちめーを取り留めたって!
でも、眠ったままだって!」
「……金髪のこと、
ほっといてどっか行きやがったな七柱ども」
酔えてないのにやってきた二日酔いの頭痛をこらえながら、
俺は鞄から乳鉢や薬草を取り出して用意を始める。
「おかぁ……。
何してるの?」
「頭痛いの。
頭痛いのの薬つくってんの」
俺は慣れた手付きで二日酔いの薬を作り、
一息であおった。
そばでつぶれてるバニレたちを叩いて起こし、
薬を渡して飲ます。
「……っかぁ!
トシ・オーの薬は効くなぁ。
皆、おはよう」
「おはよう!
貴方はだぁれ?」
「……この前、
壁ぶち破ってきたやつじゃん!」
バニレたちは驚いて『聖女』を見つめる。
「すごいね!
お母さん、
主のためにお薬つくってよ!」
「……どうだろ。
身体は人間、中身は神だ。
人間の俺が作った薬が効くのか分からんのよ」
コイツら、本当に薬を飲んだ途端に元気になりやがって。
俺はまだ効き目がきてないんだぞ?
まだ頭がいてぇ。
「揺するな! 吐くから!」
『聖女』は唸りながら俺を揺する。
揺すられながらも、俺は働かない頭を回す。
「ダンジョンにまれに出る宝箱の中身、
エリクサーなら効くかもな」
「エリクサー?
それは、白たちが使ったよ!」
白たち?
『聖女の右』どもか?
あの襲撃の後、
七柱の神の仕業かジャージのダンジョンマスターと魔物の軍団はこつぜんと消え。
『死の荒野』に俺とレオと『白の教会』たちが取り残された。
金髪は予断を許さない状況だったので、
レオの協力のもと『白の教会』たちとオスマンサスへ瞬間移動した。
研究班たちは、『死の荒野』に残って研究を続行。
『聖女の右』は、二手に分かれてオスマンサスと『死の荒野』を警護することになった。
俺はクリザンテーム行きの帰還石をもらって、
帰ってきたと言うわけだが。
「エリクサーを使ってダメなら、
やっぱり身体じゃなくて、
中身の神の部分に何か原因がある。
研究中のやつらに、
研究は発電とか日光にまつわるものに集中させるよう言え。
太陽光発電なんて、最高だろ、多分。
後、俺に用があるなら俺がそっち行くから、
帰還石か瞬間移動の魔法使い連れてこい」
「ほい!」
『聖女』は今さら帰還石を俺に手渡す。
「オスマンサスのおー様に作って貰った、
聖堂と研究所の前に飛ぶ石だよ!
ここに、主はおられるの!」
「……オスマンサス王め、
ちゃっかりしやがって」
あのジジイ、
民主化のついでに『白の教会』ごと科学を取り込むつもりか。
既に『教会』に喧嘩ふっかけてるから、
怖いもんなしだな。
カラさんの時みたく、潰されても知らねぇぞ。
「神像は前のを継続するって!」
「……それは賛成だ。
あの『ポンのコツ』の神像なんて、止めとけ」
ようやく落ち着いてきた頭を抱えて、
俺は立ち上がる。
「大丈夫か?」
バニレが心配そうにたずねるが、
大丈夫ではない。
帰れないことに変わりはないからだ。
「うるせぇ。
今からでもやれそうなことはやる。
あの糞神も生きてるし、
『七悪神』どもも、
どうせなにもしないだろうしな」
「君の悪態は甘んじて受けよう。
ただ、君の『やれそうなことは』、は
世界の脅威なので控えてもらいたい」
スラックスの男はいつの間にか俺の目の前にいた。
バニレたちが武器に手を掛けて警戒するが。
「『死の』ちゃん!」
『聖女』が空気を読まない。
『死の』ちゃん、ってなんだよ。
「『光の神』の聖女よ。
その呼び方は親しみがこもってて嫌いじゃないが、
できれば『死の神』と呼んで欲しい」
「……し……、『死の神』?」
バニレたちは武器を取り落として、
顔色が真っ青になる。
俺は気にせず。
「なぁ、シノちゃん。
アンタ一人で何しに来たよ?」
「……君がその呼び方をすると、
二度と本来の名で呼んでもらえない気がする。
『光の神』も金髪、と呼び続けてるだろ?」
『死の神』はアゴをさわりながらじっとり俺を睨む。
俺は鼻で笑って言い返す。
「あのポンコツ女神だぞ?
金髪、って呼ぶことすら、
もったいない」
「何がもったいない?
敬意か?
文字数か?」
「それを発音する俺のカロリー」
『死の神』はガクッっと、肩を落とす。
なかなかノリが良いな、コイツ。
「……あのな、言わなかったが、
私の権能は『死』、『審判』。
『審判』の力の一部に、
私のそばで嘘はつけない、と言うものがあってな。
つまり、君は心底そう思ってるんだな。
『光の神』、そんなに、あれか?」
「おう。
心底思ってる」
それを聞いた『聖女』が反論する。
「お母さん。
主は『敵』にメタメタにやられたから、
あぁなんだよ?
だから、お母さんが助けないとダメダメなの」
「……お母さん言うな。
つーか、シノちゃんはなんで来たよ?」
「……君に死の気配が近付いていたから、
様子を見に」
「あ?
死の気配が?」
俺はおもむろに部屋のドアを開けた。
ドアの前には二人の人がいた。
俺は静かにドアを閉めた。
「……トシ・オー。
お前の服のボタン、追跡の魔道具だろ?
あの二人に居場所バレバレだぞ?」
バニレはゆっくり俺から距離を取りつつそう言う。
ジャバとライムは既に窓から逃げようとしている。
『死の神』がいるからじゃない。
ドアの向こうにマリーとアニスが、
すんごい形相で立ってたからだ。
「さすがだなぁ、シノちゃん。
これは今までで最大の危機だわ」
俺の顔面から冷や汗が流れて止まらない。
シノちゃんは、二歩下がって。
「私は改めて来よう。
明日の昼にまた来る」
「おっぱいさんたちは?」
「おっぱいさん?
……『命の神』のことか。
いや、あれは。
まぁ、その呼び方、的確だが、怒られるぞ?」
「アンタがいるから、
なんか思ったまま口から出るんだよ」
「あー……。
それは、私のせいだな。
すまん。
ちなみに、私しか来ない。
後の皆は『闇の神』から何やったか聞き出している」
怒られるのか、おっぱいさん呼びは。
まぁ、怒られて当然か。
出るとこ出てて、括れるとこ括れてて。
デッ! なんだけどなぁ。
俺はシノちゃんの権能に引っ張られて、
ふと思ったことを口から出してしまう。
「それこそ、アンタの方が適役じゃねぇか?
拷問しなくても聞き出せるだろ」
「私の権能の前でも黙秘はできる。
『闇の神』は私を見たら口を閉じるんだ」
「そうかー。
じゃぁ、あの、は、早めに帰って貰えると嬉しい」
俺は外からものすごい力で押されるドアを全身で押さえながら、
シノちゃんに苦笑いする。
シノちゃんはひきつった顔で。
「……し、死ぬなよ?
トシオ」
シノちゃん、それは、約束できねぇ。




