第57話 汚ねぇ手で触ろうとすんじゃねぇよ
●トシオ サイド●
「んだ!?
お前なんなんだよ!?
チートじゃねぇか!?」
ジャージ男第一声が、これか。
「ショウさんを殺ったのも、
どうせ卑怯な手でやったんだろ!?」
俺は魔法鞄からおもむろに試作品の拳銃を取り出して、
ジャージ男へ発砲した。
リボルバー式、装填数六発なので、三発撃ち込む。
ジャージ男は驚きながらも、
なぜか無傷だ。
「お前!
お前! 人が! 話してる! 最中だろ!?」
「お前こそ、
戦場にいることを忘れてんのか?」
俺はもう一発撃つ。
怯えて身体を縮めるジャージ男。
しかし、弾丸はジャージに触れる寸前で弾かれている。
「あぶねぇ!」
「……固ぇ?
いや、ちがうな。
お前、なんか纏ってるのか」
「……言わねぇ」
ジャージ男はすねたように口を尖らす。
俺はもうコイツとはまともに話すことをやめた。
「わかった。
お前、『武人のダンジョン』のマスターか?」
「言わねぇ!」
「確か、オスマンサスより北の国のダンジョンだ。
お前、オスマンサスに攻めるとき、
途中あった他の国の町、襲ったか?」
「はぁ!?
そんなん、関係ないだろ!?」
俺はそれを聞いて腹を抱えて大笑いした。
コイツ、ダメだ。
今までのマスターの頭がよかったから、
コイツもかと思ってたんだが。
「あはは!
おい、聞いたかよ、糞神!
お前、こんなん飼ってんの?!
バカすぎだろ!?」
「バカじゃねぇ!
なんなんだよ!?」
俺は笑いながら周囲を指差す。
「糞神!
お前、まだいるんだろ?
お前の身体はウイルスでできてる。
小さい小さい菌を集めて固めて、
人の形にしてる。
汚ねぇ雑菌、バイ菌がお前の正体だ!
散って隠れてるけど、
まだいるんだろ?
ここに、いるんだろ?
これ見てみ、ヤバいから!」
糞神がジャージ男の横に満身創痍の姿を現し、
ジャージ男へ詰め寄る。
「アンタ!
その男の言う通り、
オスマンサスまで、どうやって来たの!?」
「神様?
いや、ショウさんから連絡受けて、
急いで調べて、魔物の武装確認して、
隊を編成……」
「そんなこと聞いてない!
オスマンサスまで、通り道にあった町は!
どうしたの!?
ここには私が喚んだけど、
その前はプニャードとかマンチャータとかにいたでしょ?
そこにいるのを私が喚んだんだから!」
「急いで、オスマンサスに着たから。
途中は、なにもしてない」
なにもしてない。
その一言で糞神が青ざめる。
俺はさらに大笑いする。
「そうか!
なにもしてないのか!
だったら、お前のダンジョンを保有してる国と、
その通りすぎた国の奴ら、
困るだろうなぁ?
ガチガチに武装した魔物が、
突然ダンジョンから出てきて、
隊列組んで真っ直ぐ自国を通り過ぎた!
よその国からは、
『ダンジョンの魔物を操って、他国に侵略した』って!
そう見られるだろうな!
もしくは、
『ダンジョンには人のような意思がある』ってバレるぞ?!
『ダンジョンはやはり人の敵』だって風潮が生まれる!
しかも、それを『教会』は肯定も否定もできず!
お前を援助することもできねぇはずだ!
それをやってた『教会の聖女』がいないから!
『聖女』は『聖女』でも、
糞神のとこの『聖女』は頭がよかったんだな!
もういねぇけど!
ははははは!」
糞神が俺の持ってる『氷の鏡』に飛びかかる。
俺は鏡の裏を見せた。
裏には手榴弾を二つくくりつけて、
手榴弾のピンは俺の身体にくくりつけている。
鏡を奪われたら爆発する寸法だ。
糞神が鏡に手を掛ける寸前で止まり、
俺を睨み付ける。
「汚ねぇ手で触ろうとすんじゃねぇよ」
「お前!」
糞神が吠えるのが心地い。
「ダンジョンバトル!
ダンジョンバトルしなさい!
こっちは残りのダンジョンマスター全員!
このバカをいれて五人!
お前は一人!
負けた方が勝った方に全部渡す!
資産も! 身柄も! 人権も!
財産も何もかも!」
「五人?
四人じゃねぇの?」
俺はそう言って、
『氷の鏡』を銃のグリップで殴り付けた。
「いやぁぁぁぁぁー!」
糞神の絶叫が響く中、
鏡が木っ端微塵に割れて『死の大地』に落ちる。
俺は、地面に落ちたガラスの破片へ台座を落とし、
手榴弾のピンを抜く。
それと同時に俺は駆け出し、手榴弾から離れる。
そして、三秒数えて、跳ぶ。
俺の後ろで手榴弾が爆発した。
俺は頭をかばって地面に転がる。
爆発が収まって、
急いで起き上がって鏡を見る。
鏡の欠片も何もかもなくなっていた。
鏡のあった辺りで呆然と膝をつく糞神と、
理解できてない様子で立ち尽くすのジャージ男が見えた。
二人とも無傷だ。
外傷は、だが。
俺がダンジョンバトルを終わった後に糞神が襲撃するのは予測できたが、
その目的は俺だと思っていた。
しかし、糞神は『氷の鏡』を寄越せと言う。
恐らく、『教会の聖女』は俺と同じように、
自分を『氷の鏡』で封印して身を護っていたものだと予想できる。
考えられるのは、
シェイプシフターに『聖女』に変身させる。
自分はどうにか意識だけ封印された身体から切り離して、
シェイプシフターとダンジョンをコントロールしてた。
しかし、そのシェイプシフターを『踏破の聖女』が殺した。
多分、シェイプシフターとマスターの意識がセットになってて、
シェイプシフターを元に戻すのに一度封印を解く必要がある。
だから、糞神は『氷の鏡』を欲しがっていた。
「ははははは!
あはは!
『聖女』のダンジョンコアは無事でも、
『聖女』自身は氷から出てこれないな!」
「死ね! 死ね! 死ねぇ!
お前なんか、死んでしまえ!」
声を裏返し叫ぶ糞神の声の、
なんと素晴らしいことか。
「お前!
ダンジョンバトルしなさい!」
「じゃぁ、ルールを話そう!
俺が四つダンジョンコアを破壊するれば、
俺の勝ち!
お前らは俺が『大海のダンジョン』のマスターからもらった『デコイのコア』を破壊すれば勝ち!
俺が勝ったら、俺も元いた世界の元の生活に帰せ!
お前らが勝ったら、なんでも契約してやるよ!」
「……四つ、コアを壊す?
お前一人で?」
「あぁ、そうだ。
ゲートを四つ、俺のところに開けろ。
お前には有利だろ?」
さっきまで睨んできていた糞神の顔が、
渋面に変わっている。
「……お前は元の世界に帰れない」
「は?」
「帰れないの。
だから、その勝利報酬は、出せない。
出せないものを報酬にすると、
契約の時に弾かれて成立しない」
……俺は糞神の顔をめがけて、
残りの二発の弾丸を撃った。
弾は糞神を通り抜ける。
なんの痛痒も与えられてないようだ。
糞神の顔はなにも変わらない。
俺はたんたんと言い放つ。
「じゃぁ、お前と契約する理由はねぇ。
俺を帰せる神としか、契約しねぇ」
「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目……」
糞神が壊れたようにそう言い続ける。
しかし、こちらの知ったことじゃない。
「『光の神』へ『文明』と『都市』の権能を返す」
「俺は金髪と『白の教会』どもが、
どうなろうが知ったことじゃねぇ」
「……お前もダンジョンを使えるようにしてあげる」
「それはつまり、糞神の部下になるってことだろ?
真っ平ゴメンだ!」
俺は糞神と睨み合う。
やっと、
この糞を同じ目線にまで引きずり下ろせた。
これが愉悦、と言うのだろうか。
俺は今、最高に『ハイ!』ってやつだ!




