第58話 その契約書にサインして死んでやるよ
元の世界に帰れない。
ショックではあるが、
全く手段がないと決まったわけじゃない。
そして恐らく、
俺が元の世界に帰ると不味い理由がある。
糞神だけの都合なのか、
それとも、ダンジョンマスターの都合なのか。
はたまた別の誰かか。
それに関連し俺が気になるのは、
糞神が『教会の聖女』にお告げをさせたことだ。
その内容が『トシ・オーを殺すと、世界が滅ぶ』。
俺を『ダンジョンバトルで殺さないといけない』理由がある、
だから普通に殺されないようにお告げをした、
と思っていたが。
こうなってくると、それだけではない気がする。
もう少し情報が欲しい。
しかし、それをさておいても。
「ざまぁない?
どっちの話だ?
糞神様よぉ?」
「くっ……!
今すぐ殺してやりたい!」
糞神が殺気を放ちながら俺を睨み付ける。
俺はそれを鼻で笑って。
「どうすんだ?
ダンジョンバトル抜きで殺し合うか?
俺はかまわねぇぞ?
こっちは『何でもあり』のほうがありがてぇ」
「そんなこと、
させるわけないでしょ?!
お前が『何でもあり』で好きにする?
この世界を滅ぼすつもり?!
ただでさえ、
あんなオーバーテクノロジー作って!
世界がめちゃくちゃになること必須でしょ!?」
糞神は必死の形相で『テクノマギ』を着込んで空を飛び、
魔物の大群をおう殺していく『聖女の右』たちを指差して叫ぶ。
俺もそこまで悪魔じゃない。
俺はこめかみを掻きつつ言う。
「まぁ、お世話になった国くらいは生かしとくか」
「止めなさい!
あー! もう!
お前は元の世界に帰ることを望む!
私はお前が契約書にサインして死ぬことを望む!
でも、お前の望みは私では叶えられない!
だから、その望みを『叶えらそうな神』に話を通す!
これでどう?
でも、その神が無理だって言ったとしても、
私にはどうにもできないからね」
糞神は必死だ。
だが、何でそこまで必死になる?
かなり気になる。
まぁ、俺は『テクノマギ』なんて、
ヤバいもの作るの手伝ったし。
あれだけでホント、国際情勢ひっくり返るし。
下手するとこの世界の文明焼失、
なんてのも現実的にありうるからな。
俺が頭に超が五つは付く危険人物なのは自覚してる。
「……必死すぎねぇか?
糞でも、神だよな?
お前」
「本当に腹が立つ言い方!
そう、その通り!
私は神です!
私は『闇の神』です!」
……ひっかかる。
何かは分からないが、
このひっかかりは無視して進めない。
『元の世界とのリンク』。
パーカー女の時に糞神が言ってた単語。
それをふと思いだした。
「……糞神は俺を、
元の世界から無理やりここへ連れて来たんだ。
俺の同意とかなしで拉致した。
いつかの『元の世界とのリンク』ってのは、
俺を管理する権限がお前に。
いや、この世界のどの神にもない、ってことか?」
糞神は目を見開いた。
「お前や大海のマスターがしつこく書かせようとした契約書。
あれは、俺の生殺与奪どころか、
俺の存在自体をこの世界のものにする同意書、
みたいなものか?
だから、大海のマスターはそれに同意して、
サインしたことがある。
あの時のあの台詞は、そう言うことか?」
契約書の内容を教えることはできないが、
『私は』この契約書と同じものにサインをした。
大海のマスターはそう言っていた。
糞神の目がみるみる細くなる。
「だから、
糞神は俺を『元の世界に帰せるか分からない』。
だって、俺のことはお前らの管理外だから。
だからと言って、
俺の元の世界に問い合わせたら、俺を拉致したことがバレる。
俺を殺しても、元の世界にバレる。
違うか?」
「……お前は、絶対殺す」
糞神は静かにそう言う。
しかし、実際に俺を殺そうとはしないから、
俺の読みはかなり当たりに近いようだ。
「神とは言えど、
誘拐はいかがなものかな?
いや、お前らからしたら、
人間なんてミジンコか何かだと思ってる?
だったら、
ミジンコ(俺)に噛まれたお前は何なんだろうな?
糞神ぃ?」
「……勝ち誇っても、
何も変わらない。
お前が元の世界に帰ったなら、
この世界は滅亡するの。
お前が契約書にサインせず死んでも、
この世界は滅亡するの。
私はこの世界のために、
ダンジョンバトルでお前を倒さないといけないの」
「自分がすべての元凶の癖に、
世界の為とか言うのか!
自己肯定感高いなぁ。
さすが神様」
糞神は顔を真っ赤にして怒りを露にするが、
俺にはただひたすら滑稽に見える。
「お前がそもそも、
『樹海』で死んでいれば!」
「あれなぁ。
俺も何で生きてたのかわからんのよな。
あてもなく森の中歩いてたら街道に出て、
街道沿いに歩いてたら町に出たんだよ」
「あり得ない!
そんなの、あり得ないから!」
そう。
何でか俺も分からない。
俺はあの時、
約三年前の『樹海』の真ん中を歩いて出られた。
後から分かったが、そんなこと普通はあり得ない。
俺が薬草採りで歩いてる『樹海』の浅い地域だとしても、
熊も猪もゴブリンもでる。
俺が落とされてたのは、『樹海』の最奥。
サイクロプスがかわいく思えるような魔物たちの巣だ。
当時の俺は無知だったから、
特に何とも思ってなかったが。
今から思うと何やってたんだ俺、と思うほどだ。
「でも、あそこで俺が死んでたら、
結局世界滅ぶんじゃねぇ?
契約書にサインしてなかったし」
「そ、それ……は……」
明らかに目が泳いでる糞神。
コイツもそこはかとなくダメだな。
俺は銃を魔法鞄に入れて笑う。
「なんとなく、分かってきた。
糞神、お前の望みはつまり、
『俺をこの世界に移籍させ、殺す』だな。
その割に、俺を何度も殺そうしてるけど」
「……本当に、腹が立つ!
お前を殺すのは造作もないの!
意識すらせずに殺せる!
でも、その瞬間何もかも終わるの!」
「なら、俺が今ここで、自殺なんてしたら?」
「ふざけないで!」
糞神が絶叫するが、俺は笑う。
ふざけてない。
心底本気だ。
糞神は俺を指差して叫ぶ。
「選びなさい!
この世界を滅ぼすか!
契約書にサインして死ぬか!」
「俺は元の世界に帰るんだよ」
俺はそう言いきって笑う。
そして、追加する。
「糞神、お前がダンジョンバトルで勝てば、
その契約書にサインして死んでやるよ。
でも、俺がダンジョンバトルをする条件は、
『俺が勝利したら俺がいた元の世界に、元の生活に戻す』!
それ以外でダンジョンバトルはしない!」
糞神が唸る。
俺がそこに追い討ちをかける。
「呼べよ?
『創世の神』を!
それで解決するんだろ?
じゃないと、ここで死んでやる!」




